鶏肉の生産現場では、成長を促す目的で飼料に抗生物質を添加する方法が長く使われてきました。しかし、薬剤耐性菌の問題などを背景に、抗生物質に頼らない飼育法への関心が高まっています。その代替候補として近年注目されているのが「プロバイオティクス」、つまり健康に良い影響を与えるとされる微生物です。今回紹介する研究では、孵化前の卵の中にプロバイオティクスを投与する「卵内投与(in-ovo)」という手法が、抗生物質による成長促進効果に匹敵する結果をもたらすかどうかが調べられました。
研究でわかったこと
研究チームはまず、孵化への悪影響が出ない菌株と投与量を選ぶための予備試験を行いました。その結果をもとに、2種類のプロバイオティクスの組み合わせが選ばれています。ひとつは「Prob1」と呼ばれる、バチルス・サブチリスとエンテロコッカス・フェシウムの2菌株混合、もうひとつは「Prob2」と呼ばれる、エンテロコッカス・フェシウム、ペディオコッカス・アシディラクティシ、ビフィズス菌の一種、ロイテリ菌の4菌株混合です。これらは孵卵18日目の卵に、1個あたり1.5×10⁷ CFU(生菌数の単位)という量で投与されました。
孵化後のヒナは、無添加の対照群(CTRL-)、抗生物質(バシトラシン・メチレン・ジサリチル酸塩)を飼料に添加した対照群(CTRL+)、そしてPromoted1・Prob2を卵内投与し抗生物質を含まない飼料で育てた2つの試験群、合計4つのグループに分けて飼育されました。各グループは18ペン(雌雄それぞれ9ペン、1ペンあたり45羽)という規模で比較されています。
成長性能(最終体重、飼料摂取量、飼料効率)については、抗生物質添加群も卵内プロバイオティクス投与群も、無添加の対照群と比べて統計的に明確な差は見られなかったと報告されています。つまり、この実験条件下では、抗生物質もプロバイオティクスも、いわゆる「成長促進剤」としての効果は確認されなかったということです。
一方で、いくつか注目すべき違いも見られました。Prob1群では、抗生物質添加群と比べて胸肉の収量が増加したことが示されています。またProb1群の胸肉は、抗生物質添加群と比べて最終pHが高く、肉の硬さの指標であるせん断力が低かった(つまりやわらかい傾向があった)と報告されています。さらに、両方のプロバイオティクス処理群で、肝臓の脂質過酸化の指標であるマロンジアルデヒド濃度が、両対照群と比べて低下しており、酸化ストレスの状態が改善している可能性が示唆されています。加えてProb2群では、飼育10日目の時点で盲腸内の酪酸濃度(短鎖脂肪酸の一種で腸内環境に関わる物質)が増加していましたが、この効果は出荷時期まで持続しなかったとされています。
研究チームは、卵内投与したプロバイオティクスも飼料添加の抗生物質も、この実験条件下では古典的な意味での成長促進剤としては働かなかったものの、卵内プロバイオティクスは鶏の健康や抵抗力を支える可能性があると総括しています。中でもProb2の4菌株混合は、成長性能に影響を与えることなく、生理学的・腸内細菌関連の指標において最も一貫した効果を示したとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は管理された実験条件のもとで行われたものであり、著者ら自身も、実際の商業生産の現場でさらに検証する必要があると述べています。今回得られた結果は、あくまで特定の菌株・投与量・飼育条件のもとでの一つの研究成果であり、卵内プロバイオティクスが抗生物質の代替として確立されたと結論づけるものではありません。今後、より大規模な、あるいは実際の生産現場に近い条件での追試が待たれる段階と言えそうです。
まとめ
今回の研究では、孵化前の卵にプロバイオティクスを投与する手法が、成長性能そのものを大きく押し上げることはなかったものの、肉質や肝臓の酸化ストレス指標、腸内発酵の一部指標において、抗生物質添加群とは異なる特徴的な変化をもたらす可能性が示されました。抗生物質に頼らない飼育法を模索するうえで、卵内プロバイオティクスがどのような役割を果たせるのか、今後の研究の展開が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ブロイラー飼料における抗生物質成長促進剤代替としての卵内プロバイオティクスの可能性:成長性能、肉質、盲腸発酵および酸化ストレス指標への影響(ポウルトリー・サイエンス・2026年04月)