著者の所属・活動拠点の国は、フィンランドです。
掲載誌:Innovative Food Science & Emerging Technologies
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
植物の細胞を培養液の中で増やす「植物細胞培養」は、さまざまな産業で役立つ物質を生み出す技術として利用されてきました。近年は、気候変動や食料供給の問題といった従来型農業の課題を背景に、培養した植物細胞そのものを食品として利用することへの関心が高まっています。培養装置(バイオリアクター)で育てた細胞は品質がそろいやすく、農薬の心配もないという利点があります。
一方で、植物細胞培養物は栄養価が高い場合があるものの、全体として風味が穏やかで物足りないという課題があります。そこで研究チームは、細胞を収穫する前に処理を加えることで、培養物に香りを生じさせられるかを調べました。
何を調べたか
研究の対象は、北欧に自生するベリーであるホッキョクキイチゴ(アークティックブランブル)、イチゴ、コケモモ(リンゴンベリー)の細胞培養物です。著者らは、培養物に添加物を加える処理と、穏やかに加温する処理によって香りを引き出すことを試みました。
香りの評価は、訓練を受けた評価者のグループが、においの特徴を項目ごとに点数化する官能評価で行いました。さらに一部の試料については、試料の上部にただよう揮発性の成分を集めて分離・同定する分析法(HS-SPME-GC–MS)を用い、どのような香り成分が含まれているかを調べました。
主な結果
抄録によると、7回の実験を通じて、0.25〜0.50%(体積比)という低濃度のエタノールで処理すると、フルーティー、ベリーらしさ、甘さといったにおいの特徴が強まりました。この効果は、処理時間が短い場合に最も強く表れたと報告されています。細胞の種類による違いもあり、ホッキョクキイチゴの細胞はフルーティーな香りの反応が最も顕著で、イチゴの細胞はベリーらしい香りとより強く結びついていました。
40℃での穏やかな加温は、一部の培養物でフルーティーさや甘さのにおいを高めた一方、ナッツのような香りも生じさせました。また、エタノールや、グレープ・クランベリージュースなどの市販ジュースを使った処理では、フルーティー、ベリーらしさ、甘さのにおいが強まり、フルーティーさは0〜15点の尺度で平均2点上昇したとされています。ジュースを用いる処理では、培養液の一部を市販ジュースに置き換えて短時間培養しました。
香り成分の分析では、合わせて114種類の化合物が確認されました。エタノール処理をした試料では、とくに酢酸エチル、アセトアルデヒド、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンといった、フルーティーさや甘さのにおいと関連づけられる成分との結びつきが見られたと報告されています。
研究が示すこと
著者らは、少量のエタノールによって植物細胞培養物に好ましい風味を生じさせられるとし、エタノールを低コストで安全な食品添加物として位置づけています。また、培養液の一部を市販ジュースに置き換えた短時間の培養にも可能性があるとしています。風味の乏しさが課題とされてきた植物細胞培養物について、収穫前の簡単な処理で香りを引き出せることを示した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Suvi T. Häkkinen(VTT Technical Research Centre of Finland Ltd, P.O. Box 1000, Espoo FI-02044, Finland)、Heikki Aisala(VTT Technical Research Centre of Finland Ltd, P.O. Box 1000, Espoo FI-02044, Finland)、Elviira Kärkkäinen(VTT Technical Research Centre of Finland Ltd, P.O. Box 1000, Espoo FI-02044, Finland)、Matti Hölttä(VTT Technical Research Centre of Finland Ltd, P.O. Box 1000, Espoo FI-02044, Finland)、Heiko Rischer(VTT Technical Research Centre of Finland Ltd, P.O. Box 1000, Espoo FI-02044, Finland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Suvi T. Häkkinen, Heikki Aisala, Elviira Kärkkäinen, et al. Pre-harvest treatments for flavour enhancement in plant cell cultures. Innovative Food Science & Emerging Technologies 2026-08-07. DOI: 10.1016/j.ifset.2026.104738. 原著ライセンス:CC BY.