著者の所属・活動拠点の国は、インドです。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
魚の養殖現場では、病気の予防や成長促進のために「プロバイオティクス」と呼ばれる有用微生物を飼料に添加する試みが広がっています。今回紹介するのは、インドに生息するナマズの一種「Clarias magur(クラリアス・マグール)」を対象に、特定の菌株を飼料に加えることでどのような変化が起きるかを調べた研究です。Clarias magurはかつてClarias batrachusという学名で知られていた種で、現在は絶滅が危惧されている魚とされており、その養殖技術の向上は保全の観点からも関心を集めているようです。
どんな研究が行われたのか
研究チームは、在来のClarias batrachusから分離した「Bacillus cereus PKA18」という菌株に着目しました。この菌をまず安全性の面から評価したところ、腸管毒素(エンテロトキシン)を産生せず、ヒツジ・魚・ヒトいずれの血液寒天培地上でも溶血性を示さない(γ溶血)ことが確認され、魚への腹腔内投与でも病原性や成長への悪影響は見られなかったと報告されています。
この安全性確認を踏まえ、平均体重約5gのClarias magurの稚魚240匹を、対照群(基礎飼料のみ)と、菌の添加量が異なる3つの実験群(C1:飼料100gあたり2×10^4 CFU、C2:2×10^5 CFU、C3:2×10^6 CFU)に分け、60日間飼育する実験が行われました。
研究でわかったこと
結果として、中程度の添加量であるC2群(飼料100gあたり2×10^5 CFU)の魚で、成長に関するいくつかの指標が他の群よりも良好だったと報告されています。具体的には、特定成長率、たんぱく質効率、体重増加量が有意に高く、飼料の変換効率を示す指標(少ない飼料でより多く成長できたかを示す値)も最も優れていたとされています。
血液の生化学検査では、C2群で総タンパク量の増加や、肝臓に関連する酵素(ALT、ALP、AST)の数値の低下が見られたとされています。また、酸化ストレスに対する防御に関わる酵素(SOD、CAT、GSH-PX)の活性がC2群で有意に高く、酸化ストレスの指標とされるMDA(マロンジアルデヒド)の値は最も低かったと報告されています。消化に関わる酵素(プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ)の活性についても、C2群で対照群より有意に高かったとされています。
腸内細菌叢を調べる16S rRNA遺伝子解析では、プロバイオティクスを与えたClarias magurの腸内で、有用とされるCetobacterium属の菌が優勢になり、Bacillus属の菌も増加する一方、日和見的・病原性のある細菌は対照群と比べて有意に減少していたと報告されています。さらに機能面の解析では、全体としての機能の多様さは低くなっているものの、代謝や遺伝情報処理に関わる中核的な経路が強化された、より効率的な微生物群集になっていたことが示唆されています。
研究チームはさらに、病原菌であるVibrio vulnificus(ビブリオ属細菌)を用いた感染実験も行いました。その結果、C2群の魚では呼吸バースト活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、α2-マクログロブリン、抗プロテアーゼ活性が高まっていたとされ、免疫関連遺伝子(IL-6およびC3a)の発現が肝臓・筋肉・腸管組織で有意に上昇していたことも報告されています。感染後の生存率もC2群で最も高く、ビブリオ症に対する抵抗性の向上が示唆されたとしています。
これらを総合し、研究チームは飼料100gあたり2×10^5 CFUのBacillus cereus PKA18(C2群の投与量)が、Clarias magurの成長性能、消化活性、免疫機能、そして病気への抵抗性を高めるうえで最適な用量である可能性を示したと結論づけています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
今回の結果は、特定の菌株・特定の投与量・特定の飼育条件のもとで得られたものであり、他の菌株や異なる飼育環境でも同様の結果が得られるとは限りません。また、対象となったのはClarias magurという特定の魚種であり、他の魚種や、ましてやヒトへの効果を示すものではない点にも注意が必要です。あくまで一つの研究による報告であり、養殖技術としての結論が確定したわけではないと理解しておくとよいでしょう。
まとめ
この研究では、絶滅危惧種とされるClarias magurの養殖において、プロバイオティクス菌Bacillus cereus PKA18を適切な量(飼料100gあたり2×10^5 CFU)で飼料に添加することで、成長性能や消化酵素活性、抗酸化能、腸内細菌叢のバランス、免疫関連遺伝子の発現、そして病原菌への抵抗性が高まる可能性が示唆されました。今後、こうした知見が絶滅危惧種の保全を目的とした養殖技術の発展にどうつながっていくのか、注目されるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):プロバイオティクス菌Bacillus cereus PKA18がClarias magur(1822年、ハミルトン)の全体的成長・腸内マイクロバイオーム・免疫に及ぼす影響(サイエンティフィック・リポーツ・2026年07月)
著者:Sourav Chattaraj(Centre for Industrial Biotechnology Research, School of Pharmaceutical Sciences, Siksha 'O' Anusandhan Deemed to Be University, Kalinga Nagar, Bhubaneswar, Odisha, 751 003, India. [email protected])、Ishita Chatterjee(Department of Microbiology, Bankura Sammilani College, Bankura, W.B., 722102, India)、Riya Nandi(Department of Microbiology, Bankura Sammilani College, Bankura, W.B., 722102, India)、Pradeep K. Das Mohapatra(Department of Microbiology, Raiganj University, Raiganj, Uttar Dinajpur, West Bengal, 733134, India)、Pritish Mitra(P.G. Department of Botany, Ramananda College, Bishnupur, Bankura, West Bengal, 722122, India)、Asish Mandal(P.G. Department of Botany, Ramananda College, Bishnupur, Bankura, West Bengal, 722122, India)、Debasis Mitra(Department of Microbiology, Graphic Era Deemed to Be University, Dehradun, Uttarakhand, 248002, India)、Arindam Ganguly(Department of Microbiology, Bankura Sammilani College, Bankura, W.B., 722102, India. [email protected])