子どもの頃に食べた料理の味を思い出すとき、その記憶が呼び起こす感情は人によって同じではありません。実家の台所の匂い、家族で囲んだ食卓、あるいはSNSで見かけた懐かしい見た目の料理など、「子ども時代の食」に対する意味づけは、育った時代背景によって変わってくるのではないか。トルコのクルシェヒル・アヒ・エヴラン大学に所属するEla Oğan氏、Ecem Akay氏、Yener Oğan氏らの研究チームは、この問いを世代間の比較という切り口から検討しました。
研究チームが注目したのは、文化的記憶、ノスタルジー(郷愁)に基づく消費行動、そして美食体験という三つの観点です。食べ物にまつわる思い出は個人的なものであると同時に、世代ごとの生活様式や社会の変化を映し出す鏡にもなり得ると考えられます。
どのように調べたのか
この研究では、X世代・Y世代・Z世代にあたる合計30名を対象に、半構造化インタビューという聞き取り調査の手法を用いています。対象者は無作為に選ばれたのではなく、各世代を代表するとみなされる人物を意図的に選定する「有意抽出法」によって集められました。数値データを統計的に処理する量的調査ではなく、語られた言葉や語り方そのものを丁寧に読み解く質的研究のアプローチが取られている点が特徴です。
世代によって異なる「子ども時代の食」の意味
インタビューの分析から見えてきたのは、食べ物に対して抱く意味が世代ごとに大きく異なるという点です。X世代にとって食べ物は、生産や労働、そして故郷への帰属意識と結びついたものとして語られたとされています。一方でY世代にとっては、家族の儀式や「あの頃への憧憬」といった感情と結びついているという結果が示されました。そしてZ世代では、個人的な安らぎ(コンフォート)や、料理の見た目の美しさ・視覚的な魅力が重視される傾向がうかがえたとしています。
ノスタルジー消費、つまり懐かしさを求めて特定の食べ物を選ぶ行動の動機についても、世代差が報告されています。X世代は過去への忠誠心が強く、家庭外での飲食そのものに否定的な態度を示す傾向があるとされました。Y世代は習慣や連続性を大切にする姿勢が見られ、Z世代は伝統的な味を現代的な形にアレンジして楽しむことに対して開放的であると分析されています。
さらに研究チームは、それぞれの世代にとって食文化がどのような位置づけにあるかを、X世代では「生き方(ライフスタイル)」、Y世代では「文化的な架け橋」、Z世代では「体験としての楽しみ」という言葉で整理しています。伝統的な食文化の将来については、X世代がやや悲観的な見方を示す一方、Y世代はそれを次世代へ伝える責任を意識しており、Z世代は形を変えながらもその継承者となることが期待される、という見方が示されています。
この研究を読むうえで気をつけたいこと
この研究は、あくまで30名という限られた人数を対象にした質的な聞き取り調査に基づくものであり、統計的に一般化できる結論を示したものではありません。また、対象となった参加者の選定や文化的背景に調査地域固有の事情が反映されている可能性もあります。世代ごとの傾向として語られている内容は、あくまで今回のインタビューから読み取れた一つの見立てであり、すべての人に当てはまるものではない点に留意しておきたいところです。
この研究において、日本の研究機関や日本の食文化への言及は見当たりませんでした。
まとめ
今回の研究は、子ども時代の食べ物にまつわる記憶やノスタルジーが、世代によって異なる意味を持ち得ることを、聞き取り調査を通じて浮かび上がらせたものです。食文化の継承や、世代間でどのように受け継がれていくのかを考えるうえでの一つの手がかりとなる研究といえそうですが、あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点を踏まえて読むのがよいでしょう。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ela Oğan, Ecem Akay, Yener Oğan. An intergenerational examination of childhood foods in the context of cultural memory, nostalgic consumption, and gastronomic experience. ブリティッシュ・フード・ジャーナル (2026). DOI: 10.1108/bfj-04-2026-0685.