著者の所属・活動拠点の国は、マレーシアです。

掲載誌:Journal of Computing Research and Innovation

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:表示のない料理でアレルゲンを確認する

食物アレルギーでは、特定の食べ物に含まれる成分に体の免疫が反応し、皮膚の発疹や腹痛から、呼吸困難や意識を失うような重い全身反応(アナフィラキシー)まで、さまざまな症状が起こり得ます。著者らはこの研究で、木の実類、甲殻類などの貝・エビ・カニ類、乳、ピーナッツ、大豆、卵、小麦の7種類のアレルゲンに注目しました。

マレーシアを含む多くの国では、包装された食品に「含まれる」といった表示でアレルゲンを示すことが求められています。しかし著者らによると、レストランの料理やその場で作られる食べ物ではこうした情報が示されないことが多く、マレーシアの飲食店では客が店員に尋ねなければならない状況が一般的だといいます。

これまでにも料理の画像認識やアレルゲン検索の仕組みは研究されてきましたが、論文は、多くが料理の分類だけ、あるいはバーコード検索だけといった単一の機能にとどまり、パソコン上で動くものや利用者ごとのアレルギー情報に対応しないものもあったと指摘しています。そこで研究チームは、スマートフォンで撮影した料理写真をその場で判定し、利用者に合わせたアレルゲン情報と注意を表示するアプリの開発を目指しました。

何をどう作ったか

アプリの中心にあるのは、画像を見分ける人工知能のモデルです。研究チームは「EfficientNetB0」と呼ばれる、精度と計算の軽さのバランスがよく、スマートフォンのような処理能力の限られた機器に向くとされる画像認識モデルを採用しました。大量の一般画像であらかじめ学習済みのモデルを土台にし、その後半部分を料理画像向けに追加で学習させる方法をとっています。

学習用には、データ共有サイトのKaggleやレシピサイトから料理画像を集め、誤った画像や画質の低い画像、重複などを手作業で取り除いたうえで、バクラヴァ、ラクサ、ナシレマ、パッタイ、ロティチャナイ、サモサ、サテ、ティラミスの8種類の料理、計7,556枚を用意しました。このうち8割を学習に、1割を調整用に、残る1割(762枚)をモデルが一度も見ていない画像として最終的な性能確認に使いました。

重要な点として、このアプリは写真からアレルゲンそのものを検出するわけではありません。まず写真に写った料理が8種類のどれかを判定し、そのうえで料理ごとにあらかじめ対応づけたアレルゲン情報を表示する仕組みです。たとえばサテならピーナッツと大豆、ティラミスなら卵・乳・小麦といった対応が設定されています。対応づけと症状の説明には臨床的な情報源が用いられ、利用者が登録したアレルギーの情報に合わせて、起こり得る症状の注意が表示されます。判定の確からしさが70%を基準として扱われ、カメラ撮影と端末内の画像からの読み込みの両方に対応し、判定の履歴も保存されます。

主な結果

性能確認用の762枚の画像に対し、モデルは全体で96%の正解率を示したと報告されています。料理別では、パッタイが最も成績がよく、判定の正確さを表す指標がいずれも0.98〜0.99でした。著者らは、平たい米麺や砕いたピーナッツ、特徴的な茶色の色合いといった見た目の一貫性が見分けやすさにつながったと考察しています。他の7種類の料理も、同様の指標が0.91〜0.98の範囲にありました。

正しく判定できた枚数が最も少なかったのはロティチャナイで、サモサとバクラヴァの間ではわずかな取り違えが見られたとされています。また、学習の過程で、学習用データと調整用データの正解率がともに約96%付近で安定しており、著者らはこれを、モデルが学習用画像を丸暗記するのではなく、未知の画像にも通用する特徴を学べていることを示すものと解釈しています。

実際のスマートフォン(Samsung Galaxy A52)での試験では、10枚の画像について、モデルが判定を出すまでの時間は平均約99ミリ秒、画像の前処理や結果表示を含めた全体の待ち時間は平均約130ミリ秒でした。研究チームは、目立った遅れなくその場で料理を判定できると述べています。さらに、外部の利用者による8項目の動作確認(登録、ログイン、撮影や画像の読み込みなど)はすべて想定どおりに動作したと報告されています。

この研究が示すこと

この研究は、料理名の画像判定と、料理ごとのアレルゲン情報、利用者に合わせた症状の注意を一つのスマートフォンアプリにまとめ、実機で素早く動作することを示したものです。原材料の表示がない飲食の場面で、アレルギーのある人が料理を選ぶ際の手がかりを手元で得られるようにするという考え方を、8種類の料理を対象に具体的な形で示した点に、この研究の意味があるといえます。

原著論文の著者・所属:Intan Nur Syahamah Tajul Ariffin(Faculty of Computer and Mathematical Sciences, Universiti Teknologi MARA (UiTM), 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)、Hana Fakhira Almarzuki(Faculty of Computer and Mathematical Sciences, Universiti Teknologi MARA (UiTM), 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)、Khyrina Airin Fariza Abu Samah(Faculty of Computer and Mathematical Sciences, Universiti Teknologi MARA (UiTM) Melaka Branch, Jasin Campus, 77300 Merlimau, Melaka, Malaysia)、Tajul Rosli Razak(Faculty of Computer and Mathematical Sciences, Universiti Teknologi MARA (UiTM), 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)、Nur Aina khadijah Adnan(Faculty of Computer and Mathematical Sciences, Universiti Teknologi MARA (UiTM) Johor Branch, Segamat Campus, 85000 Segamat, Johor, Malaysia)、Hafizatul Hanin Hamzah(Faculty of Computer and Mathematical Sciences, Universiti Teknologi MARA (UiTM), 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Intan Nur Syahamah Tajul Ariffin, Hana Fakhira Almarzuki, Khyrina Airin Fariza Abu Samah, et al. Mobile Food Image Classification with Allergen Information using EfficientNetB0. Journal of Computing Research and Innovation 2026-09-01. DOI: 10.24191/jcrinn.v11i2.612. 原著ライセンス:CC BY.