この研究は、ポルトガルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Chemistry
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
パルス電界(PEF)処理は、食材に短い高電圧の電気パルスを繰り返しかけ、細胞膜に小さな穴を開ける技術です。加熱をほとんど伴わない前処理として、野菜や果物の乾燥を速めたり、ポリフェノールなどの成分を取り出しやすくしたりする効果が報告されてきました。ただし、デンプンを多く含むイモ類では結果が一定せず、その理由もよく分かっていませんでした。
研究チームが注目したのはサツマイモです。同じ種でも、果肉が紫の品種には水に溶けやすい色素のアントシアニンが、オレンジの品種には油になじみやすい色素のカロテノイドが多く含まれます。著者らは、果肉の色が白・オレンジ・紫の3品種に同じ条件でPEF処理を行い、サツマイモ粉をつくる過程で、乾燥の進み方や成分の残り方、試験管内の消化で成分がどれだけ溶け出すかがどう変わるかを調べました。
何をどのように調べたか
使われたのは、白い果肉のBonita、オレンジのBellevue、紫のNP1648の3品種です。皮をむいて切ったサツマイモを水道水に浸し、電界強度3.1 kV/cmのパルスを200回かけました。1 kgあたりに加わったエネルギーは平均10.4 kJでした。その後75℃の温風で乾燥させて粉にし、処理をしていない粉と比べました。
比較したのは、水分量と水分活性(食品中の水がどれだけ自由に動けるかを示す指標)、色、総ポリフェノール、カロテノイド、アントシアニン、抗酸化能です。さらに、口・胃・腸の消化を試験管内で再現する標準的な方法を使い、腸の段階まで消化液に溶け出した成分の量を調べました。この溶け出しやすさは「バイオアクセシビリティ」と呼ばれ、論文では消化前の量に対する消化後の量の割合(見かけの回収率)として示されています。これは体内で実際に吸収された量を測ったものではなく、吸収されうる状態になった成分の目安です。粉を水中で分け、色素がどの部分に残っているかも確かめました。
論文は、この設計の限界も明記しています。PEF処理した試料は水に浸していましたが、対照の試料は浸していません。水に浸しただけの試料は用意されていないため、観察された違いのうち、どこまでが電気パルスの作用で、どこまでが水に浸したことの影響かは区別できません。また、各品種・各処理の粉はそれぞれ1ロットずつで、統計解析は記述的な位置づけとされています。
主な結果
今回の条件では、PEF処理をしても75℃での乾燥時間は短くなりませんでした。むしろ、乾燥後の粉の水分量と水分活性はすべての品種で高くなりました。水分活性は無処理の0.09〜0.25に対し、処理後は0.29〜0.32でした。著者らは、この値は微生物が増える水準よりかなり低いものの、保存中の品質を保つうえでは不利になりうると述べています。また、乾燥が速くならなかったという結論は75℃に限ったもので、高温では熱による乾燥が支配的になり、PEFの効果が表れにくかった可能性を挙げています。
最も大きな変化が見られたのは紫の品種NP1648です。PEF処理によってアントシアニンが無処理と比べて約83%減り、色の鮮やかさも低下しました。処理後の水は強く色づいていましたが、水そのものは分析されていません。著者らは、水への浸漬と細胞膜の穿孔が重なって色素が水へ流れ出たことが最も考えられる原因だとしつつ、酸化やpHによる分解が加わった可能性もあるとしており、仕組みは推定にとどまるとしています。同じ条件でも、オレンジの品種のカロテノイドは減りませんでした。
消化試験では、2つの品種で腸の段階まで溶け出したポリフェノールがPEF処理によって減りました。粉を分けて調べると、カロテノイドとアントシアニンの87〜95%が、食物繊維とデンプンからなる水に溶けない部分に残っていました。
データ全体のばらつきの要因を分けると、色や成分組成、消化試験の結果の大部分は、PEF処理の有無より品種の違いで説明されました。例外はアントシアニンで、PEF処理と、その効き方の品種差が品種そのものの違いを上回りました。一方、水分量と水分活性ではPEF処理が主な要因でした。
この研究が示すこと
この研究は、他の野菜で報告されてきたPEF前処理の利点が、デンプンの多いサツマイモの粉づくりにそのまま当てはまるわけではないことを示しています。今回の条件では乾燥は速まらず、水に溶けやすいアントシアニンを多く含む紫の品種では、色素が大きく失われました。同じ処理でも結果は品種や色素の性質によって大きく変わり、粉の成分の違いを決めていたのは主に品種でした。前処理の効果を考えるときには、品種ごとの成分の違いを踏まえる必要があることを示した研究といえます。
著者:Nelson Pereira(INIAV - Instituto Nacional de Investigação Agrária e Veterinária, 2780-157 Oeiras, Portugal)、Ana C. Ramos(Associated Laboratory TERRA, Instituto Superior de Agronomia, ULisboa, 1349-017 Lisboa, Portugal)、Diogo Gonçalves(FOOD FAB LAB/TAGUSVALLEY – Science and Technology Park, 2200-062 Abrantes, Portugal)、Enrique Pino−Hernández(CERNAS-IPCB, Research Centre for Natural Resources, Environment and Society, Polytechnic University of Castelo Branco, 6000-084 Castelo Branco, Portugal)、José Carlos Rodrigues(Associated Laboratory TERRA, Instituto Superior de Agronomia, ULisboa, 1349-017 Lisboa, Portugal)、Ana Alves(Associated Laboratory TERRA, Instituto Superior de Agronomia, ULisboa, 1349-017 Lisboa, Portugal)、Margarida Moldão(Associated Laboratory TERRA, Instituto Superior de Agronomia, ULisboa, 1349-017 Lisboa, Portugal)、Vítor D. Alves(Associated Laboratory TERRA, Instituto Superior de Agronomia, ULisboa, 1349-017 Lisboa, Portugal)、Marta Abreu(Associated Laboratory TERRA, Instituto Superior de Agronomia, ULisboa, 1349-017 Lisboa, Portugal)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nelson Pereira, Ana C. Ramos, Diogo Gonçalves, et al. Pulsed electric field pre-treatment of sweet potato: cultivar-dependent effects on phytochemical stability and bioaccessibility. Food Chemistry 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.151410. 原著ライセンス:CC BY.