高齢になると喉の渇きを感じにくくなり、体内の水分バランスを保つ働きも弱まることが知られています。特に一人暮らしの高齢者は、食事の準備が難しくなったり食欲が落ちたりする中で、水分や栄養が不足しやすい立場にあると指摘されてきました。今回紹介する研究は、韓国の国民健康栄養調査のデータを使い、独り暮らしの高齢者が食事から摂る水分量と、歯の本数や会話のしやすさといった口腔の状態にどのような関係が見られるかを調べたものです。

研究チームは2020〜2024年の5年分の国民健康栄養調査データから、65歳以上の8,164人を分析対象としました。このうち独り暮らしの高齢者(SG)が2,158人、家族などと同居する高齢者(MG)が6,006人です。ここでいう「食品を通した水分摂取量」とは、1日の食事調査(24時間思い出し法)から算出した、食品そのものに含まれる水分量の合計で、飲料水や調理時に加える水は含まれていません。この摂取量を少ない方から順にQ1〜Q4の4つのグループ(四分位)に分け、現存する自然歯の本数、噛みにくさ、話しにくさについての自己申告スコアとの関連を、社会人口学的な要因や持病を考慮したうえで統計的に分析しています。

独り暮らしの高齢者は水分摂取も歯の状態も少なめだった

まず独り暮らしと同居の高齢者を比べると、独り暮らしの高齢者では水分摂取量が最も少ないQ1グループに属する人の割合が25.1%と最多だったのに対し、同居の高齢者では摂取量が最も多いQ4グループが32.2%と最多でした。現存する自然歯の本数も、独り暮らしの高齢者で平均17.03本、同居の高齢者で平均18.84本と差が見られました。噛む機能・話す機能を合わせた口腔健康の問題スコア(点数が高いほど不便を感じている)も、独り暮らしの高齢者で平均4.69点、同居の高齢者で平均4.43点となり、いずれも統計的に意味のある差でした。

次に独り暮らしの高齢者2,158人だけを取り出し、水分摂取量の四分位グループ別に特徴を見ると、水分摂取量が少ないQ1グループほど平均年齢が高く、女性の割合や、教育歴・収入が低い層の割合が高い傾向がありました。歯の本数についても、水分摂取量が最も少ないQ1グループで平均14.97本だったのに対し、最も多いQ4グループでは平均19.02本と、単純な平均の比較では差が見られています。

年齢や持病を考慮しても見られた関連

年齢・性別・教育歴・収入・喫煙や飲酒の状況、高血圧や糖尿病などの持病といった要因の影響を統計的に取り除いたうえで改めて分析したところ、水分摂取量が最も多いグループ(Q4)を基準にすると、摂取量が少ないグループほど自然歯の本数が少なく、話しにくさや口腔健康の問題スコアが高い傾向が確認されました。たとえば自然歯の本数は、Q4を基準にQ2のグループで平均2.560本、Q1のグループで平均2.158本少ないという結果でした。ただし、この関連は水分摂取量が少なくなるほど一貫して段階的に強まるという形にはなっておらず、著者らは「完全な用量反応関係を示すものと解釈するには注意が必要」としています。噛む機能についても、補正後の分析では一部のグループで統計的な有意差が弱まっており、機能の種類によって水分摂取との関連の強さが異なる可能性も指摘されています。

論文では、体内の水分が不足すると唾液腺の働きが低下し、唾液の分泌量が減って口の中が乾きやすくなる(いわゆる口腔乾燥)仕組みが背景として説明されています。唾液は口の中を潤すだけでなく、汚れを洗い流したり細菌の増殖を抑えたりする役割を担っており、その分泌が減ることが虫歯や歯周病のリスクを高め、長期的には歯の喪失や噛む・話す機能の低下につながりうるという考え方です。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究はある一時点のデータを使った横断研究であるため、水分摂取が少ないことが歯の状態を悪化させたのか、あるいは歯の状態が悪いために食べられるものが偏り水分摂取が減ったのか、原因と結果の向きを明確に示すものではありません。また、水分摂取量は24時間思い出し法という自己申告に基づく調査で把握されているため、記憶違いなどによる誤差が生じる可能性があるほか、今回の「食品を通した水分摂取量」には飲料水や調理に使う水、日々の口腔ケアの習慣といった要因が含まれていない点も、著者らが研究の限界として挙げています。一つの横断研究の結果であり、これだけで水分摂取と口腔健康の因果関係が確定したわけではない点に留意が必要です。

そのうえで著者らは、独り暮らしの高齢者を対象とした地域の口腔保健事業において、適切な水分摂取を促す取り組みを組み合わせて検討する余地があるのではないかと述べています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ji-Young Lee, Da-Jeong Kim, Yu‐Rin Kim. Association between food-derived water intake and oral health indicators among Korean older adults living alone: a cross-sectional study using data from the 2020–2024 Korea National Health and Nutrition Examination Survey. 韓国歯科衛生学会誌 (2026). DOI: 10.13065/jksdh.2026.26.4.11.