乾燥地や半乾燥地に自生するシドラ(Ziziphus spina-christi L.)という果実をご存じでしょうか。栄養面や植物由来の機能性成分の観点で価値があるとされながらも、これまで積極的な活用が進んでこなかった果実だといいます。今回紹介する研究では、このシドラを乳酸発酵によって漬物に加工し、発酵液(ブライン)の配合を変えることで、成分の保持や微生物の変化、品質にどのような違いが出るのかが調べられました。
身近な漬物や発酵食品は、塩分濃度や糖分、酸味料の有無によって発酵の進み方が変わることが知られていますが、シドラという未利用資源でその制御発酵を体系的に検証した研究はこれまで限られていたとされています。そこで、乾燥・半乾燥地域の食資源を無駄なく生かす『バロリゼーション(価値化)』の観点からも、この研究の狙いは興味深いものといえます。
研究でわかったこと
研究チームは、5種類のブライン配合でシドラ果実の漬物を仕込み、常温で90日間保存しながら経過を観察しました。配合は、(1) 10%食塩水のみ(対照)、(2) 食塩水にソルビン酸ナトリウムを加えたもの、(3) 食塩水に砂糖と酢を加えたもの、(4) 食塩水に砂糖とLactobacillus plantarumのスターター培養(発酵を助ける乳酸菌を意図的に加えたもの)を加えたもの、(5) 食塩水に砂糖・酢・ニンニクを加えたもの、の5種類です。保存期間中、酸性度やpH、生理活性成分(抗酸化に関わる成分など)、微生物の種類や数、食感、色、そして官能評価(味や総合的な好ましさなど)の変化が追跡されました。
その結果、ブラインの配合によって発酵の進み方や微生物の移り変わり、最終的な品質に明確な違いが見られたと報告されています。中でもL. plantarumを加えた区分は、最も速やかに酸性化が進み、pHは4.02、滴定酸度は0.24%に達したとされます。またこの区分では、乳酸菌の数が1グラムあたり9log CFUを超える水準で維持され、微生物学的な安定性も高かったとのことです。
さらに、このスターター培養を用いた区分は、非接種(スターター菌を加えなかった)の処理区と比較して、ビタミンC(アスコルビン酸)や総フェノール化合物(植物由来の抗酸化成分の一群)、抗酸化活性、そして食感の保持においても優れていたと報告されています。統計的な解析(相関分析や主成分分析)でも、スターター培養による発酵と、生理活性成分の保持や製品全体の品質との間に強い関連があることが示されたとされています。官能評価では、90日間を通じてすべての処理区が許容できる範囲にとどまったものの、スターター培養を加えた試料が味・食感・総合評価で一貫して最も高い評価を得たと述べられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、シドラという特定の果実を対象に、特定の条件(5種類のブライン配合、常温保存90日間)のもとで行われた一つの実験報告です。ここで報告された乳酸菌数や酸度、成分保持の傾向は、あくまでこの実験条件下での結果であり、他の果実や異なる保存条件、より長い期間においても同様の結果になるとは限りません。また、抗酸化活性や生理活性成分の保持が確認されたことは、健康への効果を直接保証するものではない点にも留意が必要です。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
まとめ
この研究では、未利用資源であるシドラ果実を乳酸発酵によって漬物に加工する際、Lactobacillus plantarumのスターター培養を用いたブライン配合が、他の配合と比べて発酵の進行、微生物の安定性、生理活性成分の保持、食感や官能評価のいずれにおいても良好な結果を示したと報告されています。研究チームは、こうした制御発酵の手法が、乾燥地域の未活用な食資源を持続可能な形で価値化する一つのアプローチになりうると位置づけています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:シドラ(Ziziphus spina-christi L.)果実の制御乳酸発酵:ブライン配合が生理活性成分の保持、微生物動態、品質特性に及ぼす影響(ファーメンテーション・2026年07月)