「よく噛んでゆっくり食べましょう」という助言は昔からよく耳にしますが、それが実際に糖尿病の発症とどう関係するのかを、大規模なデータで確かめた研究は意外に限られています。今回紹介するのは、日本の静岡県で長期間にわたって集められた健康診断データをもとに、早食いをはじめとする5つの食習慣と2型糖尿病発症との関連を調べた研究です。著者らは静岡県立大学食品栄養科学部などに所属しており、日本国内の医療機関から提供されたデータを用いています。
糖尿病は世界的に増え続けている疾患で、2021年時点で世界の死亡・障害の主要因の一つに挙げられており、2050年には13億人以上が糖尿病とともに生きると予測されているとされています。日本でも糖尿病や耐糖能異常の有病率はここ数十年で目立って増加しており、有効な予防策が求められている背景があります。そうしたなかで、食べる中身(栄養バランス)だけでなく、食べる速さや時間帯といった「食べ方」も血糖コントロールに影響しうる要因として注目されてきました。
研究でわかったこと
この研究は、静岡県の聖隷福祉事業団が提供する健康診断記録を用いた後ろ向きの観察研究です。2008年4月から2020年3月までのデータのうち、糖尿病や がん、膵臓疾患、肝疾患、腎疾患などの既往がある人を除外し、最終的に18〜75歳の98,718人(男性55,507人、女性43,211人)が解析対象となりました。観察期間中に4,631人が新たに2型糖尿病を発症したとされています。
調べられた食習慣は、①朝食を週3回以上抜く、②早食い(自己申告で「遅い」「普通」「速い」から回答)、③夕食後の間食、④就寝前2時間以内の夕食、⑤毎食野菜を食べる、の5項目です。重要な点として、それぞれの習慣について調査期間を通じて回答が一貫していた人(例えば「ずっと早食い」または「ずっと早食いではない」)だけを、その項目の解析対象としています。回答がぶれた人はその項目の解析からは外れますが、他の項目の解析には引き続き使われました。
解析では、性別・年齢・BMI・血圧・LDLコレステロール・HDLコレステロール・喫煙状況・飲酸状況をそろえる「傾向スコアマッチング」という統計手法を使い、ランダム化比較試験に近い条件を疑似的に作ったうえで、Cox比例ハザード回帰という手法で発症リスクを比較しています。早食いについては約50,180人がマッチング後の解析対象になりました。
その結果、5つの習慣のうち統計的に意味のある関連が確認されたのは早食いだけでした。早食いの習慣がある人は、そうでない人に比べて2型糖尿病の発症リスクが12%高いという結果でした(ハザード比1.12、95%信頼区間1.02〜1.23)。性別ごとに分けて調べると、女性では早食いによるリスク上昇が14%とやや大きく(ハザード比1.14、95%信頼区間1.00〜1.30)、男性では統計的に意味のある関連は見られなかったとされています。朝食抜き・就寝前の夕食・夕食後の間食・毎食の野菜摂取については、いずれも明確な関連は確認されませんでした。
著者らは、早食いが血糖に影響しうる仕組みについても触れています。早く食べると満腹感を感じる前に食べ過ぎてしまい体重増加につながる可能性があること、食後の血糖値の急上昇とそれに伴うインスリンの過剰な分泌が起こりやすくなる可能性があること、さらに炎症に関わる物質(インターロイキン1βやインターロイキン6など)の分泌が促される可能性が過去の研究で示唆されていることなどが紹介されています。ただし、これらは仕組みの候補として言及されているもので、今回の研究自体がその仕組みを直接検証したわけではありません。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
著者らはいくつかの限界を挙げています。まず、この研究はランダム化比較試験ではなく、後ろ向きに集めたデータを統計的に調整した観察研究であるという点です。次に、対象が静岡県内の集団に限られており、地域による食生活や生活習慣の違いから、日本全体にそのまま当てはまるとは限らないとしています。また、食習慣は自己申告のアンケートによって把握されており、食事の中身や栄養素の詳細(糖分摂取量など)までは調べられていないため、測定されていない食事要因による影響が残っている可能性も指摘されています。
さらに、脂質異常症の薬(スタチンなど)を服用している人も除外せずに解析に含まれており、統計的な調整で対応したとされています。加えて、女性における早食いとリスクの関連は、複数の項目・性別で比較を行った中での結果であり、著者らは「仮説を生み出す段階の知見」であって断定的な結論ではないと述べています。今回の結果は、あくまで一つの研究による知見であり、今後の追加的な臨床研究での確認が必要とされています。
まとめ
今回の研究では、約9.9万人分の健康診断データをもとに、早食いの習慣がある人で2型糖尿病の発症リスクがやや高い傾向が見られ、特に女性でその関連がより明確だったと報告されています。一方で朝食抜きや夕食のタイミング、間食、野菜摂取の頻度については明確な関連は確認されませんでした。効果の大きさは大きなものではなく、著者らも今後の検証が必要としている段階の知見です。食べる速さは診療の場でも比較的把握しやすい生活習慣であることから、著者らは他の食事指導と合わせて検討する余地があるとまとめています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Emmanuele D. S. Andrade, Yuichiro Obana, Mika Suzuki, et al. Targeting Habitual Fast Eating as a Modifiable Risk Factor for Type 2 Diabetes: A Propensity Score-Matched Analysis. ダイアビーティーズ・セラピー (2026). DOI: 10.1007/s13300-026-01912-1.