この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の背景と目的
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD、以前は非アルコール性脂肪性肝疾患/NAFLDと呼ばれていたもの)は、飲酒以外の原因で肝臓に脂肪がたまる病気です。論文によれば、世界の成人の32%以上が該当し、2040年には有病率が55.4%を超えると予測されています。単純な脂肪蓄積から肝炎、線維化、肝硬変、さらには肝がんへと進む可能性があり、2型糖尿病やメタボリックシンドロームとも深く結びついていると報告されています。
一方で治療の選択肢は限られています。著者らは、2024年3月に米国食品医薬品局が承認したレスメチロムが初の治療薬であるものの、適応が特定の患者層に限られており、多くの患者の治療ニーズは満たされていないと指摘します。そのため臨床では現在も、食事の見直しや減量、運動といった生活習慣への介入が中心になっています。
そこで注目されているのが「腸‐肝軸」という考え方です。腸のバリア機能が弱まったり腸内細菌のバランスが崩れたりすると、細菌の成分や代謝物が血流に入り、門脈を通って直接肝臓に届いて炎症や線維化を進めると説明されています。プロバイオティクス(適切な量を摂ることで健康に役立つ生きた微生物)や、それに餌となる成分を組み合わせたシンバイオティクスは、この経路に働きかける手段として期待されてきました。ただし個々の臨床試験は菌株や用量、期間がばらばらで、結果を一般化しにくいという問題がありました。研究チームはこの点を踏まえ、最新の臨床データを網羅的に集めて統合し、これらの補助的な摂取が肝臓・代謝・全身の炎症の指標をどう変えるかを評価することを目的としました。
どのように調べたか
著者らは、PubMed、Web of Science、Embase、Cochrane Libraryの4つのデータベースを対象に、各データベースの開始時点から2026年6月9日までの論文を体系的に検索しました。画像検査や組織検査でMASLD/NAFLDと診断された18歳以上の患者を対象に、プロバイオティクスやシンバイオティクスを生活習慣の改善や通常の治療に上乗せした群と、プラセボを用いた対照群とを比較したランダム化比較試験(参加者をくじ引きのように割り付けて比べる試験)を選びました。他の原因による脂肪肝や、肝硬変・肝がん・肝移植歴のある患者を扱った研究は除いています。
検索で得られた1,856件から重複や無関係な記録を除き、最終的に30件の試験が解析に組み入れられました。発表年は2011年から2026年にわたり、イランで行われた研究が最も多く、ブラジル、中国、マレーシア、英国、イタリア、スペイン、インド、ウクライナ、セルビア、韓国などの研究も含まれます。使われた菌はラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、バチルス・コアグランスが中心で、1日あたりの量は2×10⁷から6.75×10¹⁰ CFU、介入期間は8週間から48週間(8週・12週・24週が多い)と幅がありました。同じ患者集団の複数論文は1件の研究として扱い、データが重複しないよう配慮したと述べられています。
評価した指標は、肝機能に関わる酵素(ALT、AST、GGT)、脂質(総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール)、血糖に関わる指標(空腹時血糖、インスリン、HbA1c、インスリン抵抗性の指標HOMA-IR)、炎症の指標(高感度CRP、TNF-α、IL-6)です。研究の質はコクランのバイアスリスク評価ツールで確認され、全体として方法論的な質は良好で、多くの領域でバイアスのリスクは低かったと報告されています。
報告された主な結果
肝機能の指標では、ALTがプラセボ群と比べて平均6.95 U/L低く(19件、1,180人)、ASTも平均4.38 U/L低いという結果でした(18件、1,096人)。いずれも統計的に意味のある差とされています。一方、GGTについては差が確認されませんでした(6件、271人)。
脂質では、総コレステロールに統計的に有意な低下が見られ(21件、1,299人)、HDLコレステロールは平均1.41 mg/dL上昇しました(15件、874人)。中性脂肪とLDLコレステロールについては、統合した段階では有意な差に至りませんでした。ただし著者らは、1件ずつ研究を除いて結果の安定性を確かめる感度分析において、中性脂肪では特定の1件を除くと研究間のばらつきがほぼ消えて有意な低下に転じたため、中性脂肪の当初の結果は頑健ではないと述べています。
血糖に関わる指標では、空腹時血糖が平均4.01 mg/dL低下しました(17件、1,012人)。インスリン、HbA1c、HOMA-IRについては有意な差は認められず、HOMA-IRは低下する傾向はあったものの統計的な基準には達しませんでした。炎症の指標では、TNF-αに有意な低下が見られましたが(8件、342人)、高感度CRPとIL-6では差が確認されていません。
研究間のばらつきが大きい指標については、地域、平均年齢、糖尿病の合併を除外したかどうか、介入期間、プロバイオティクスかシンバイオティクスかといった条件でグループ分けした解析も行われています。例えばALTとASTでは、アジアとヨーロッパの参加者で有意な低下が見られた一方、南米の参加者では有意な差が出ていません。また24週未満の介入では有意な低下が見られたのに対し、24週以上の群では有意差に至りませんでした。これらは統合結果のばらつきの背景を探るための分析として示されています。
この研究が示すこと
この解析は、MASLD/NAFLDの患者に対してプロバイオティクスやシンバイオティクスを通常のケアに上乗せした場合に、肝臓の酵素であるALTとAST、総コレステロール、HDLコレステロール、空腹時血糖、炎症の指標であるTNF-αにおいて、プラセボと比べて有意な変化が報告されたことを示しています。同時に、GGTや中性脂肪、LDLコレステロール、インスリン、HbA1c、HOMA-IR、高感度CRP、IL-6では明確な差が確認されておらず、効果は一様ではありません。
研究間のばらつきが大きい項目が多く、その背景には菌株や用量の違い、参加者の元々の検査値、食事管理の方法が試験ごとにそろっていないことなど、複数の要因があると著者らは説明しています。腸内環境に働きかけるという発想に生物学的な裏づけがあることを確認しつつ、どの条件でどの指標が動くのかを見極めるうえでの現時点の全体像を、この研究は整理して示したといえます。
著者:Jiang Y(School of Traditional Chinese Medicine, Hunan University of Chinese Medicine, Changsha, Hunan, China.)、Shi Y(School of Traditional Chinese Medicine, Hunan University of Chinese Medicine, Changsha, Hunan, China.)、Cao J(School of Traditional Chinese Medicine, Hunan University of Chinese Medicine, Changsha, Hunan, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiang Y, Shi Y, Cao J. Effects of probiotics and synbiotics on liver enzymes, glucose and lipid metabolism, and inflammatory markers in patients with metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in nutrition 2026-08-25. DOI: 10.3389/fnut.2026.1940415. 原著ライセンス:CC BY.