著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Science and Human Wellness
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
小麦を製粉する際に出るふすま(表皮部分)には食物繊維が豊富に含まれていますが、そのままでは水を吸いにくく粒が粗いため、食品への添加には扱いにくい面があるとされています。今回紹介する研究は、この小麦ふすまの不溶性食物繊維(IDF)を乳酸菌で発酵させることで性質がどう変わるか、そしてその改質した食物繊維を高脂肪食のラットに与えた場合に体にどのような変化が見られるかを調べたものです。
研究チームには、Henan University of Technology(中国・鄭州)の研究者らをはじめ、Food Laboratory of Zhongyuan(中国・漯河)、Henan Houyi Industrial Group、Zhengzhou Engineering Research Center of Bioactive Peptidesに所属する研究者らが名を連ねています。
発酵によって食物繊維の性質はどう変わったのか
研究ではまず、Lactobacillus plantarumとLactobacillus acidophilusという2種類の乳酸菌を1対1の割合で混合し、小麦ふすまを発酵させました。この発酵処理を行ったふすまから取り出した不溶性食物繊維(論文中ではC-IDFと表記)と、発酵させていないふすま由来の不溶性食物繊維(U-IDF)を比較したところ、いくつかの物理的・機能的な性質に違いが見られたと報告されています。
具体的には、C-IDFは粉体としての見かけの密度(緩め密度)が発酵前と比べて10.81%、タップ密度(軽く振動を与えて詰めた際の密度)が4.03%、それぞれ有意に低下していました。一方で、水や油を保持する能力、亜硝酸イオンを吸着する能力、陽イオンを交換する能力については、それぞれ13.43%、10.19%、14.39%、有意に高まったとされています。これらの変化は、発酵によって食物繊維の構造がより多孔質でかさ高いものに変わったことを示唆していると考えられます。
高脂肪食のラットで見られた変化
次に研究チームは、高脂肪食を与えたラットにC-IDFを投与する実験を行いました。高脂肪食のみを与えた群と比べ、C-IDFを与えた群では体重、総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、そして酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒド(MDA)の値が有意に低下したと報告されています。また、肝機能の指標であるALT・AST(いずれも肝細胞の損傷時に上昇する酵素)の活性も有意に低下していました。
一方、便に含まれる脂肪の量と、抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の量はC-IDF群で有意に増加し、善玉コレステロールと呼ばれるHDLコレステロールや、抗酸化酵素であるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性にも上昇傾向が見られたとされています。遺伝子レベルでは、肝臓の脂質代謝に関わるFasnやPparaという遺伝子の発現が上昇し、炎症に関わるMyD88やNF-κBという遺伝子の発現は低下していました。加えて、肝臓と大腸の組織を顕微鏡で観察した結果からも、C-IDFによる保護的な変化が確認されたとしています。研究チームは、これらの結果からC-IDFがFasn/Ppara経路やTLR4/MyD88/NF-κB経路と呼ばれる体内のシグナル伝達の仕組みに働きかけている可能性を挙げています。
この研究をどう読むか
今回の研究は、乳酸菌による発酵という加工処理を加えることで、小麦ふすまという副産物由来の食物繊維の物理的性質や、動物実験における脂質関連の指標に変化が生じることを示したものです。ただし、これはラットを用いた動物実験の結果であり、ヒトで同様の効果が得られるかどうかは別途の検証が必要です。また、この研究は一つの論文で示された知見であり、それだけで結論が確定したわけではない点にも留意が必要です。
まとめ
小麦ふすまという身近な食品副産物も、発酵という加工技術によって食物繊維としての物理的な性質が変化し、動物実験では脂質代謝に関わる複数の指標に違いが見られたことが、今回の研究から報告されました。今後、こうした改質食物繊維が食品開発にどう活用されていくのか、さらなる研究の展開が注目されます。
原著論文の著者・所属:Aimei Liao(Henan Provincial Engineering Laboratory of Preservation and Breeding of Industrial Microbial Strains, School of Biological Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450000, China)、Jie Zhang(Henan Provincial Engineering Laboratory of Preservation and Breeding of Industrial Microbial Strains, School of Biological Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450000, China)、Zhirui Ding(Henan Provincial Engineering Laboratory of Preservation and Breeding of Industrial Microbial Strains, School of Biological Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450000, China)、Long Pan(Henan Provincial Engineering Laboratory of Preservation and Breeding of Industrial Microbial Strains, School of Biological Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450000, China)、Yinchen Hou(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Jianzheng Li(Henan Houyi Industrial Group Co., Ltd., Zhengzhou 450000, China)、Quanping Liu(Zhengzhou Engineering Research Center of Bioactive Peptides, Zhengzhou 450000, China)、Jihong Huang(Henan Provincial Engineering Laboratory of Preservation and Breeding of Industrial Microbial Strains, School of Biological Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450000, China)、Ting Xiao(Henan Provincial Engineering Laboratory of Preservation and Breeding of Industrial Microbial Strains, School of Biological Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450000, China)、Ming Hui(Henan Provincial Engineering Laboratory of Preservation and Breeding of Industrial Microbial Strains, School of Biological Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450000, China)、Peng Li(Henan Provincial Engineering Laboratory of Preservation and Breeding of Industrial Microbial Strains, School of Biological Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450000, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Aimei Liao, Jie Zhang, Zhirui Ding, et al. Modified wheat bran insoluble dietary fiber ameliorates lipid metabolism in high fat diet rats. フードサイエンス・アンド・ヒューマン・ウェルネス (2026). DOI: 10.26599/fshw.2025.9250503.