この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Microbiology Spectrum
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
プロバイオティクスは、発酵食品や飲料に含まれることの多い有益な細菌で、摂取されると腸内に定着していくつかの利点をもたらすと説明されています。一方で抗生物質は、細菌を殺すには不十分な低い濃度であっても、細菌に選択圧をかけて薬剤耐性の出現を招くことがあります。こうした現象は病原性の細菌ではよく研究されてきましたが、プロバイオティクスに対する影響については理解が進んでいないと著者らは述べています。
そこで研究チームは、広く用いられているプロバイオティクスであるラクティプランティバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)を対象に、米国で処方数の多い抗生物質の一つであるドキシサイクリンへ低濃度でさらしたときに、この菌の適応度が変化するかどうかを調べることを目的としました。
方法と主な結果
用いられたのは適応進化実験(experimental evolution/adaptive laboratory evolution)と呼ばれる手法です。これは、特定の条件下で細菌を長期間にわたって培養し続け、世代を重ねる中で生じる変化を追跡するやり方を指します。研究チームは、菌の増殖を止めるのに必要な最小の濃度(最小発育阻止濃度)の10分の1にあたるドキシサイクリンの存在下で培養を続け、およそ5か月、世代数にして約1,000世代にわたって観察しました。
その結果、元の培養と比べて、低濃度のドキシサイクリンにさらされた L. plantarum は時間とともに約4倍という穏やかな耐性を獲得したと報告されています。さらに抗生物質を取り除いて実験を続けたところ、この耐性はおよそ50世代という短い間に急速に失われました。著者らは、いったん獲得された耐性は固定されたものではないことを示唆すると述べています。
耐性が獲得され、その後失われる仕組みを調べるため、全ゲノムシークエンシング(細菌のDNA配列全体を読み取る手法)が行われました。1,000世代目のドキシサイクリン処理培養では、15の遺伝子にまたがる16種類の一塩基変異が特定されました。このうち2つは rpsJ 遺伝子にあり、30Sリボソームサブユニットを構成するリボソームタンパク質S10をコードする遺伝子で、アミノ酸が置き換わる変異(H56YとS94N)でした。この遺伝子は、ドキシサイクリンやチゲサイクリンを含むテトラサイクリン系薬剤への耐性と関連する変異を持つことが、以前から報告されていると説明されています。保存しておいた350世代目と750世代目の細胞を解析すると、rpsJ 変異のうちH56Yは実験の早い段階で現れており、中間の世代では57番目の位置の変異(K57M、K57I)も確認されました。これらの多くはコロニーPCRとサンガー法による塩基配列解読でも裏づけられています。重要な点として、元の培養や同世代の対照では rpsJ 変異は観察されませんでした。
この報告が示すこと
ドキシサイクリンはタンパク質の翻訳過程を妨げる働きを持つため、翻訳に重要なタンパク質をコードする rpsJ 遺伝子の変異が、観察された穏やかな耐性の背景にあるのではないかと著者らは考えています。
この研究は、殺菌に至らないほど低い濃度の抗生物質であっても、有益な細菌に耐性の獲得をもたらしうること、そして選択圧が取り除かれればその耐性が速やかに失われうることを、実験的な進化の記録として示しています。プロバイオティクスと抗生物質の関わりを考えるうえでの一つの知見として位置づけられます。
著者:Bryce Pierce(Department of Biological and Environmental Sciences, Samford University)、Olivia Love Harrison(Department of Biological and Environmental Sciences, Samford University)、Brooks Floyd(Department of Biological and Environmental Sciences, Samford University)、Agnes Moriarty(Department of Biological and Environmental Sciences, Samford University)、Kwadwo Antwi‐Fordjour(Department of Mathematics and Computer Science, Samford University)、Robert A. Hataway(Department of Biological and Environmental Sciences, Samford University)、B. Bennett(Department of Biological and Environmental Sciences, Samford University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bryce Pierce, Olivia Love Harrison, Brooks Floyd, et al. Gain and loss of acquired doxycycline resistance in Lactiplantibacillus plantarum : an adaptive laboratory evolution study. Microbiology Spectrum 2026-09-18. DOI: 10.1128/spectrum.00892-26. 原著ライセンス:CC BY.