寿司ネタとしてもおなじみのウニは、実は昆布などの海藻を食べて育つ生き物です。近年、日本各地の沿岸では海藻の群落(藻場)が減少・消失する「磯焼け」という現象が進み、ウニを含む沿岸生態系や漁業の持続可能性が懸念されています。北海道の研究機関に所属する研究者らは、北海道南西部・日本海側の島牧村で、キタムラサキウニ(Mesocentrotus nudus)の個体数の変化を35年間という長期間にわたり記録し、稚ウニの加入(新しく生まれ育つ個体が群れに加わること)と大人のウニの数、さらには漁獲量との関係を調べました。

キタムラサキウニは朝鮮半島やロシア沿海地方、北日本の岩礁域に分布し、殻の直径は最大で7センチほどになる種です。秋に産卵し、幼生はおよそ1〜2か月間プランクトンとして海中を漂った後、岩の表面に着底して海藻を食べ始めます。中でも昆布の一種であるSaccharina japonicaは重要な餌とされています。生殖腺(いわゆる「ウニの身」)は食用として中国・韓国・日本で流通しており、島牧村での漁獲量データも今回の分析に使われています。

どのように調べたのか

調査は島牧村の穴の子前・餓虎島沖にある22地点で、1985年から2020年まで毎年8〜9月にスキューバダイビングによって行われました。海底に設置した100メートルの調査ラインに沿って10メートルおきに調査点を置き、1平方メートルの方形枠(コドラート)内のウニを採集し、殻の直径をデジタルノギスで測定しました。年齢は、生殖板と呼ばれる殻の部位に現れる成長輪を数えることで判定されています。1地点あたりの採集個体数は年や場所によって80〜451個体と幅がありました。得られたデータは正規分布に従わなかったため、統計解析にはノンパラメトリックな手法であるスピアマンの順位相関係数が用いられています。

研究でわかったこと

全年齢(1〜8歳)を合わせたウニの密度は、1985年の1平方メートルあたり20.5個体を最大に、1995年には3.7個体まで下がるなど年によって大きく変動しましたが、35年間を通じた統計的に有意な増減傾向は見られませんでした。一方、その年に生まれた1歳の稚ウニの加入量は年ごとの差が非常に大きく、1988年・2003年・2006年・2017年にはほとんど加入が確認されなかった一方、1986年(11.1個体/平方メートル)や2008年(11.4個体/平方メートル)などには高い加入が記録されています。また、1990年代から2010年代にかけて稚ウニの加入量は緩やかに減少する傾向が見られましたが、統計検定(線形回帰やマン・ケンドール検定)ではこの減少傾向も有意とは判定されませんでした。

この研究で特に注目されるのは、稚ウニの加入量と翌年以降の大人のウニ(4〜8歳、漁獲対象サイズに達した個体)の密度との間に、統計的に意味のある相関が見つからなかった点です(相関係数ρ=−0.110、p=0.319、n=83)。さらに、大人のウニの密度と実際の漁獲量との間にも有意な相関はありませんでした(ρ=−0.074、p=0.054、n=676)。つまり、その年にたくさん稚ウニが生まれても、それがそのまま大人のウニの増加や漁獲量の増加に結びつくとは限らないことが示されました。

著者らは、この「弱い相関」の背景として、加入後の死亡(捕食など)、磯焼けによる昆布の減少に伴う餌不足、そして漁獲による圧力などが複合的に関与し、稚ウニの数と大人の個体数を切り離している可能性を指摘しています。特に磯焼けで昆布が乏しい海域では、生殖腺が十分に発達しないウニが増え、漁業者がそうした個体の漁獲を避ける傾向があることも、大人の密度と漁獲量が一致しない一因として考察されています。北海道南西部の沿岸では過去20年ほど磯焼けが続いているとされ、この地域特有の環境変化が個体群の動きに影を落としている可能性があるとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は北海道の1つの村の沿岸という限られた地域を35年間観察した長期モニタリングであり、著者ら自身も、稚ウニの加入に影響する幼生期の死亡や捕食、突発的な環境変動などの要因までは直接検証できていないと述べています。得られた相関の弱さは「関係がない」ことの証明ではなく、単純な加入量の増減だけでは大人の個体数や漁獲量を予測しきれないことを示す結果として位置づけられています。一つの長期観察研究であり、他の海域や種にそのまま当てはまるとは限らない点にも留意が必要です。

まとめ

35年間にわたるキタムラサキウニの個体群調査から、稚ウニの加入量は年によって大きく変動する一方で、大人のウニの密度は比較的安定しつつも緩やかな減少傾向を示すことが報告されました。稚ウニの加入と大人の個体数、大人の個体数と漁獲量のいずれの間にも明確な相関は見られず、著者らは、ウニ漁業を持続させるためには加入量を増やす対策だけでなく、昆布などの藻場を回復させる生態系全体を視野に入れた管理が重要だと述べています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Tadashi Kawai, Hideki Akino. Population dynamics of the northern sea urchin Mesocentrotus nudus in Southwestern Hokkaido, Sea of Japan. ハビタス・アクアティカ (2026). DOI: 10.29244/haj.7.2.69.