著者の所属・活動拠点の国は、エジプトです。
掲載誌:The North African Journal of Food and Nutrition Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
脂肪肝、特に食べ過ぎや運動不足を背景に起こる「代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)」は世界で最も多い慢性肝疾患とされています。肝臓に脂肪がたまり、インスリンの効きが悪くなり、炎症が続くことで、対処が遅れると脂肪肝炎や線維化、さらには肝硬変にまで進むことがあると考えられています。近年、腸内環境を整えるプロビオティクス(生きた有用菌)が、腸と肝臓のつながり(腸肝軸)を介してこうした変化を和らげる可能性があるとして注目されてきました。今回、エジプトのアレクサンドリア大学(Faculty of Agriculture, Saba Basha)の研究グループが、複数の乳酸菌・ビフィズス菌を組み合わせたヨーグルトを高脂肪食ラットに与える実験を行い、その結果を報告しました。
どのような菌を選び、どう実験したのか
研究チームはまず、乳由来の11種類のプロビオティクス候補株について、胃酸を想定した低pH耐性、胆汁酸耐性、フェノール耐性などを調べるスクリーニングを行いました。その結果、Lactobacillus rhamnosus(LGG)、Lactobacillus plantarum(Lp-115)、Lactobacillus acidophilus(La-5)、Bifidobacterium lactis(BL-04)の4株が、酸・胆汁酸・フェノールいずれの条件でも安定して生育できることが確認され、これらがヨーグルト作りに選ばれました。
牛乳をベースに、これら4株を単独で加えたヨーグルト(それぞれT1〜T4)と、4株を均等に混ぜた「多菌種ヨーグルト」(T5)、菌を加えない対照ヨーグルト(T0)の計6種類を試作し、市販スターター菌と合わせて発酵させました。まず20名のパネリスト(男性11名・女性9名)による7段階の官能評価が行われ、色・味・風味・食感・総合的な好ましさなどすべての項目で、T5(多菌種ヨーグルト)が他のどの製剤よりも高い評価を得たと報告されています。
次に、生後4週の雄ウィスターラット48匹を8群(各6匹)に分け、2週間は通常食を与えながら各群に割り当てたヨーグルトまたは水を経口投与し、その後は高脂肪食(パーム油を加えて脂肪含有量を約40%まで高めた食餌)に切り替えて、合計12週間にわたり同じヨーグルトの投与を続けました。比較対象として、通常食のみの陰性対照群、高脂肪食に水だけを与える陽性対照群、高脂肪食に菌無添加ヨーグルト(T0)を与える群も設けられています。体重、血液中の脂質・血糖・インスリン・肝機能の指標、肝臓の組織像、腸内細菌の構成が調べられました。
何がわかったのか
高脂肪食のみを与えた陽性対照群では、総コレステロール・中性脂肪・LDLコレステロールが陰性対照群よりそれぞれ約2倍・3倍・7倍に上昇し、HDLコレステロールは約半分に低下していました。肝臓の重量も陰性対照群より約85%増加し、肝機能の指標であるALT(肝逸脱酵素)の上昇や、組織観察では肝細胞の変性・壊死・炎症細胞浸潤といった脂肪肝に典型的な変化がみられたとされています。菌を含まない対照ヨーグルト(T0)ではこうした変化はほとんど改善しなかった一方、単一株のプロビオティクスヨーグルト(T1〜T4)ではいずれも一定の改善が報告されています。
そのなかで、4株を組み合わせた多菌種ヨーグルト(T5)を与えた群が最も顕著な変化を示しました。この群では総コレステロールが85.1 mg/dL、中性脂肪が122.3 mg/dL、LDLが25.8 mg/dL、空腹時血糖が28.6 mg/dL、インスリンが0.84 µIU/mL、ALTが36.9 U/Lまで低下し、いずれも陽性対照群より大きく改善して、通常食の陰性対照群に近い値になったと報告されています。肝臓の重量も陽性対照群に比べて約40%減少し、肝臓の組織像でも肝細胞が規則正しく配列し、健康な肝細胞や明瞭な中心静脈が観察されたとされています。さらに腸内細菌を調べたところ、高脂肪食群で増えていた大腸菌群や黄色ブドウ球菌の数がT5群では抑えられ、腸内の総生菌数はむしろ高かったことも報告されています。
この研究をどう読むか
この実験はラットを用いたものであり、ヒトでの効果を直接示したものではありません。また、対象は健康なラットに高脂肪食を負荷して脂肪肝の状態を作り出したモデルであり、ヒトの脂肪肝の病態や食生活を完全に再現しているわけではない点にも留意が必要です。研究チーム自身も、この多菌種ヨーグルトを「MASLDの予防や早期対策のための食品ベースの一つの選択肢」として位置づけており、特定の治療法に置き換わるものとは述べていません。今回示された数値の改善は一つの動物実験の結果であり、ヒトでの安全性や有効性を確かめる研究の蓄積が今後さらに必要になると考えられます。
まとめ
今回の研究では、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus acidophilus、Bifidobacterium lactisの4菌種を組み合わせたヨーグルトが、高脂肪食を与えたラットにおいて血中脂質・血糖・肝機能・肝臓の組織像・腸内細菌のバランスの各面で改善傾向を示したと報告されています。ヨーグルトという日常的な食品にプロビオティクスを組み合わせることで、脂肪肝対策につながる可能性が示唆される結果ですが、これはあくまで一つの動物実験の知見であり、ヒトでの効果を断定するものではない点を踏まえて読む必要があります。
原著論文の著者・所属:Mohamed Sameh Sallam(Department of Food Science, Faculty of Agriculture (Saba Basha), Alexandria University, Alexandria, Egypt)、Eman Hussein Ayad(Department of Food Science, Faculty of Agriculture (Saba Basha), Alexandria University, Alexandria, Egypt)、Mohamed Ahmed Gomaa(Department of Food Science, Faculty of Agriculture (Saba Basha), Alexandria University, Alexandria, Egypt)、Saeid Mohsen Darwish(Department of Food Science, Faculty of Agriculture (Saba Basha), Alexandria University, Alexandria, Egypt)、Marwa Gamal Allam(Department of Food Science, Faculty of Agriculture (Saba Basha), Alexandria University, Alexandria, Egypt)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Mohamed Sameh Sallam, Eman Hussein Ayad, Mohamed Ahmed Gomaa, et al. Hepatoprotective Potential of Probiotic-Enriched Stirred Yoghurt Against Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease in a Rat Model. 北アフリカ食品栄養研究ジャーナル (2026). DOI: 10.51745/najfnr.10.22.1-14. 原著ライセンス: cc-by.