著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。
掲載誌:Food Hydrocolloids
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
レンズ豆は豊富な植物性タンパク質と独特のデンプン特性を併せ持つ豆類として、食品開発の分野で注目されています。デンプンを使った食品は、加熱調理後に冷蔵保存すると硬くなったり水分が分離したりする「老化(レトログラデーション)」という現象が起こりますが、これは食感の劣化や品質低下につながる厄介な問題です。もしタンパク質を加えることでこの老化を抑えられれば、豆類由来の食品の保存性や食感を改善できる可能性があります。ドイツ・ミュンヘン工科大学とフラウンホーファー研究機構の研究者らは、レンズ豆から取り出したタンパク質(レンズ豆タンパク質単離物、LPI)が、同じくレンズ豆由来のデンプン(レンズ豆デンプン、LS)の糊化やゲル化、そして老化にどのような影響を与えるのかを調べました。
研究でわかったこと
研究チームは、レンズ豆デンプンにレンズ豆タンパク質を異なる濃度(最大20%)で混ぜ合わせ、1日・7日・14日間の冷蔵保存を行いながら、糊化の様子、ゲルの硬さなどの食感、老化の進み具合を測定しました。その結果、タンパク質を加えたデンプン系では、加えていない場合と比べて、保存中のゲルの硬さの指標(貯蔵弾性率)が低く抑えられ、短期的なゲルの強化が弱まることが確認されました。加熱糊化の過程を調べたパスティング分析では、粘度上昇の傾向が段階的に強まっており、研究チームはこれについて、水分をめぐるタンパク質とデンプンの競合や、加熱によるタンパク質の凝集がデンプンの網目構造の形成に影響した可能性を指摘しています。また、タンパク質の添加によってデンプン粒の膨潤やアミロースの溶出も抑えられ、タンパク質濃度20%の条件では最大で約31%の減少が見られました。食感の面でも、タンパク質を含むデンプンゲルは硬さ・ガム感・凝集性が低く、硬い網目構造ができにくいことが示されました。さらに14日間の保存を通じた長期的な老化の指標では、タンパク質を加えない場合の老化度が約39%だったのに対し、タンパク質20%添加では約25%まで抑えられたと報告されています。赤外分光分析(FTIR)では新たな共有結合の形成を示す証拠は見られず、示差走査熱量測定(DSC)でも老化に伴う熱量変化や温度上昇が抑制されていたことから、研究チームはタンパク質とデンプンの間に共有結合ではなく、水素結合を中心とした非共有結合的な相互作用が生じ、デンプン鎖同士の再会合を制限したのではないかと考察しています。共焦点レーザー顕微鏡による観察でも、膨潤したデンプン粒の周辺にタンパク質が集まっている様子が確認され、これがデンプン鎖の再構成を物理的に妨げた可能性が示唆されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は実験室レベルでレンズ豆デンプンとレンズ豆タンパク質を組み合わせた系を対象にしたものであり、実際の加工食品や調理済み食品においても同様の効果が得られるかどうかは、この研究だけでは分かりません。また、ここで観察された変化は保存中の物理的な食感やゲル構造に関するものであり、栄養面や健康面の効果を示したものではない点にも注意が必要です。本研究に日本の研究機関に所属する著者は含まれておらず、日本の食品や食習慣への言及もありませんでした。一つの研究であり、レンズ豆を用いた食品開発に直接応用できるかどうかは今後のさらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
この研究では、レンズ豆タンパク質をレンズ豆デンプンに加えることで、保存中のデンプンの老化やゲルの硬化が濃度依存的に抑えられる可能性が示されました。そのメカニズムとして、タンパク質とデンプンの間の非共有結合的な相互作用がデンプン鎖の動きや再会合を制限していることが示唆されています。今後、こうした知見が豆類由来の食品の食感や保存性の改善にどう活かされていくのか、続報が注目されます。
原著論文の著者・所属:Atefe Rezaei(School of Life Sciences, Plant Proteins and Nutrition, Technical University of Munich, 85354 Freising, Germany)、Regina Bittner(School of Life Sciences, Plant Proteins and Nutrition, Technical University of Munich, 85354 Freising, Germany)、Lara Etzbach(School of Life Sciences, Plant Proteins and Nutrition, Technical University of Munich, 85354 Freising, Germany)、Thekla Alpers(School of Life Sciences, Research Group Cereal Technology and Process Engineering, Brewing and Beverage Technology, Technical University of Munich, 85354 Freising, Germany)、Thomas Becker(School of Life Sciences, Research Group Cereal Technology and Process Engineering, Brewing and Beverage Technology, Technical University of Munich, 85354 Freising, Germany)、Ute Schweiggert‐Weisz(Fraunhofer Institute for Process Engineering and Packaging (IVV), Freising 85354, Germany)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Atefe Rezaei, Regina Bittner, Lara Etzbach, et al. Lentil protein-lentil starch interactions modulate starch gelatinization, rheological behavior, and retrogradation. フードハイドロコロイズ (2026). DOI: 10.1016/j.foodhyd.2026.113242. 原著ライセンス: cc-by.