この研究は、マレーシア、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Applied Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
オメガ3系脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸を多く含む油や、植物由来のポリフェノール類は、加工や保存の過程で酸化や熱によって劣化しやすく、そのまま食品に配合するのが難しいという課題があります。そこで広く使われているのが噴霧乾燥(スプレードライ)による微粒子化で、乳化液を熱風中に霧状に噴射して瞬時に乾かし、油を担体(かべ材)の膜で包んだ粉末にする手法です。ただし、性質の異なる成分を一つの液に混ぜ合わせると乳化液が不安定になったり、乾燥中に材料が装置の壁に付着したりして、粉末として回収できる割合が下がることがあります。
著者らは、サチャインチ(Plukenetia volubilis)の種子から搾った油に、センシンレン(Andrographis paniculata)とモリンガ(Moringa oleifera)の葉から得た水抽出液を組み合わせた乳化液を対象に、噴霧乾燥の条件が粉末の回収率や性質にどう影響するかを予備的に調べました。あわせて、限られた実験データを使って二種類の機械学習手法がどの程度データ内部の傾向を再現できるかを比較することも、副次的な目的として掲げています。著者らは本研究を探索的なスクリーニング(ふるい分け)と位置づけ、最適条件の確定や仕組みの解明を目指したものではないと明記しています。
調べ方
著者らは、油と水の比率、担体の種類、担体の配合量、乾燥機の入口温度という四つの条件を取り上げ、一度に一つの条件だけを変えて他は固定する「OFAT(one-factor-at-a-time)」と呼ばれる逐次的な進め方を採りました。各段階で粉末回収率が最も高かった条件を次の段階へ引き継いでいく方式です。この設計は個々の条件の傾向を見るには適していますが、条件同士の組み合わせ効果(交互作用)は評価できないと著者らは断っています。
得られた粉末については、重量から算出する回収率と水分量を測定し、顕微鏡で粒子の外観を観察しました。さらに、代表的な粉末について抗酸化活性(DPPH法)、総ポリフェノール量、総フラボノイド量という三つの植物化学成分の指標を測定しています。機械学習の部分では、30件の観測データを使い、サポートベクターマシン(SVM)による回帰と決定木回帰(DTR)の二手法を比較しました。対象としたのは上記三つの植物化学成分の指標のみで、回収率と水分量は測定値として記述するにとどめ、モデルの予測対象には含めていません。
報告された主な結果
油と水の比率については、検討した四水準のうち1対9で最も高い平均回収率が得られ、比率を上げても下げても回収率が単純に改善するわけではない非単調な傾向が示されました。担体の比較では、マルトデキストリンよりもアラビアガムのほうが回収率が高く、その差は約5ポイントでした。アラビアガムの配合量を20%から25%に増やすと回収率は77.6%から93.8%へと16.2ポイント上昇し、入口温度は140°Cのほうが160°Cより3.8ポイント高い回収率を示しました。これらの段階ごとの差はいずれも統計的に有意でしたが、著者らは使用した装置と条件の範囲に限られた結果であり、普遍的な最適値ではないと繰り返し述べています。
こうして選ばれた条件(油と水の比率1対9、アラビアガム25%、入口温度140°C)で作った粉末では、回収率が93.8%、水分量が1.00%でした。顕微鏡観察では、表面がおおむね保たれた球状の粒子が主に見られました。植物化学成分の測定値は、抗酸化活性が97.58 mg AAE/g、総ポリフェノール量が16.15 mg GAE/g、総フラボノイド量が10.87 mg QE/gと報告されています。
機械学習の比較では、三つの成分指標すべてでSVMが決定木回帰よりも高い決定係数(R²)を示しました(SVMは0.734〜0.858、決定木回帰は0.344〜0.562)。ただし著者らは、これはデータセット内部での滑らかな補間のしやすさを反映した結果にすぎないと位置づけています。データ数が30件と少なく、テスト用に回されたのはおよそ6件だけであるため指標は不安定であること、外部データによる検証を行っていないこと、乳化液の粘度や液滴径、ゼータ電位といった重要な物性値が入力に含まれていないことを挙げ、実用的な予測モデルとして使えるものではないと明言しています。
この研究が示すこと
著者らはこの研究の位置づけを慎重に限定しています。測定したのはあくまで「粉末として回収できた割合」であり、油がどれだけ粒子の内部に保持されたかを示す封入効率ではありません。表面油や総油量は測定しておらず、顕微鏡で見た球状の外観も油の封入を証明するものではないと述べています。また、酸化の進み具合を示す指標も測っていないため、回収率のデータから油の酸化や熱による劣化について結論を出すことはできないとしています。
それでもこの報告は、複数の植物由来成分を一つの粉末にまとめるという実務的な課題に対して、どの条件がどちらの方向に効きそうかという出発点を示しています。著者らは、今後は条件を組み合わせて評価する多因子実験や、粘度・液滴径・表面油・酸化安定性といった物性の測定を通じた検証が必要だとし、本研究はそのための優先課題を整理したものだと結んでいます。
