この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の狙い

皮をむいたニンニクは、下ごしらえの手間を省ける便利な食材として流通しています。しかし著者らによれば、外皮や薄皮を取り除く工程で保存性は大きく損なわれ、低温では9か月以上もつニンニク球に対し、皮むきニンニクの日持ちはおよそ2〜3週間と報告されています。そこで用いられてきたのが、包装内の気体組成を調整する「ガス置換包装(MAP)」と冷蔵の組み合わせです。ただし、この方法では石油由来のプラスチック包装が使われるのが普通で、プラスチック汚染への懸念が背景にあると論文は述べています。

研究チームが着目したのは、卵白タンパク質(EWP)を原料とするフィルムです。タンパク質は膜になりやすく、酸素を通しにくいという長所がある一方、水を引きつけやすい性質のため湿気に弱く、脆いという弱点があります。この弱点を補う手段として、ミツバチのつくる強く撥水性のロウ「ミツロウ(BW)」を表面に重ねる方法が検討されてきましたが、著者らによれば、タンパク質系フィルムとミツロウを組み合わせた多層構造の研究は限られており、なかでも加熱と加圧でフィルムを成形する「圧縮成形」で作った卵白タンパク質フィルムをガス置換包装に用いた例は、これまで検討されていませんでした。

こうした空白を埋めるため、本研究は二つの目的を掲げています。第一に、圧縮成形でミツロウ被覆の有無を変えた卵白タンパク質フィルムを作り、多層化によって耐水性が改善するかを確かめること。第二に、それらのフィルムで包装した皮むきニンニクの品質変化を、市販の延伸ポリプロピレン(OPP)やポリ乳酸(PLA)のフィルムと比べて追跡することです。

どのように調べたか

フィルムは、卵白タンパク質粉末・グリセリン・水を混ぜた材料を130℃・150バールで加熱加圧し、その後冷却するという圧縮成形でつくられました。ミツロウ被覆は、できあがったフィルムを70℃の溶けたミツロウに5秒ひたし、余分を流し落とす方法で両面に施されています。厚さのばらつきや欠陥があるものは除いたうえで、酸素の透過性と水蒸気の透過性を、相対湿度を変えながら測定しました。あわせて、色や光の通りやすさといった見た目にかかわる性質も調べています。

包装試験では、皮むきニンニク約150gをポリプロピレン製トレーに入れ、ふた材として5種類のフィルム(被覆なし卵白タンパク質、ミツロウ被覆卵白タンパク質、PLA、OPP、そして対照として大きな穴をあけたOPP)を用いました。対照以外のフィルムには直径0.6mmの針で1包装あたり5か所の微細な穴をあけています。包装は5℃で28日間保存し、内部の酸素と二酸化炭素の濃度を経過にそって測定しました。ニンニク側の品質としては、重量の減少、カビによる腐敗の発生率、色、硬さ、ポリフェノール(フェノール性化合物)の量、香味成分アリインの有無、微生物の増え方が、7日おきに調べられています。

さらに、包装内の気体がどう変化するかを予測するため、5℃での皮むきニンニクの呼吸(酸素の消費と二酸化炭素の発生)の速さを専用装置で測定し、酵素反応の速度式であるミカエリス・メンテン型のモデルにあてはめています。

報告された主な結果

フィルムの性質では、被覆なしの卵白タンパク質フィルムは湿度に強く左右されました。酸素透過性は相対湿度0%から90%へ上げると大きく増加し、水蒸気透過性も相対湿度30%から90%でおよそ4倍に増えたと報告されています。これに対しミツロウを被覆したフィルムでは、酸素透過性は湿度0〜90%を通じてほぼ一定となり、水蒸気透過性は被覆なしと比べておよそ2桁小さい値になりました。著者らは、この水蒸気透過性が市販のPLAより低かったと述べています。ただしOPPは、どの湿度でも他のすべてのフィルムより水蒸気を通しにくかったと報告されています。一方、見た目では代償がありました。被覆なしのフィルムは半透明の範囲(波長600nmでの透過率65.8%)でしたが、ミツロウ被覆によってほぼ不透明(同6.2%)になり、上から中身が見えにくくなることは実用上の制約になりうると論文は指摘しています。

