果物は日々の食生活の中で、ビタミンやミネラルなどの栄養素を摂るために欠かせない食品です。しかし、その表面には目に見えない微生物が付着していることがあり、なかには健康に影響を及ぼしうる細菌が含まれる可能性も指摘されています。今回紹介する研究は、市販されている生鮮果実の表面から、抗生物質が効きにくい「多剤耐性菌」がどの程度検出されるのかを調べたものです。
着目されたのは「エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)」という腸球菌の一種です。この菌は人や動物の腸内に存在する常在菌ですが、状況によっては日和見感染を引き起こすことがあり、人と動物の間で伝播しうる「人獣共通感染症」の病原体としても位置づけられている、と論文では説明されています。
研究でわかったこと
研究チームは、7種類の果物について合計76検体を集め、それぞれの表面を洗浄した水を用いて、培養検査や生化学的検査、PCR(遺伝子検査)によりE. faecalisの分離・同定を行いました。あわせて、ディスク拡散法という手法で抗生物質への感受性を調べ、コンゴレッド寒天培地を用いた試験でバイオフィルム(細菌が作る膜状の構造)形成能を、PCRで病原性に関わる遺伝子の有無を調べています。
その結果、76検体のうち47検体(61.84%)からE. faecalisが検出されました。7種類の果物の中では、オレンジで最も高い検出率が確認されたと報告されています。
薬剤感受性の検査では、よく使われる抗生物質のうちアンピシリンへの耐性が90.00%、エリスロマイシンへの耐性が57.50%と高頻度に見られました。また、バンコマイシンへの耐性が47.50%、さらに「最後の切り札」とされる抗生物質リネゾリドへの耐性も47.50%の株で確認されたとされています。アンピシリン耐性に関わる遺伝子(blaTEM)は、分離株の65%で検出されました。加えて、分離株の60%が複数の系統の抗生物質に耐性を持つ「多剤耐性(MDR)」を示し、耐性の程度を示すMAR指数は0.33から0.78の範囲だったと報告されています。
さらに、病原性に関与するとされる遺伝子(agg、ace、gelE、fsrB、pilの5種類)やバイオフィルム形成能も、分離株の間で様々に分布しており、これらの菌が環境中に定着し、病原性を発揮する可能性を示唆するものだと論文では述べられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、果物の表面という身近な場所から多剤耐性菌が検出されうることを示した一つの調査結果であり、これをもって特定の果物や特定の菌が直接的な健康被害を引き起こすと断定するものではありません。検出された菌の量や、実際にヒトの健康にどの程度の影響を及ぼすかについては、要旨の中では言及されていません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。
論文の著者らは、こうした知見を踏まえ、果物は食べる前に十分に洗浄すること、また人・動物・環境を一体的に捉える「ワンヘルス」の考え方に基づいた監視体制によって、人の健康へのリスクを減らすことが望ましいとまとめています。
まとめ
今回の研究では、7種類の生鮮果実の表面を調べたところ、6割以上の検体から腸球菌E. faecalisが検出され、そのうち多くの株が複数の抗生物質に耐性を持つ「多剤耐性菌」であったことが報告されました。抗生物質耐性菌は世界的な公衆衛生上の課題として関心を集めており、身近な食品である果物の取り扱いにも目を向けさせる内容と言えそうです。果物を食べる際は表面をよく洗うといった基本的な衛生習慣が、あらためて意識されるきっかけになるかもしれません。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:生鮮果実表面―公衆衛生上重要な多剤耐性バイオフィルム形成性エンテロコッカス・フェカリスの潜在的な供給源(プロス・ワン・2026年08月)