この研究は、インドネシア、オランダ、イギリス、スウェーデン、イスラエルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Environmental Research Food Systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ水産食品の消費を調べたのか
「ブルーフード」とは、海や川、湖など水の中で採れる動物や植物を指す言葉です。魚介類のほか、海藻なども含まれます。研究チームは、こうした水産由来の食品が、良質なたんぱく質だけでなく微量栄養素やオメガ3脂肪酸を供給するため、低・中所得国の栄養不足を改善する力を持つと説明しています。一方で、産地や季節、価格、文化的な慣習によって手に入りやすさが大きく変わり、国と国の間だけでなく一つの国の中でも消費の偏りが生じやすいとも述べています。
著者らがインドネシアに注目したのは、同国が世界第3位のブルーフード生産国であり、魚が食生活に深く根づいている一方で、微量栄養素の不足や子どもの発育阻害(スタンティング)が依然として多いためです。この組み合わせは、水産食品へのアクセスの不平等がどのような要因で生まれ、どう和らげられるのかを考えるうえで重要な事例になる、というのが研究の出発点です。論文は「ブルーフード部門の消費はどれだけ平等に分布しているのか、そして動物性食品へのアクセスを何が決めているのか」という問いを掲げています。
何をどう調べたか
分析には二つの層のデータが使われました。一つは国全体の生産量と輸出入の統計(生産は2005〜2020年、輸出は2016〜2020年)、もう一つはインドネシアの全国社会経済調査(SUSENAS)です。SUSENASは34州・514の市区にまたがる34万32世帯(合計約128万人分)を対象に、188の食品について消費と支出を記録したもので、本研究では2018年と2021年のデータが使われています。所得の項目がないため、著者らは食費と食費以外を合わせた月間支出総額を所得の代わりの指標として用いたと明記しています。
世帯の申告は食べられる部分の重さなので、研究チームはこれを丸ごとの魚の重さ(生重量)に換算したうえで、州の人口を掛け合わせて全国の消費量を積み上げています。乾燥や塩蔵など保存加工した魚については水分が減っている分を補正しています。不平等の程度を測るには、所得を5つの層に分けて消費・支出を比べる「エンゲル曲線」と、分布全体の偏りを0(完全に平等)から1(完全に不平等)の数値で表す「ジニ係数」が用いられました。さらに、所得、都市か農村か、世帯規模、地元の生産量という要因を一つずつ取り上げる回帰分析で、消費を左右する要素が検討されています。
著者らは限界も挙げています。データの対象期間がそろっていないこと、文化的な規範や食の好みといった重要な要因が数量データでは捉えられないこと、SUSENASが世帯単位の調査であるため世帯内での男女差などの偏りは観察できないことなどです。
主な報告結果
生産面では、2005年の約700万トンから2020年には約2200万トンへと3倍以上に拡大し、そのうち1500万トンが養殖によるものだったと報告されています。伸びを牽引したのは主に海藻の養殖と、沿岸・淡水の池での養殖です。一方、輸出は2020年で約120万トン、生産全体の5%程度にとどまりました。金額で見ると最大の輸出品目はエビで、年平均18億米ドルに達しています。つまり、国内で生産されたブルーフードのおよそ95%は国内で消費されており、輸出は主に国際市場向けのエビが占める、というのが著者らの整理です。
消費面では、全国平均の一人あたりブルーフード消費量は年48.0キログラム(生重量換算)と算出されました。州別では北カリマンタン(88.4kg)、リアウ諸島(87.7kg)、アチェ(83.1kg)が高く、逆にジョグジャカルタ特別州(23.2kg)、中部ジャワ(27.8kg)、西ジャワ(34.7kg)が低い値を示しています。ジョグジャカルタの低さについて著者らは、同州のブルーフード生産量が全国の州平均のおよそ7分の1にとどまることと関連している可能性を挙げています。
公平性に関する中心的な発見は、ブルーフードのエンゲル曲線が陸の動物性食品よりも傾きが緩やかだ、という点です。これは所得層による消費量の差が相対的に小さいことを意味します。所得上位20%の世帯は下位20%の世帯より動物性たんぱく質全体を約4倍消費していましたが、ブルーフードと卵は最も平等に分配されている動物性たんぱく質でした。一人あたりで見ると、生鮮魚の上位層/下位層の比は1.7にとどまります。保存加工した魚ではこの比が1を下回り、低所得層のほうがむしろ多く消費していることが示されました。著者らは、保存魚が安価で日持ちし、冷蔵設備の乏しい地域に適していることを理由として挙げています。
都市と農村の差は控えめだった一方、世帯規模による差はより明確でした。世帯人数が4人以下の小規模世帯は、5人以上の大規模世帯より一人あたりの魚消費量が多い傾向があります。著者らはその背景として、限られた食費を多くの人数で分け合う予算制約や、分け合う際の慣行を挙げています。回帰分析でも所得と世帯規模が主要な決定要因であることが確認され、地元の生産量とアクセスの関連は弱いにとどまりました。これは州をまたぐ流通が広く行われているためだろう、と説明されています。
この研究が示すこと
著者らは、インドネシアにおけるブルーフード消費が比較的公平に分布していることは、水産食品が食料・栄養の安全保障を支える役割の大きさを示していると述べています。特に、低所得世帯にとっての保存魚の重要性は、価格だけでなく保存性や流通の条件が「誰が魚を食べられるか」を左右していることを浮かび上がらせます。
政策への示唆として論文が挙げるのは、コールドチェーン(低温流通)の整備、収穫後の損失削減、保存魚の生産支援、流通網の改善などです。同時にこれらは、貧困削減や教育、保健、衛生、生態系管理といった広い取り組みと組み合わせる必要があるとされています。インドネシアの事例は、より公平で持続可能な食のあり方を目指す他の国々にとっても参考になる、というのが著者らの結びです。
著者:Adisa Ramadhan Wiloso(Pamulang University)、Patrik J. G. Henriksson(Institute of Environmental Sciences (CML), Leiden University)、Edi Iswanto Wiloso(Pamulang University)、Tomas Chaigneau(Environment and Sustainability Institute, University of Exeter)、Maike Hamann(Centre for Geography & Environmental Science, University of Exeter)、Rizkyana Dipananda(Amsterdam Institute for Social Science Research, University of Amsterdam)、Emilie Lindkvist(Stockholm Resilience Centre, Stockholm University)、Sharon Suri(Amsterdam Institute for Social Science Research, University of Amsterdam)、Geraldine D Verkleij(Stockholm Resilience Centre, Stockholm University)、Alon Shepon(Tel Aviv University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adisa Ramadhan Wiloso, Patrik J. G. Henriksson, Edi Iswanto Wiloso, et al. Blue food consumption in Indonesia: patterns and determinants. Environmental Research Food Systems 2026-09-01. DOI: 10.1088/2976-601x/ae9554. 原著ライセンス:CC BY.