保存中の包装内の気体は、フィルムによって異なる推移を示しました。気体のやりとりは主に微細な穴を通じて起こり、フィルム自体が酸素の出入りに寄与する割合はいずれも5%未満だったと報告されています。穴の実質的な大きさを推定したところ、被覆なし卵白タンパク質の包装がもっとも小さく、そのぶん気体の交換が抑えられたため、酸素の減り方と二酸化炭素のたまり方がもっとも大きくなりました。ミツロウ被覆・PLA・OPPの包装では変化がより穏やかで、大きな穴をあけた対照は空気に近い組成のまま保たれました。なお21日目以降は酸素の減少と二酸化炭素の増加がより急になり、これは微生物数の増加と時期が重なっています。著者らは、傷んだニンニクの呼吸を別に測っていないため、ニンニク自身の働きと微生物の働きを区別できないと明記しています。

重量の減少は、フィルムの水蒸気透過性とおおむね対応しました。被覆なし卵白タンパク質の包装では28日後に11.55%に達し、著者らはこれを長期保存における同フィルムの欠点と位置づけています。もっとも少なかったのはOPPで28日後に1.5%未満、PLAとミツロウ被覆の卵白タンパク質はその中間でした。大きな穴をあけた対照は28日後に3.95%で、包装内の相対湿度が95.19%に達していたことから、この高い湿度がニンニクからの水分の蒸散を抑えた可能性があると述べられています。

この研究が示すこと

この研究は、卵白タンパク質という食品由来の材料を、溶媒を乾かす方法ではなく、工業的なプラスチック加工に近い圧縮成形で包装フィルムに仕上げ、実際に生鮮食品を包んで28日間追跡した報告です。得られた像は明快です。卵白タンパク質フィルム単体では湿気への弱さが重量減少という具体的な不利につながる一方、ミツロウを重ねるだけで水蒸気の通りやすさは大きく下がり、湿度による性質の揺れも抑えられました。同時に、透明性の低下という別の課題も浮かび上がっています。

長所と弱点の両方を同じ条件下で市販フィルムと並べて示したことが、この報告の意味するところだと言えます。

著者:Víctor Baquero-Aznar(Departamento de Ciencia Vegetal, Instituto Agroalimentario de Aragón—IA2, Centro de Investigación y Tecnología Agroalimentaria de Aragón (CITA), Av. Montañana 930, 50059 Zaragoza, Spain)、Sara Vega-Diez(Departamento de Ciencia Vegetal, Instituto Agroalimentario de Aragón—IA2, Centro de Investigación y Tecnología Agroalimentaria de Aragón (CITA), Av. Montañana 930, 50059 Zaragoza, Spain)、Bianca Souza da Costa(Departamento de Ciencia Vegetal, Instituto Agroalimentario de Aragón—IA2, Centro de Investigación y Tecnología Agroalimentaria de Aragón (CITA), Av. Montañana 930, 50059 Zaragoza, Spain)、M.L. Salvador(Grupo de Investigación en Alimentos de Origen Vegetal, Instituto Agroalimentario de Aragón—IA2, Universidad de Zaragoza, Miguel Servet 177, 50013 Zaragoza, Spain)、Jaime González‐Buesa(Departamento de Ciencia Vegetal, Instituto Agroalimentario de Aragón—IA2, Centro de Investigación y Tecnología Agroalimentaria de Aragón (CITA), Av. Montañana 930, 50059 Zaragoza, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Víctor Baquero-Aznar, Sara Vega-Diez, Bianca Souza da Costa, et al. Potential of Egg White Protein-Based Films for Maintaining the Quality of Fresh-Peeled Garlic. Foods 2026-08-14. DOI: 10.3390/foods15162828. 原著ライセンス:CC BY.