収穫後の果物や野菜は、乾燥や酸化、微生物の繁殖によって品質が落ちていきます。これを遅らせる方法の一つとして近年注目されているのが、果物の表面に薄い可食性の膜を直接塗る「エディブルコーティング(食べられるコーティング)」です。プラスチック包装の代替として、環境負荷の少ない保存技術になりうると考えられています。今回紹介する研究は、こうしたコーティングの効果を評価するための新しい分析手法として、近赤外線を使ったハイパースペクトルイメージング(NIR-HSI)という技術を、イチゴを使った実験で試したものです。

コーティングの効果はどう調べられてきたか

これまでエディブルコーティングの評価には、重量減少の測定、色の計測、テクスチャー分析、走査型電子顕微鏡(SEM)などの顕微鏡観察が使われてきました。しかし著者らは、これらの方法は多くの場合サンプルを壊してしまう、時間がかかる、果物の一部分しか見られないといった限界があると指摘しています。特にSEMは、観察前にサンプルを凍結・凍結乾燥する必要があるなど準備が煩雑だといいます。そこでこの研究では、果物を壊さずに表面全体を面的にスキャンできる分析法として、ハイパースペクトルイメージングに注目しています。

この技術は、通常の分光測定とカメラ撮影を組み合わせたもので、画像の一つ一つの点(ピクセル)ごとに光の吸収スペクトルを記録します。これにより、コーティングの分布や均一性、部分的なムラなどを、顕微鏡では捉えられない形で可視化できるとされています。得られる情報量が非常に多いため、主成分分析(PCA)やK平均法(K-means)といった、データからパターンを取り出す統計的手法(ケモメトリクス)と組み合わせて解析されます。

イチゴを使った実証実験でわかったこと

研究チームは、スペインのビルバオの市場で購入したイチゴを使い、キャッサバ由来のでんぷん、セルロース、オレガン精油を配合した可食コーティング液を用意しました。イチゴは次亜塩素酸ナトリウム水溶液(0.001%)で洗浄したのち、コーティング液に浸す方法で処理されました。コーティングなし(0C)、1回だけ浸したもの(1C)、乾燥をはさみながら3回重ねて浸したもの(3C)の3群を用意し、0±1℃で10日間保存しながら、コーティング当日と2日おき(合計6回)にNIR-HSI(996〜2505ナノメートルの波長域)で撮影しています。

スペクトル解析の結果、水分やでんぷんに由来する吸収帯(1400ナノメートル付近や1800〜1900ナノメートル付近など)に加え、コーティングに含まれるオレガン精油由来の成分(フェノール化合物のチモールに relate する1529ナノメートル付近など)に対応する波長帯が確認され、果実由来の成分とコーティング由来の成分がスペクトル上で区別できることが示されました。主成分分析では、コーティングを施していないサンプルはある方向のスコアに偏り、コーティングの層数が増えるにつれてスコアが別方向へ移動する傾向が見られ、保存日数によってもサンプルがグループ分けされる傾向が確認されています。

K平均法による解析では、水分が保たれているとみられるスペクトルパターンを持つ領域(クラスター1)と、乾燥や表面の構造変化を示唆するパターンの領域(クラスター3)に分かれ、コーティングなしの果実では保存6〜10日目にかけて乾燥を示すクラスターの割合が増えていく様子が確認されました。一方、3層コーティングを施した果実は保存期間を通じて比較的均一な状態を保ち、水分保持とコーティングの安定性が高い傾向が示されたとしています。さらに多変量曲線分解(MCR-ALS)という手法でも、でんぷん・水・セルロースに関連するスペクトル成分を軸に、コーティングなしの果実と3層コーティングの果実がより明確に区別される結果が得られています。

これらの結果から著者らは、NIR-HSIがコーティングの有無や層数の違いを検出し、保存中の水分損失や酵素による褐変といった劣化の進行を追跡するのに有効な手法になりうると述べています。

この研究の位置づけと留意点

著者らは、この実験の目的は果物の品質や賞味期限を予測する定量モデルを作ることではなく、あくまでコーティングの層数の違いをNIR-HSIで検出できるかを確かめる「概念実証(プルーフ・オブ・コンセプト)」であったと明記しています。また、2016〜2025年の文献をデータベース(Scopus)で調べたところ、ハイパースペクトルイメージングとエディブルコーティングという二つのキーワードを同時に扱った論文は見当たらなかったとしており、この組み合わせ自体がまだあまり研究されていない領域であることも紹介されています。実験で使われたイチゴは市販のもの、コーティング材料は主にブラジルから調達されたものであり、この記事で紹介した結果は今回の条件下での一例です。より広い果物の種類や保存条件への当てはまりについては、この研究だけで結論づけられるものではありません。

まとめ

果物の保存性を高める可食コーティングは、プラスチック包装に代わる選択肢として研究が進んでいる分野です。この研究は、その効果を壊さずに測る新しい手段として近赤外線ハイパースペクトルイメージングを紹介し、イチゴを使った実験でコーティングの層数や保存日数に応じたスペクトルの変化を確認しました。あくまで一つの実証実験の結果であり、今後さらに多様な果物や保存条件での検証が必要になると考えられます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yasmin Lima Brasil, Giulia Gorla, Darlei G. D. B. Oliveira, et al. New Approaches for Monitoring Edible Coating Quality Using Hyperspectral Imaging (HSI) and Chemometrics. フード・バイオフィジックス (2026). DOI: 10.1007/s11483-026-10208-7.