赤ちゃんの発達において、母乳がさまざまな栄養面で注目されることは多いですが、「目の発達」との関係を調べた研究はあまり知られていません。母乳には網膜の発達や視覚の成熟に関わるとされる生理活性成分が豊富に含まれているといわれますが、粉ミルクの製造技術が進歩した現在でも、経済的な事情から標準的な粉ミルクが使われることの多い地域は少なくありません。今回紹介する論文は、完全母乳栄養児と標準粉ミルク栄養児との間で、目の機能や網膜の発達に電気生理学的な違いが見られるかを調べたものです。

研究でわかったこと

この研究は、生後4〜6か月の健康な正期産児55人を対象とした横断的な比較研究です。うち25人は完全母乳栄養、30人は標準的な粉ミルクで育てられていました。研究チームは「フラッシュ視覚誘発電位(F-VEP)」と「フラッシュ網膜電図(F-ERG)」という2種類の電気生理学的検査を用いて、視覚経路や網膜の機能を調べました。

F-VEPは光の刺激に対する脳の反応(電気信号)を測定する検査で、信号が届くまでの時間(潜時)や信号の大きさ(振幅)から視覚経路の成熟度を推測できるとされています。結果として、母乳栄養児は粉ミルク栄養児に比べてF-VEPの潜時が有意に短く(123.68 ± 18.44 対 150.63 ± 30.81、p=0.004)、P2波と呼ばれる波の振幅も有意に高い値でした(30.64 ± 23.94 対 9.23 ± 9.95、p<0.001)。

また、F-ERGは網膜そのものの反応を調べる検査で、a波・b波という代表的な波の振幅が評価されます。今回の結果では、a波・b波ともに母乳栄養児で有意に振幅が高いことが示されました(a波:11.96 ± 4.82 対 8.00 ± 1.93、p=0.001/b波:27.62 ± 10.58 対 19.21 ± 6.81、p=0.003)。効果量の分析でも、F-VEPの各指標やF-ERGの振幅について、両群間に大きな差があることが示されたと報告されています。

なお、体重については母乳栄養児のほうが有意に高かったものの、社会経済的・人口統計学的な背景には両群間で有意な差は見られなかったとされています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

研究チームは、完全母乳栄養が、より良好な網膜機能や視覚経路の成熟を示唆する電気生理学的な違いと関連していたとまとめています。ただし、これはあくまで一つの横断研究であり、母乳育児が視覚発達を「改善する」「向上させる」と断定するものではありません。対象人数も55人と限られており、観察された関連が今後さらに大規模な研究でも確認されるかどうかは、この論文だけからは判断できません。育児の選択にあたっては、こうした研究結果だけでなく、個々の家庭の状況やかかりつけ医との相談を踏まえることが大切です。

まとめ

今回の研究では、生後4〜6か月の乳児を対象に、完全母乳栄養児と標準粉ミルク栄養児との間で視覚誘発電位や網膜電図に統計学的な差が見られたことが報告されました。母乳と乳児の視覚発達との関係を電気生理学的な指標で捉えようとした興味深い試みですが、結論を確定させるものではなく、今後の研究の積み重ねが期待される分野といえるでしょう。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:早期乳児期の哺乳パターンが視覚成熟と網膜発達に及ぼす影響:電気生理学的研究(エジプト小児科学会誌・2026年08月)