著者:Siti Nursyazweena Zul-kharnain(EMZI‐UiTM Nanoparticles Colloids & Interface Industrial Research Laboratory (NANO‐CORE), Faculty of Chemical Engineering, Universiti Teknologi MARA, Cawangan Pulau Pinang, Permatang Pauh Campus 13500 Permatang Pauh Pulau Pinang Malaysia)、Amiesha Nur Shaheerah Mazlan(EMZI‐UiTM Nanoparticles Colloids & Interface Industrial Research Laboratory (NANO‐CORE), Faculty of Chemical Engineering, Universiti Teknologi MARA, Cawangan Pulau Pinang, Permatang Pauh Campus 13500 Permatang Pauh Pulau Pinang Malaysia)、Mohamad Syafiq Abdul Wahab(EMZI Holding Sdn. Bhd., Tingkat 1, EMZI HQ, Menara Kompleks SP Plaza, Jalan Ibrahim Sungai Petani Malaysia)、Rasyidah Alrozi(EMZI‐UiTM Nanoparticles Colloids & Interface Industrial Research Laboratory (NANO‐CORE), Faculty of Chemical Engineering, Universiti Teknologi MARA, Cawangan Pulau Pinang, Permatang Pauh Campus 13500 Permatang Pauh Pulau Pinang Malaysia)、Anca Awal Sembada(Research Center for New and Renewable Energy, ITB Jalan Ganesa 10 Bandung Indonesia)、Adi Izhar Che Ani(Faculty of Electrical Engineering Universiti Teknologi MARA Cawangan Pulau Pinang, Permatang Pauh Campus 13500 Permatang Pauh Pulau Pinang Malaysia)、Mohd Othman Halim(EMZI Holding Sdn. Bhd., Tingkat 1, EMZI HQ, Menara Kompleks SP Plaza, Jalan Ibrahim Sungai Petani Malaysia)、Nur Qistina Ariffin(EMZI‐UiTM Nanoparticles Colloids & Interface Industrial Research Laboratory (NANO‐CORE), Faculty of Chemical Engineering, Universiti Teknologi MARA, Cawangan Pulau Pinang, Permatang Pauh Campus 13500 Permatang Pauh Pulau Pinang Malaysia)、Mohamed Syazwan Osman(EMZI‐UiTM Nanoparticles Colloids & Interface Industrial Research Laboratory (NANO‐CORE), Faculty of Chemical Engineering, Universiti Teknologi MARA, Cawangan Pulau Pinang, Permatang Pauh Campus 13500 Permatang Pauh Pulau Pinang Malaysia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Siti Nursyazweena Zul-kharnain, Amiesha Nur Shaheerah Mazlan, Mohamad Syafiq Abdul Wahab, et al. Exploratory Assessment of Spray‐Drying Parameters and Preliminary Machine‐Learning Modelling of Plukenetia volubilis Oil‐Herbal Extract Emulsions. Applied Research 2026-09-07. DOI: 10.1002/appl.70190. 原著ライセンス:CC BY.