買ってきた野菜や果物が数日でしなびたり傷んだりするのは、誰もが経験する身近な悩みです。この傷みの背後には目に見えない微生物の働きがありますが、実際にどんな菌が関わっているのかは意外と知られていません。インドのタミル・ナードゥ州にある研究機関の研究チームは、市場で腐敗したトマト・キュウリ・バナナ・ブドウを集めて原因菌を調べるとともに、カニやエビの殻由来として知られる「キトサン」と、植物繊維由来の「セルロース」、そして「緑茶エキス」を組み合わせた新しいコーティング材を作り、実際に野菜や果物の鮮度保持に役立つかを試しました。
腐敗した野菜・果物からどんな菌が見つかったのか
研究チームは2025年12月の冬季に、インド・タミル・ナードゥ州コインバトールのスルール市場で、傷んだトマト・キュウリ・バナナ・ブドウのサンプルを収集しました。これらを段階的に希釈し、特定の菌だけを選んで育てる培地での培養、グラム染色、生化学的な検査という複数の手法を組み合わせて、サンプルに含まれる微生物を特定しました。その結果、Bacillus属、Staphylococcus属、Pseudomonas属、Enterobacter属、Klebsiella属、大腸菌(Escherichia coli)、Salmonella属、Vibrio属、Enterococcus属といった、多様な細菌が腐敗した野菜・果物から検出されたと報告されています。
エビ・カニ殻由来のキトサンと緑茶を組み合わせたコーティング
次に研究チームは、エビの殻の廃棄物からキトサンという成分を取り出しました。取り出したキトサンが目的の物質であることは、赤外線を使って分子の構造を調べるFTIR分光法で確認され、3348.78、2919.70、1635.34(単位はcm⁻¹)付近に特徴的な吸収ピークが見られたことから、キトサンの抽出が成功したと判断されています。このキトサンには、酸化を引き起こす物質(フリーラジカル)を消去する働きがあるかを調べるDPPH法という試験で、濃度に応じて18.18±1.29%から90.91±1.29%(濃度100〜1000マイクログラム/mL)という範囲の抗酸化活性が確認されました。さらに、寒天培地に穴を開けて薬剤を入れ、菌の増殖が抑えられる範囲(阻止円)の大きさを見る方法(アガー・ウェル拡散法)による抗菌性の評価も行われ、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して22.0±0.6ミリメートル、大腸菌に対して21.0±0.7ミリメートルの阻止円が観察されたとされています。研究チームはこのキトサンに、セルロース(ヤシの実の繊維であるコイアパイス由来)と緑茶エキスを組み合わせた複合コーティング材を作り、新鮮な野菜・果物の表面に塗布して、コーティングしていない対照群と比較しました。
保存期間はどのくらい延びたのか、そしてこの研究の限界
コーティングを施した結果、ブドウの保存可能日数はおよそ5日から12日、バナナは6日から14日、トマトは10日から18日、キュウリは7日から13日へと、いずれも延びたと報告されています。研究チームは、この延長効果が水分の蒸発を抑えたこと、追熟の進行を遅らせたこと、果肉の硬さを保ったこと、そして微生物による劣化を抑えたことによるものだと説明しています。ただし、この研究は特定の市場から集めた限られたサンプルと、4種類の野菜・果物を対象にした一つの研究であり、結論が広く確定したものではない点には留意が必要です。研究チームは、これまでの研究の多くがキトサン単体、あるいは単一の品目のみを対象にしてきたのに対し、今回は腐敗菌の特定と複数の品目への複合コーティングの適用を組み合わせた点に独自性があるとしており、合成の保存料や包装材に代わる持続可能な選択肢になりうると位置づけています。
まとめ
今回の研究では、市場で傷んだ野菜・果物から複数の腐敗関連細菌が検出されたこと、そしてエビ殻由来のキトサンにセルロースと緑茶エキスを組み合わせたコーティングが、抗酸化性・抗菌性を示すとともに、果物や野菜の保存期間を延ばす方向に働いたことが報告されました。廃棄物由来の成分を活用した保存技術という点で興味深い取り組みですが、あくまで一つの研究段階の成果であり、今後さらなる検証が待たれる分野だといえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kiruthiga Periyannan, Balachandar Subbu, Hemamala Selvaraj. Microbial Diversity of Spoiled Fruits and Vegetables and Application of Chitosan–Cellulose–Green Tea Biocomposite Coating for Postharvest Preservation. インディアン・ジャーナル・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー (2026). DOI: 10.17485/ijst/v19i31.1102. 原著ライセンス: cc-by.