この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Public Health Nursing
ライセンス: 論文に記載なし
年齢を重ねると、体力の衰え(身体的フレイル)だけでなく、もの忘れなどの軽い認知機能の低下が同時に進むことがあります。この二つが重なった状態は「認知的フレイル」と呼ばれ、転倒や入院、要介護、さらには死亡のリスクが高まることが知られています。近年、体内の慢性的な炎症がこの認知的フレイルの発症に関わっているのではないかという見方が出てきており、日々の食事が炎症の度合いに影響することも分かってきています。そこで注目されるのが「食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index、DII)」という、食べているものが体内の炎症をどれくらい強めたり弱めたりする傾向にあるかを数値化する指標です。これまでDIIが高い(炎症を起こしやすい食事)ほど身体的フレイルや認知機能の低下と関連することは報告されていましたが、認知的フレイルとの関係ははっきりしていませんでした。今回紹介する研究は、この点を確かめようとしたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、米国の大規模健康調査「NHANES(全米健康栄養調査)」の2011〜2014年のデータを用い、条件を満たした2,386人の高齢者を対象に横断的な解析を行いました。参加者はDIIスコアの高さによって低い順にT1(709人)・T2(763人)・T3(914人)の3グループ(三分位)に分けられています。
解析の結果、対象者全体における認知的フレイルの割合は14.9%でしたが、DIIが低いグループでは4.9%だったのに対し、中間グループでは8.1%、最も高いグループでは16.6%と、DIIが高いほど認知的フレイルの割合が高くなる傾向がみられました。また、認知的フレイルがある人はない人に比べてDIIスコアが高く、年齢も高く、白血球数や好中球・リンパ球比(NLR、炎症の程度を示す指標の一つ)の値も高いという結果でした。
統計的な分析(ロジスティック回帰分析)では、DIIスコアが1単位上がるごとに認知的フレイルのオッズ(なりやすさの指標)が、年齢や性別などの社会人口学的要因を調整した後も、さらに他の要因まで調整した「フルモデル」でも、統計的に有意に高くなることが示されました。DIIが最も低いグループと比べると、最も高いグループでは認知的フレイルのオッズが約2.25倍(フルモデルの場合)高いという結果でした。ただし中間グループについては、十分な調整を行うと統計的に有意な差ではなくなりました。
さらに、DIIと認知的フレイルの関係が単純な直線的なものではなく、曲線的(非線形)である可能性も検討されました。その結果、DIIの値がおよそ2.4を超えるあたりから、認知的フレイルのオッズがより急な角度で高くなっていく傾向が示唆されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ある一時点でのデータを使った横断解析であり、食事の炎症を起こしやすさと認知的フレイルが「同時に」関連していることを示すものであって、どちらが原因でどちらが結果かという因果関係までを証明するものではありません。論文の著者らも、時間の前後関係を明らかにするための追跡調査(前向きコホート研究)や、実際に食事を変えることで認知的フレイルの発症や進行を防げるかどうかを確かめる介入試験が今後必要だと述べています。今回の結果は、あくまで一つの横断研究から得られた関連性であり、これだけで結論が確定したわけではない点に留意して読む必要があります。
まとめ
今回の研究では、米国の高齢者を対象にした調査データから、食事性炎症指数(DII)が高い、つまり炎症を起こしやすい傾向の食事をとっている人ほど、認知的フレイルのオッズが高いという関連が報告されました。またDII値がおよそ2.4を超えると、その関連がより強まる可能性も示唆されています。ただし、これは横断的な関連を示したものであり、食事を変えれば認知的フレイルを防げると断定するものではありません。今後の追跡調査や介入研究の結果が待たれるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):高齢者における食事性炎症指数と認知的フレイルの関連:NHANESデータの横断解析(パブリック・ヘルス・ナーシング・2026年08月)
著者:Zihan Yi(Department of Nursing People's Hospital of Deyang City Deyang Sichuan Province China)、Na Zhou(Department of Cardiovascular Medicine The First Affiliated Hospital of Chengdu Medical College Chengdu Sichuan Province China)、Zikejimu Sun(Department of Nursing People's Hospital of Deyang City Deyang Sichuan Province China)、Xiaochu Liu(Department of Cardiovascular Medicine People's Hospital of Luzhou City Luzhou Sichuan Province China)、Chengchuan Chen(Department of Anesthesiology The Affiliated Hospital of Southwest Medical University Luzhou Sichuan Province China)