この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Zhongguo shipin weisheng zazhi
ライセンス: 論文に記載なし
青魚やチーズ、しょうゆのような発酵食品には、ヒスタミンという成分が含まれていることがあります。ヒスタミンは本来体内にも存在する物質ですが、食品中に多く蓄積すると、頭痛や発疹、動悸といった症状を引き起こすことが知られており、食品の安全性を考えるうえで注目される成分の一つです。
ただし「ヒスタミンがどのくらい含まれていると、どのくらいの人にどの程度のリスクがあるのか」を正しく見積もるのは、実はそう簡単ではありません。というのも、食品中のヒスタミン濃度は多くの場合低いものの、ときどき非常に高い値を示すサンプルが混じることがあり、こうした「裾(すそ)の広がったデータ」をうまく表現できる統計モデルを選ぶ必要があるためです。今回紹介する研究は、この「モデル選び」に焦点を当てたユニークな内容です。
研究でわかったこと
この研究では、海産魚、発酵肉製品、発酵豆製品という3つの代表的な食品カテゴリーについて、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)という手法でヒスタミン濃度が測定されました。そのうえで、従来よく使われてきた「対数正規分布モデル」に加えて、「有限混合モデル(FMM)」と「極値混合モデル(EVMM)」という、複数の分布を組み合わせたモデルが構築され、どれが実際のデータに最もよく当てはまるかが比較されました。
その結果、海産魚には対数正規分布モデルが、発酵肉製品には対数正規分布と一般化パレート分布を組み合わせたモデルが、発酵豆製品には2つの対数正規分布を組み合わせたモデルが、それぞれ最も適合することが示されました。特に注目すべきは、極端に濃度が高い部分(上位1%にあたるP99)での推定精度です。従来の対数正規分布モデルでは、実際の値との誤差(相対誤差)が食品の種類によって24%、86%、191%、286%にも達していたのに対し、混合モデルを使うとこの誤差は4%、3%、5%、25%まで大幅に縮小したと報告されています。
さらに、2018年の中国全国食品消費調査のデータを組み合わせて、混合モデルに基づく確率論的な急性曝露評価(短期間にどのくらいヒスタミンを摂取する可能性があるかの推定)も行われました。その結果、3つの食品カテゴリーを摂取する消費者における平均的なヒスタミン曝露量は1日あたり0.234〜0.852mgと、比較的低い水準にとどまることが示されました。摂取量が特に多いと推定される層(上位0.1%にあたるP99.9)でも、それぞれ1日あたり20.609mg、5.856mg、48.494mgと推定され、いずれも急性参照用量(ARfD)とされる1日50mgを下回っていたとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、中国における食品消費データと、特定の3つの食品カテゴリーで測定されたヒスタミン濃度データに基づく評価であり、対象食品や対象集団が異なれば結果も変わりうる点に留意が必要です。また、この研究は「混合モデルという統計的手法が、従来モデルよりも高濃度域でのデータの当てはまりに優れている」ことと、「今回対象とした食品カテゴリーにおける急性健康リスクは許容範囲内にあると考えられる」ことを示したものであり、ヒスタミンのリスクそのものが存在しないと結論づけるものではありません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点にご留意ください。
まとめ
この研究では、海産魚・発酵肉製品・発酵豆製品に含まれるヒスタミン濃度のデータに対し、従来の単純な統計モデルよりも「混合分布モデル」の方が、特に濃度が高い部分の当てはまりに優れていることが示されました。そのうえで、中国の消費データを用いた評価では、これら3つの食品カテゴリーからのヒスタミン曝露量は急性参照用量を下回り、健康リスクは許容範囲内にあることが示唆されています。この研究は、食品中の汚染物質データを評価する際の手法面での一つの補完的なアプローチを提示するものと位置づけられます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):混合分布モデルに基づく急性食事曝露評価:3つの食品カテゴリーにおけるヒスタミンを事例として(中国食品衛生雑誌・2026年05月)
著者:ZHAO Yingzi(Department of Epidemiology and Biostatistics, School of Public Health, Southeast University, Nanjing, Jiangsu 210009, China)、BIAN Xiangyu(Department of Epidemiology and Biostatistics, School of Public Health, Southeast University, Nanjing, Jiangsu 210009, China)、JIANG Depeng(Department of Epidemiology and Biostatistics, School of Public Health, Southeast University, Nanjing, Jiangsu 210009, China)、LIU Zhujun(Department of Epidemiology and Biostatistics, School of Public Health, Southeast University, Nanjing, Jiangsu 210009, China)、ZHOU Pingping(China National Center for Food Safety Risk Assessment, Beijing 100022, China)、PAN Feng(China National Center for Food Safety Risk Assessment, Beijing 100022, China)、CAO Pei(China National Center for Food Safety Risk Assessment, Beijing 100022, China)、SUN Jinfang(Department of Epidemiology and Biostatistics, School of Public Health, Southeast University, Nanjing, Jiangsu 210009, China)