高血圧や心血管疾患のリスクを語るとき、塩分(ナトリウム)の摂りすぎがよく話題になりますが、実はナトリウムと並んでカリウムの摂取量も重要な指標とされています。尿の中に排出されるナトリウムとカリウムの比率(ナトリウム/カリウム比)は、日々の食事内容を映し出す鏡であると同時に、心血管系のリスクとも関連づけられる値として研究されています。今回紹介するのは、スイス南部のティチーノ州に住む成人を対象に、この尿中ナトリウム・カリウム比を実際に測定して調べた研究です。

どのように調べたのか

研究チームは、ティチーノ州の成人1,037人(女性567人、男性470人)を対象に、尿検査によってナトリウム排出量とカリウム排出量を測定しました。得られたデータをもとに、まず男女間でナトリウム排出量・カリウム排出量・ナトリウム/カリウム比を比較し、続いて年齢やBMI(体格指数)との関係を線形回帰分析という統計手法で調べています。

何がわかったのか

結果を見ると、女性のナトリウム排出量は1日あたり平均7.2グラム(食塩換算)だったのに対し、男性は9.5グラムと、男性のほうが多いことが示されました。カリウム排出量についても女性が1日平均2.2グラム、男性が2.7グラムと、こちらも男性のほうが多い傾向がありました。これらの差はいずれも統計的に意味のある差とされています。両者を組み合わせたナトリウム/カリウム比は、女性が平均2.29、男性が2.53となり、男性のほうが高い値を示しました。年齢やBMIなども含めた統計解析では、男性であること自体がこの比の高さと独立して関連しており、BMIとの明確な関連は見られなかったと報告されています。研究チームは、男性でこの比が高くなる背景には摂取エネルギー量の多さが関係している可能性がある一方、食品の選び方の違いも否定はできないとしています。

さらに、世界保健機関(WHO)が推奨する目安(ナトリウムは食塩換算で1日5グラム未満、カリウムは1日3.5グラム以上)と比較すると、今回調査した男女とも、ナトリウムの摂取量は推奨値を上回り、カリウムの摂取量は推奨値を下回っていることが示されました。ただし、この傾向はスイスや欧州の他の調査結果と概ね一致するものだったとされています。

この研究を読むうえで押さえておきたいこと

この調査はティチーノ州という特定の地域に住む成人を対象にしたものであり、尿中排出量という指標を用いて食事由来のナトリウム・カリウム摂取量を推定する手法に基づいています。研究チーム自身も、ナトリウム・カリウムの摂取バランスの偏りには、加工食品(ナトリウムを多く含む傾向がある)と生鮮食品(カリウムを多く含む傾向がある)の摂取比率が関係している可能性を指摘しており、生鮮食品を中心とした食生活を後押しする必要性を論じています。この研究には日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は含まれておらず、あくまでスイスの一地域における人口調査としての知見である点に留意してください。一つの地域を対象とした研究であり、ここで得られた関連が他の地域や集団にそのまま当てはまるとは限りません。

まとめ

今回の研究では、スイス・ティチーノ州の成人においてナトリウム摂取量がWHOの推奨値を上回り、カリウム摂取量が推奨値を下回っている実態が、尿中排出量の測定を通じて示されました。また、男性は女性よりもナトリウム/カリウム比が高く、この差は年齢やBMIとは独立した関連として確認されたとされています。塩分や特定の食品を摂ることが病気を引き起こす、あるいは予防するといった断定はできませんが、生鮮食品と加工食品のバランスを見直すきっかけとして、こうした人口レベルの調査結果は参考になるかもしれません。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Sarah Polacsek, Sébastien Sare, Luca Gabutti. Consumo di sodio e potassio in Ticino; uno studio di popolazione. TMTピア・レビューズ (2026). DOI: 10.63648/vtdr0g50.