この研究は、インドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Science and Research (IJSR)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ドーサやイドゥリ、アッパム、カード(凝乳)、バターミルクといった発酵食品は、インドの伝統的な食生活に古くから根づいています。近年、こうした食品が「腸内微生物叢-腸-脳軸」と呼ばれる経路を通じて心のはたらきに関わるのではないか、という関心が高まっています。これは、腸内の微生物とその環境、そして脳が互いに信号をやりとりしているという考え方です。
ただし著者らは、日常的に食べられている発酵食品と心理的な側面との関係を実際に調べた研究は、まだ限られていると述べています。文化的になじみ深い食品であることは、それ自体で心理的な利点を示すものではありません。そこで本研究は、18歳から45歳の成人を対象に、発酵食品を食べる頻度と「メンタル・レジリエンス(心の回復力)」との関連があるかどうかを検討しました。レジリエンスとは、困難な状況に適応し、対処していく力を指します。
調べ方
著者らは、因果関係を検証する実験ではなく、集団の特徴と変数同士の関連を記述する「記述的相関研究」としてアンケート調査を実施しました。同意を得た回答は159件集まりましたが、あらかじめ決めた除外条件、すなわち最近の抗生物質の使用、プロバイオティクス補助食品の常用、消化器疾患の診断、精神疾患の診断に当てはまる人を除き、96名を主な分析の対象としています。
測定には、食べている発酵食品の種類・頻度・量についての質問に加え、心の回復力をみる10項目の尺度(CD-RISC-10)、感じているストレスをみる尺度(PSS-10)、そして著者らが独自に作成した情緒的な健やかさの指標が用いられました。主な分析対象となった発酵食品の摂取頻度の指標は、値の分布が正規分布から外れていたため、順位に基づいて関連の強さを調べるスピアマンの順位相関が使われています。なお論文では、PSS-10の内部一貫性(尺度内の項目がそろって同じものを測れているかの指標)が低かったため、その結果は慎重に扱い、確証的な根拠としては用いなかったと説明されています。
主な報告結果
分析対象となった96名は、36歳から45歳が62.5%を占め、農村部の居住者が55.3%でした。よく食べられている発酵食品としては、ドーサ(58.3%)、イドゥリ(55.3%)、アッパム(53.9%)が上位に挙がりました。心の回復力の得点(CD-RISC-10)の平均は20.37(標準偏差9.19)でした。
主要な分析では、発酵食品を食べる頻度と心の回復力との間に、統計的に意味のある正の関連が認められたと報告されています(ρ=.357、p<.001、N=96)。つまり、頻度が高いと回答した人ほど、回復力の得点も高い傾向がみられたということです。一方で、1日あたりの平均摂取量については、回復力(ρ=−.123、p=.265)、感じているストレス、情緒的な健やかさのいずれとも、意味のある関連は示されませんでした。
著者らは、頻度と量という二つの尺度で結果が異なった点について、両者が食事の摂り方の異なる側面をとらえている可能性を指摘しています。また本研究では腸内微生物や炎症の指標、神経に働く代謝産物といった生物学的な仲介要因を測定していないため、特定の生物学的なしくみを結論づけることはできないと明記しています。
この研究が示すこと
著者らの結論は、今回の選別された集団において、発酵食品を食べる頻度の高さが心の回復力の高さと関連していた、というものです。ただしこれは、ある時点での状態を同時に測った横断的な調査であり、関連が認められたことと、発酵食品が回復力を高める原因であることは別の話です。論文自身も、これは関連であって因果の証拠ではないと述べています。
対象者の人数が比較的少なく、36歳から45歳の層と農村部の住民に偏っていたこと、食事の内容が自己申告であること、経済状況や食生活全体、運動、睡眠、社会的支援といった他の要因が主分析に組み込まれていないことも、著者らが挙げる限界です。伝統的な食習慣と心のはたらきという、これまで十分に検討されてこなかった組み合わせに、より正確な食事の測り方が必要だという課題を添えて光を当てた研究だといえます。
著者:Krishnan Mavuppadi Valappil(MSc Psychology , Psychology Department JAIN (Deemed to be University) Centre for Distance and Online Education Bengaluru)、Evangelin Supriya(Assistant Professor, Department of Psychology JAIN (Deemed to be University))
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Krishnan Mavuppadi Valappil, Evangelin Supriya. The Psychobiotic Potential: Fermented Food Intake and Mental Resilience. International Journal of Science and Research (IJSR) 2026-09-23. DOI: 10.21275/sr26920094951. 原著ライセンス:CC BY.