私たちが日々何を食べるかは、自分の健康だけでなく地球環境にも影響を与えます。2019年、国際的な研究チームが「EAT-Lancet地球健康食事(Planetary Health Diet、PHD)」という食事の指針を発表しました。これは、生活習慣病など食事に関連する病気が増え続けていることと、食料生産が環境に与える負荷が大きくなっていることの両方に対応するために、食品カテゴリーごとに望ましい摂取量の目安を示したものです。では、実際の人々の食生活はこの指針とどれくらい一致しているのでしょうか。今回紹介する研究は、スイスの人々の食習慣がこのPHD推奨とどの程度整合しているかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、2014〜2015年に実施されたスイスの国民栄養調査「menuCH」のデータを用いました。対象は18〜75歳の成人2057人です。食品を14のカテゴリーに分類してPHDの分類と対応づけ、1日あたりの平均摂取量(グラムおよびカロリー)を2500kcalの食事に換算したうえで、PHDの推奨量を100%とした場合の割合として算出しました。あわせて、PHDへの適合度を示す「Planetary Health Diet Index(PHDI)」というスコアも計算されており、このスコアは値が高いほど推奨との一致度が高いことを意味します。
結果を見ると、14の食品カテゴリーのうち最も推奨に近かったのは魚介類で、menuCHの平均摂取量は1日あたり41kcal、PHD推奨は40kcalとほぼ一致していました(推奨比103%)。次いで穀物も、775kcal対811kcalで推奨比96%と近い値でした。一方で、最も摂取過多だったのは肉類(鶏肉を除く)で、255kcal対推奨30kcalと、推奨の850%にあたる量が摂取されていました。乳製品も556kcal対推奨153kcalで、推奨の363%と大幅に上回っていました。逆に最も摂取不足だったのは豆類で、11kcal対推奨284kcalとわずか4%にとどまり、不飽和油も138kcal対推奨354kcalで39%と少ない結果でした。また、肉の摂取量は男性が女性より有意に多いことも報告されています(298kcal対214kcal)。全体のPHDIは140点満点中82.2点で、女性(84.7点)が男性(79.3点)よりも高いスコアを示しました。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、2014〜2015年という特定の時期に実施された国民栄養調査のデータをもとにした分析です。食生活は時間とともに変化しうるため、現在の状況を必ずしもそのまま反映しているとは限りません。また、この研究はスイスという特定の集団を対象にしたものであり、他の地域や国の食生活に同じ傾向が当てはまるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。あくまで一つの研究であり、これだけで結論が確定したわけではない点には留意が必要です。
まとめ
今回の分析では、スイスの食生活はPHD推奨と比べて、特に肉類と乳製品で摂取量が大きく上回り、豆類は大きく下回っているという整合性のギャップが示されました。研究チームは、より植物性食品を中心とした食事へと移行することが、健康と環境の両面での持続可能性目標との整合性を高める可能性があると述べています。ただし、これは「〜べきだ」という断定ではなく、あくまで今回のデータ分析から示唆される方向性として報告されている点を押さえておきたいところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:スイスの食生活とEAT-Lancet地球健康食事推奨との整合性評価(BMCグローバル・アンド・パブリックヘルス・2026年08月)