この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、心血管の健康や認知機能との関わりがよく知られています。一方で、運動パフォーマンスにどう関わるのかは、まだ十分に明らかになっていないと研究チームは述べています。想定されている道筋の一つが赤血球の膜の変化です。オメガ3脂肪酸は赤血球の膜に取り込まれるため、膜のしなやかさや血液の流れやすさ、酸素の運搬に影響しうる、というものです。ただし、膜の変化が実際の機能にどうつながるかについての知見は限られている、というのが著者らの整理です。
女性アスリートは、競技面と月経に関わる健康面の両方で関心が持たれる集団でありながら、研究が少ないと著者らは指摘します。そこで本研究は、DHAとホエイタンパク質を長期間摂取することで、赤血球のオメガ3の状態が改善するか、酸素運搬に関わる血液の指標が変化するか、そしてそれがパフォーマンスや月経前の症状の改善につながるかを確かめることを目的としました。なお月経症状とホルモンの値は、探索的な副次的評価項目として扱われています。
調べ方
対象はドイツの二つの地域クラブに所属するセミプロの女子サッカー選手38名です。無作為割り付けは行わず、菜食などの食事の好みに配慮し、また継続しやすさを高めるために、研究用の製品を摂取する意欲の高い選手を介入群に割り当てました。介入群20名は、藻類由来のDHAをカプセルで1日1,000ミリグラムと、ホエイプロテイン12グラムを4カ月間毎日摂取しました。対照となる参照群18名はサプリメントを摂取せず、プラセボも用いていません。このため本研究は、DHAとホエイの組み合わせを「摂取しない場合」と比べたものであり、DHA単独の効果とホエイタンパク質の効果を区別する設計ではないと著者らは明記しています。両群とも普段の食事を維持し、追加のオメガ3摂取は控えるよう指示されました。
測定は開始前、2カ月後、4カ月後の3時点で行われました。血液からは、赤血球膜の脂肪酸組成にもとづく「HS-オメガ3インデックス」(赤血球に含まれるオメガ3の割合を示す指標)と、脂肪酸の融点から膜の硬さの目安を推定する「リポフィリック指数」、さらに血液の各種指標や炎症に関わる物質を調べています。パフォーマンス面では、30メートル走、その場で沈み込んでから跳ぶ垂直跳び、400メートルトラックでの漸増走行テストによる「個人無酸素性作業閾値」(乳酸の蓄積から推定される、持久的に走り続けられる強度の目安)を測定しました。ホルモンの変動による影響を抑えるため、基礎体温などによる周期の記録と尿中の黄体形成ホルモン検査を組み合わせて周期を追跡し、測定はすべて黄体期中期、または経口避妊薬を使用している選手では実薬服用期に合わせて実施されています。38名のうち最後まで参加したのは27名で、脱落理由は日程の都合、けが、介入とは無関係の体調不良でした。
主な報告結果
開始時点のオメガ3の状態は、全体の平均で5.08パーセントと、臨床的に望ましいとされる8〜11パーセントの範囲を下回っていました。これは他のアスリート集団での報告と一致すると著者らは述べています。DHAを摂取した群では、この指標が開始前の5.28パーセントから2カ月後に8.05パーセント、4カ月後に9.14パーセントへと上昇した一方、参照群ではほとんど変化しませんでした。群と時間の交互作用は大きく、食事調査の結果からも、この上昇は普段の食事の変化ではなく摂取したサプリメントによるものと考えられると報告されています。膜の硬さの目安であるリポフィリック指数は、2カ月後にいったん上昇し、4カ月後には部分的に元へ戻るという一過性の変化を示しました。
血液の指標では、介入群のほうが赤血球の平均的な大きさを示す平均赤血球容積と、若い赤血球のヘモグロビン量が高い値を示しました。ただし著者らは、これらの差は開始時点からすでに存在していた可能性を否定できないと注意を促しています。炎症に関わる物質では、ミエロペルオキシダーゼが時間とともに低下しましたが、その変化のしかたに群間の差はありませんでした。それ以外の測定した物質には有意な変化は見られていません。
パフォーマンステストでは、スプリント、跳躍、個人無酸素性作業閾値のいずれについても、群間に有意な差は認められませんでした。一方で、4カ月後のオメガ3インデックスが高い選手ほど個人無酸素性作業閾値も高いという関連が見られ、この回帰モデルは持久性能のばらつきの約36パーセントを説明したと報告されています。これはあくまで関連であって、因果関係を示すものではありません。月経前の症状の有無によるオメガ3インデックスの差や、女性ホルモンの値の時間的な変化も認められませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、4カ月間のDHAとホエイタンパク質の摂取が赤血球のオメガ3の状態を確かに改善し、膜の構造的な変化を引き起こした可能性があると結論づけています。同時に、この研究では赤血球の変形能そのものは直接測定しておらず、膜に関する考察は組成の変化からの間接的な推論であることも明示されています。また、探索的な副次的評価項目については多重比較の補正を行っておらず、仮説を生み出すためのものとして解釈すべきだとしています。
オメガ3インデックスと持久的な指標との関連は、女性アスリートにおける両者の機能的なつながりを示唆するかもしれないものの、さらなる確認が必要だというのが著者らの立場です。あわせて、8〜11パーセントという基準値は臨床の場面から導かれたものであり、アスリートにそのまま当てはめてよいのかという問いも投げかけられています。この研究が浮かび上がらせたのは、栄養の摂取によって体の内側の指標を動かすことと、それが競技の場での動きにつながることとのあいだに、まだ埋まっていない距離があるという事実です。
著者:Svenja Nolte(Department of Exercise Physiology and Sports Therapy, Institute of Sports Science, Justus Liebig University Giessen)、Simon Klügel(Department of Exercise Physiology and Sports Therapy, Institute of Sports Science, Justus Liebig University Giessen)、Celina Maier(Department of Exercise Physiology and Sports Therapy, Institute of Sports Science, Justus Liebig University Giessen)、Sebastian Hacker(Department of Exercise Physiology and Sports Therapy, Institute of Sports Science, Justus Liebig University Giessen)、Karsten Krüger(Department of Exercise Physiology and Sports Therapy, Institute of Sports Science, Justus Liebig University Giessen)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Svenja Nolte, Simon Klügel, Celina Maier, et al. Four months of DHA and whey protein supplementation in semi-professional female soccer players: a prospective non-randomized controlled study of omega-3 status, hematological outcomes, and physical performance. Frontiers in Nutrition 2026-09-14. DOI: 10.3389/fnut.2026.1886305. 原著ライセンス:CC BY.