日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

甘いものを食べたい気持ちは、体の中のホルモンによってある程度コントロールされていると考えられています。その候補の一つがFGF21(線維芽細胞増殖因子21)というホルモンで、糖の摂取と関係することが知られています。ただし、こうしたホルモンの働きが誰にでも同じように現れるとは限りません。今回紹介する研究は、高齢者を対象に、気分の落ち込み(抑うつ症状)の有無によってFGF21と糖摂取量の関係が変わるのかを調べたものです。

この研究は日本主導で行われました。筆頭著者の坂本翔太氏、責任著者の筧佐織氏を含む研究チームは、順天堂大学大学院医学研究科のスポーツ医学・スポートロジー教室やスポートロジーセンターなどに所属しており、東京・文京区で実施されている「文京ヘルススタディ」の参加者データを用いています。

何を、どうやって調べたのか

対象となったのは、文京ヘルススタディに参加した65〜84歳の高齢者1433人です。研究チームは参加者に75gのブドウ糖を飲んでもらう経口ブドウ糖負荷試験を行い、その間の血液中のFGF21濃度の変化(iAUCという指標で評価)を測定しました。あわせて、老年期うつ病評価尺度(GDS-15)というアンケートでスコアが5点以上だった人を「抑うつ症状あり(GDS)」と分類しました。そのうえで、抑うつ症状の有無とFGF21への反応の強さで参加者を分け、ふだんのショ糖(砂糖)摂取量に違いがあるかを統計的に比較しています。

FGF21と糖摂取の関係は、抑うつ症状の有無で変わっていた

解析の結果、1433人のうち303人(21.1%)が抑うつ症状ありに分類されました。そして、抑うつ症状の有無とFGF21への反応性の間には、統計的に意味のある交互作用が見られました(p=0.045)。これは、FGF21と糖摂取量の関係そのものが、抑うつ症状のあるなしによって異なっていたことを意味します。

具体的には、抑うつ症状がない人たちでは、FGF21への反応が強いグループのほうがショ糖摂取量が低い傾向がはっきりと見られました(高反応群2.80%に対し、そうでない群は3.17%、p<0.001)。ところが、抑うつ症状がある人たちでは、FGF21への反応の強さによる摂取量の差はほとんど見られませんでした(3.08%と3.00%、p=0.780)。つまり、通常は見られるはずのFGF21と糖摂取量の関連が、抑うつ症状があると弱まる、あるいは消えてしまう可能性が示唆されたということです。

この研究をどう読むか

この研究は横断研究、つまりある一時点でのデータをもとにした分析であるため、抑うつ症状がFGF21の働きを弱めているのか、それとも別の要因が背景にあるのかといった因果関係までは明らかになっていません。著者ら自身もこの点を研究の限界として挙げています。あくまで一つの研究であり、これだけで結論が確定したわけではない点に注意が必要です。

まとめ

今回の研究では、高齢者においてFGF21への反応の強さとふだんの糖摂取量との関連が、抑うつ症状のない人では見られる一方、抑うつ症状がある人では弱まっていた可能性が報告されました。糖の摂取行動を考えるうえで、ホルモンの働きだけでなく心理的な状態も関わっている可能性を示すデータといえますが、因果関係の解明には今後さらなる研究が必要とされています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Shota Sakamoto, Saori Kakehi, Hideyoshi Kaga, et al. Depressive symptoms attenuate the association between FGF21 response and sucrose intake in older adults. エクスペリメンタル・ジェロントロジー (2026). DOI: 10.1016/j.exger.2026.113288. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.