レモンジュースやレモン精油をつくる工場では、果皮を中心に大量の副産物が出ます。この果皮には、食品のとろみづけやゲル化剤として使われる多糖類「ペクチン」が豊富に含まれており、廃棄物の有効活用先として注目されています。ポルトガル・カトリック大学のバイオテクノロジー・ファインケミストリーセンター(CBQF)の研究チームは、ポルトガル産レモン(Citrus limon、Eureka種)の副産物からペクチンを取り出す際、使用する酸の種類と乾燥方法の組み合わせによって、得られるペクチンの性質がどう変わるかを詳しく調べました。

この研究で特徴的なのは、対象としたレモン果皮が、精油やポリフェノールなど価値の高い成分をあらかじめ抽出した「残りかす」だという点です。つまり単にペクチンだけを取るのではなく、一つの原料から複数の有用成分を順番に取り出す「バイオリファイナリー」的な流れの中でペクチンがどう振る舞うかを検証した点が、この論文の狙いとされています。

どのように調べたのか

研究では、ポルトガル・アルガルヴェ地方の生産者から供給された規格外レモン(等級IIの果実)の果皮を粉砕し、クエン酸・塩酸・硫酸という3種類の酸(いずれも0.05Mでpm2に調整)を使い、95℃・90分間の熱酸抽出を行いました。抽出後のペクチンは、オーブン乾燥(50℃)または凍結乾燥のいずれかで仕上げ、酸3種類×乾燥2種類=6通りの条件で比較しています。抽出は独立した3バッチをそれぞれ3回ずつ分析(合計9回)する形で行われました。

得られたペクチンは、水分・灰分・タンパク質含量、pH、色(明るさを示すL*値など)、単糖組成(HPAEC-PADという分析手法)、分子量分布(HPLC-SEC)、エステル化度、赤外分光(FTIR)、電子顕微鏡による表面観察(SEM)、熱的性質(示差走査熱量測定、DSC)、結晶性(粉末X線回折、PXRD)、そして水に溶かした際の粘度と流動性(レオロジー特性)まで、多角的に比較されています。

研究でわかったこと

ペクチンの回収率は19.6〜26.7%の範囲で、中でもクエン酸抽出と凍結乾燥を組み合わせた条件が最も高い約26.7%を記録しました。研究チームは、クエン酸が比較的穏やかな抽出環境をつくり、ペクチンを溶け出させつつ酸による分解を抑えた可能性を指摘しています。乾燥方法による回収率の差は、凍結乾燥がやや高い傾向を示したものの、統計的に有意な差ではなかったとされています。

乾燥方法の違いは、見た目や成分に明確な差として表れました。オーブン乾燥のペクチンは水分含量が8.5〜10%とやや高く、色も明るさを示すL*値が57.02〜65.67と、加熱による褐変が疑われるやや濃い色合いでした。一方、凍結乾燥のペクチンは水分含量が1.88〜2.47%と低く、L*値も78.82〜83.75と明るい色を保っていました。灰分含量はオーブン乾燥品で1.78〜3.14%、凍結乾燥品で0.14〜0.32%となり、食品用ペクチンとして一般的とされる灰分1〜10%の範囲に収まっていたことも報告されています。

ペクチンの機能性を左右するエステル化度(DE)は、すべての条件で50%以上となり、いずれも「高メトキシルペクチン」に分類されました。高メトキシルペクチンは酸性・高糖度の条件下でゲル化しやすい性質を持つとされています。ペクチンの主要構成成分であるガラクツロン酸の含量は、オーブン乾燥品で37.6〜48.9%、凍結乾燥品で44.1〜58.6%となり、凍結乾燥の方がやや高い値を示しました。なお、比較対象とした市販の柑橘ペクチンはガラクツロン酸含量が74%以上と、より高純度に精製されていたことも記されています。

分子量については、凍結乾燥品が198,000〜233,800(塩酸処理で最大)、オーブン乾燥品が184,020〜226,400という範囲で分布し、いずれも食品グレードの柑橘ペクチンとして知られる範囲に収まっていたとされています。また、クエン酸抽出のペクチンには分子量の小さい断片のピークがみられた一方、塩酸抽出のペクチンにはそうした低分子量成分がみられず、電子顕微鏡観察でも塩酸抽出品はより滑らかで均一な表面構造を示していたことが報告されています。研究チームは、この分子の安定性と表面構造の均一さが関連している可能性を指摘しています。

熱的性質については、特に凍結乾燥ペクチンで熱安定性が高いことが確認されました。また、レオロジー特性(粘度と流動性の関係)については、使用した酸の種類や乾燥方法の違いによる統計的に有意な差は見られず、食品・化粧品・医薬品分野での応用に適した性質を備えていたとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

本研究はポルトガル産の特定のレモン品種(Eureka種)の副産物を対象とした実験室規模の検討であり、得られた数値や傾向がすべての柑橘由来ペクチンに当てはまるとは限りません。また、研究チームはクエン酸抽出品にみられた低分子量断片について、透析などの追加精製工程を加えることで低減できる可能性があるとしつつも、今回の実験ではその工程は行っていないことにも触れています。灰分含量の差が生じた具体的なメカニズムについても、今回のデータだけでは確定できないと述べられています。今回の記事で紹介した内容は要旨と本文前半に基づくものであり、この一つの研究のみで結論が確定したわけではない点にご留意ください。

まとめ

レモンの搾りかすは、精油やポリフェノールを取り出した後でも、酸抽出と乾燥方法を工夫することで一定量・一定品質のペクチンを回収できる可能性が示されました。特にクエン酸抽出と凍結乾燥の組み合わせは、回収率・色調・熱安定性のバランスに優れる結果が得られており、食品副産物の有効活用(バリューアップ)を考えるうえで参考になる知見といえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Daniela Magalhães, Cristina V. Rodrigues, Sérgio Sousa, et al. Comparative Physicochemical, Structural, Thermal, and Rheological Analyses of Lemon By-Product Pectin: Hot Acid-Assisted Extraction Coupled with Drying Techniques. ポリマーズ (2026). DOI: 10.3390/polym18161989. 原著ライセンス: cc-by.