この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
ジャスミン茶は、緑茶の茶葉に生のジャスミンの花の香りを移して作る中国の伝統的な花茶です。香りの良さがよく語られますが、著者らは、茶の品質は香りだけで決まるのではなく、味や口当たりとの釣り合いも重要だと指摘しています。そして味の土台になるのは、香りづけの前段階にあたる「茶ベース(茶坯)」、つまり元になる緑茶そのものです。
苦味と渋味は、ジャスミン茶の味の質を左右する重要な要素です。論文によれば、これらの強さはカフェインやカテキン類、ポリフェノール、アミノ酸といった味に関わる成分の量だけで決まるのではなく、成分同士の複雑な相互作用によっても変化します。ただし著者らは、種類の異なる茶ベースから作られたジャスミン茶で、苦味と渋味を調節している主要な成分は何なのか、まだはっきりしていないと述べています。この点を化学成分の側から明らかにすることが、本研究の目的とされています。
どのように調べたか
著者らは、性質の異なる4種類の緑茶(碾茶、曲がった形の毛峰茶、蘭の花のような形の毛峰茶、平たい形の緑茶)を茶ベースとして用い、それぞれから30℃と35℃という2つの香りづけ温度でジャスミン茶を作りました。香りづけは16時間を1回として3回繰り返し、緑茶と生花の重量比は10対7に揃え、温度以外の条件は共通にしています。
出来上がった茶と元の茶ベースについて、カテキン類、フラボノール配糖体、カフェイン、遊離アミノ酸といった主要成分の濃度を機器分析で測定しました。同時に、訓練を受けた6名の専門審査員が、まろやかさ・甘味・うま味・渋味・濃厚さ・苦味の6項目を0から10の11段階で評価する定量的記述分析を行いました。評価は、三桁の番号を付けた無臭の器で順番をランダムにし、どの試料かを伏せた状態で実施されています。
得られた成分データと官能評価の結果をあわせ、重み付き相関ネットワーク解析(WGCNA。多数の成分をふるまいの似たグループに分け、それぞれが味の評価とどう関係するかを見る統計手法)で、味に関わる候補成分を絞り込みました。さらに、候補となった成分を実際の茶の抽出液に少量加えて味の変化を確かめる「添加実験(スパイク実験)」を行い、統計上の関連が本当に味覚として現れるかを検証しています。
主な報告結果
まず成分の変化として、総カテキン量とカフェインは4種類の茶で香りづけの前後を通じて安定していた一方、総フラボノール配糖体は香りづけ後に増加し、総アミノ酸量は大きく減少したと報告されています。アミノ酸の減少は主にテアニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の低下によるもので、その分解は30℃よりも35℃で概して顕著でした。
WGCNA では2つの成分グループが見つかり、そのうち一方(M1)が苦味と渋味に対して有意な負の相関、甘味とうま味に対して有意な正の相関を示しました。この解析から、カテキン、ガロカテキンガレート、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アラニンが味に関わる候補として挙げられています。ただし著者らは、これらは統計的な関連であり、実際の味への寄与はさらなる確認が必要だと明記しています。
添加実験では、効果が茶の種類(マトリックス)によって変わることが示されました。グルタミン酸を加えると、毛峰茶の抽出液では苦味の評点が対照の8.6から6.8へ下がりましたが、碾茶の抽出液では苦味を抑える効果は見られず、4.6から4.9へわずかに上がりました。テアニンでは逆方向で、毛峰茶では苦味評点が8.6から8.9、9.2へと上がり、碾茶では0.3 mg/mLの添加で4.6から3.5へ有意に下がりました。アスパラギン酸は両方の茶で苦味を下げ、0.12 mg/mLで最も効果が大きく、毛峰茶は8.6から7.5、碾茶は4.6から3.7になりましたが、0.15 mg/mLに増やすと効果は弱まりました。アルギニンは苦味への影響がごく小さく、著者らは試験条件下での苦味への寄与はほとんどないとしています。
なお著者らは、添加実験に用いた茶のマトリックスが代表的な2種類に限られ、官能評価の審査員も6名であったため、さまざまな茶ベースへの一般化には限界があると自ら述べています。
この研究が示すこと
同じ成分を加えても、ある茶では苦味が和らぎ、別の茶ではそうならない——著者らが繰り返し示したのはこの点です。論文は、ジャスミン茶の味が個々の成分単独ではなく複数の成分の組み合わせと、抽出液の中での成分同士の相互作用によって形づくられていると結論づけています。
つまり、味の調整は「何を足すか」だけでは決まらず、土台となる茶ベースがもともとどんな成分構成をもっているかに左右されます。著者らはこの知見が、茶ベースの選定や味の最適化を考えるうえでの手がかりになりうるとしています。
著者:Yi-Jie Liu(Tea Research Institute, Zhejiang University, Hangzhou 310013, China)、Jiale Chen(Tea Research Institute, Zhejiang University, Hangzhou 310013, China)、Meijuan Hu(Zhejiang Huamingyuan Tea Co., Ltd., Jinhua 321000, China)、Jian‐Hui Ye(Tea Research Institute, Zhejiang University, Hangzhou 310013, China)、Wen-Wen Luo(Jinhua Department of Economic Specialty Technology Promotion, 828 Shuanglong South Road, Jinhua 321000, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yi-Jie Liu, Jiale Chen, Meijuan Hu, et al. Correlation Analysis and Spiking Validation of Flavor Compounds Modulating Bitterness and Astringency in Jasmine Tea. Foods 2026-08-28. DOI: 10.3390/foods15173047. 原著ライセンス:CC BY.