もち米を原料とする甘酒(発酵米酒)は、東アジアで親しまれてきた伝統的な発酵飲料です。近年は、こうした伝統発酵食品に新しい素材を組み合わせて風味や機能性を高めようとする研究が進んでいます。今回、中国・四川旅游学院の研究グループが、もち米とコーヒー粉末を組み合わせた新しい発酵飲料を開発し、その発酵条件や風味成分、抗酸化活性について調べた研究を紹介します。
もち米とコーヒー粉末を組み合わせて発酵
この研究では、丸もち米(round glutinous rice)とコーヒー粉末を原料として、新しい発酵飲料が開発されました。発酵条件は、直交配列法(複数の条件を効率よく組み合わせて試す実験計画法)とファジー総合評価という手法を使って最適化されています。その結果、最適な発酵条件は、発酵スターター(酒麹、Jiuqu)0.6%、コーヒー粉末10%、発酵時間56時間、発酵温度28℃であったと報告されています。
この条件で作られた甘酒について、電子舌(味の傾向を機器で測定する装置)、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)、GC-IMS(ガスクロマトグラフィーイオン移動度分析)という手法を組み合わせて、風味、物理化学的性質、抗酸化活性が系統的に評価されました。
コーヒー粉末を加えると何が変わったか
コーヒー粉末を加えることで、総フラボノイド含量が有意に増加したと報告されています。また、抗酸化活性の指標であるDPPHラジカル消去活性、ABTS+ラジカル消去活性、ヒドロキシルラジカル消去活性は、コーヒー粉末を加えない対照群と比べて、それぞれ18.36%、7.40%、10.96%高くなったとされています。
風味成分の分析では、合計173種類の揮発性有機化合物が同定され、GC-MSとGC-IMSという2つの分析手法が互いに補い合う形で強い相補性を示したことが確認されました。コーヒー粉末を加えたことで、従来のもち米甘酒が持つ香り成分は保たれたまま、2-メチルピラジンや2-エチルフランといったロースト由来の複素環化合物が新たに加わり、ナッツやローストしたような香りの特徴がもたらされたと報告されています。
さらに電子舌による分析では、甘味・苦味・塩味に対応するセンサーの応答が強まる一方で、うま味に対応する応答は低下したことが示されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究の結論として、コーヒー粉末の添加は、もち米甘酒の試験管内(in vitro)での抗酸化活性を高め、風味の幅を広げるための有効な方法であるとまとめられています。また、コーヒーを伝統的な発酵食品に応用するための科学的な基礎を提供するものであるとされています。
ここで示された抗酸化活性の数値は、あくまで試験管内での化学的な指標(DPPHやABTSなどのラジカル消去活性)に基づくものであり、体内での効果や健康への影響を直接示すものではない点に注意が必要です。また、本研究は一つの研究であり、その結論が確定したものというわけではありません。
まとめ
もち米とコーヒー粉末を組み合わせて発酵させた甘酒について、発酵条件の最適化と、風味成分・抗酸化活性の変化を調べた研究が報告されました。コーヒー粉末の添加により、ロースト由来の香り成分が加わって風味が変化するとともに、試験管内での抗酸化活性の指標が高まったことが示されています。伝統的な発酵食品にコーヒーを組み合わせるという新しい試みが、今後どのように発展していくか注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:コーヒー粉末を用いた発酵がもち米甘酒の風味品質と抗酸化活性に及ぼす影響:GC-MSとGC-IMSを組み合わせた研究(ファーメンテーション・2026年08月)