この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Food Process Engineering
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目指した研究か
トマトは水分が多く、そのままでは長く保存しにくい食材です。水分を取り除いて粉末にすれば、保存期間が延び、容積が小さくなって保管や輸送もしやすくなります。一方で乾燥は多くのエネルギーを使う工程でもあり、加熱しすぎれば色や成分が損なわれます。研究チームは、この二つの課題を同時に扱う方法を探りました。
著者らが注目したのは「泡乾燥」という手法です。液状や半液状の食品に泡立て剤を加えて泡にし、薄く広げて乾かします。泡の中の気泡によって表面積が大きくなるため、乾燥が速く進むと説明されています。ここで使う泡立て剤に、論文はムクロジ(Sapindus mukorossi)の抽出物を選びました。アジアの熱帯・亜熱帯に育つ果実で、「ソープナッツ」などとも呼ばれ、泡立ちのもとになるサポニンを多く含みます。著者らは、ムクロジ抽出物を泡立て剤として泡乾燥に用いた研究はこれまで報告されていないとして、本研究の新しさを述べています。
どのように調べたか
研究チームはトルコ・トカット市の市場で購入した生のトマトをピューレにし、蒸留水で薄めたうえで、ムクロジ抽出物を10%の割合で加えて泡立てました。泡を安定させる目的で、担体としてマルトデキストリンを1%加えています。
乾燥には、電子レンジのマイクロ波と熱風を組み合わせた「ハイブリッド」乾燥機を使いました。マイクロ波は食品中の水分を短時間で振動させて発熱させる仕組みで、乾燥は速い反面、終盤に焦げや品質低下が起きやすいことが知られています。熱風と組み合わせるのは、その弱点を和らげるための工夫です。実験では出力を350Wに固定し、乾燥温度を50℃、60℃、70℃の3水準に変えて、重量変化が止まるまで乾かしました。試験はいずれも3回繰り返されています。
測定した項目は幅広く、乾燥の進み方(水分比、乾燥速度、有効水分拡散係数)、エネルギー面(消費電力量、単位エネルギーあたりの水分除去量=SMER、単位水分あたりの消費エネルギー=SEC)、そして粉末の性質(色、かさ密度とタップ密度、流動性、総フェノール量、総フラボノイド量、総アントシアニン量、総抗酸化活性)、さらに泡そのものの性質が含まれます。
主な報告結果
乾燥速度の平均は、乾物1gあたり1分間に50.1〜52×10⁻²gの水分という範囲でした。有効水分拡散係数は0.7583×10⁻⁷〜0.8429×10⁻⁷m²/sと報告され、著者らはハイブリッド条件下で水分の移動が進みやすかったことを示すものと述べています。消費電力量は0.50〜0.52kWhにとどまり、SMERは0.033〜0.038kg/kWh、SECは26.44〜30.51kWh/kgでした。
色については、生のトマトと比べて明るさや赤みが保てない条件がある一方、350W・50℃では明るさと赤みの統計的な差が小さく、色の鮮やかさを表すクロマもこの条件でのみ維持されたと報告されています。論文は、トマトの赤色を担うリコピンが熱と酸素に弱く、強い加熱で分解しやすいことを背景として挙げています。ただし総色差(ΔE)については、温度による統計的に有意な違いは認められませんでした。
粉末の流動性を示すカー指数とハウスナー比は、いずれも表の分類で「良好」にあたる値となりました。泡の性質では、オーバーラン(泡立ちによる体積の増え方)が117.04と高い値を示し、著者らはこれを泡立て剤としての適性を示すものと位置づけています。
生理活性成分では、総フェノール、総フラボノイド、総アントシアニンのいずれも350W・50℃の試料で最も高く、温度が上がると有意に低下しました(p<0.05)。一方、総抗酸化活性はこれと一致せず、60℃と70℃の試料のほうが高い値を示しています。著者らはこの食い違いについて、抗酸化能はフェノールやフラボノイドの量だけで決まるのではなく、加熱によって生じる化合物(たとえばメイラード反応の生成物や熱に強い低分子)が寄与している可能性がある、という解釈を示しています。ただしこれは論文中で示された推測であり、確かめられた機構ではありません。
この研究が伝えること
この研究は、ムクロジ抽出物という植物由来の材料が、トマトピューレを泡にして乾かす工程で泡立て剤として働き、得られた粉末が良好な流動性を示したことを報告しています。また、温度を変えると乾燥の進み方やエネルギーの使われ方が変わり、色や成分の残り方も一様ではないことが確かめられました。特に、フェノール類の保持を重視するなら低い温度が有利であるのに対し、抗酸化活性の測定値はそれと逆の傾向を示すという結果は、粉末の品質を成分量だけで判断することの難しさを浮かび上がらせます。
著者らは、成分の量と機能としての働きの両面から多角的に評価する必要があると述べ、本研究をムクロジ抽出物の可能性を示す予備的な知見として位置づけています。
著者:Edanur Türk(Faculty of Agriculture, Department of Biosystems Engineering Tokat Gaziosmanpaşa University Tokat Turkey)、Muhammed Taşova(Faculty of Agriculture, Department of Biosystems Engineering Tokat Gaziosmanpaşa University Tokat Turkey)、Osman Nuri Öcalan(Faculty of Agriculture, Department of Horticulture Tokat Gaziosmanpaşa University Tokat Turkey)、Emircan Di̇nçer(Faculty of Agriculture, Department of Horticulture Tokat Gaziosmanpaşa University Tokat Turkey)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Edanur Türk, Muhammed Taşova, Osman Nuri Öcalan, et al. Hybrid‐Assisted Foam Drying of Tomato Puree: Process Kinetics, Energy Efficiency, and Quality Attributes Using Sapindus mukorossi as a Natural Foaming Agent. Journal of Food Process Engineering 2026-09-01. DOI: 10.1111/jfpe.70787. 原著ライセンス:CC BY.