著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:度重なる打撃の下で豚肉産業はどう組み替わったのか

中国は世界最大の豚肉生産国で、豚肉は国内の肉類消費の6割以上を占めています。その中国で2018年8月3日、遼寧省瀋陽市の小規模農場でアフリカ豚熱(ASF)の初めての発生が公式に確認されました。ASFは豚やイノシシに感染するウイルス性の病気で、感染力が非常に強く、致死率は100%近くに達することがあります。人の健康に直接の脅威はありませんが、社会や経済に深刻な打撃を与えます。

研究チームは、ASFをはじめとする複数の打撃が重なったことで、中国の豚肉供給網、すなわち飼料生産から養豚、と畜・加工、卸売・小売までのつながりがどのように変化したかを、数量的に体系立てて評価することを目指しました。著者らによれば、近年の急速な変化を包括的・数量的に捉えた研究はこれまで不足していました。

著者らは、こうした打撃が産業に大きな困難をもたらした一方で、供給網の構造的な高度化と近代化を加速させたと考えました。具体的には、大規模な生産者や加工業者がシェアを広げて小規模・庭先での養豚が縮小し、一つの企業が生産から加工、流通・小売までを手がける「垂直統合」が進んだという見方です。

何を調べたか:上場企業のデータと経営者への聞き取り

研究チームは、飼料、動物用ワクチン・獣医薬、養豚、と畜、豚肉加工、卸売、小売の各分野で事業を行う上場企業37社について、生産量やコスト、利益などの企業データを金融データベースから集めました。さらに、国家統計局が公表する産業連関表(各産業がほかの産業からどれだけの投入を受けて生産しているかを示す統計表)や、農業農村部による全国の養豚統計も使いました。

これらに加えて、養豚場・養豚企業、と畜場、小売業者の計17社を対象に経営者らへの聞き取り調査を行いました。この調査は研究チームの拠点がある湖北省だけで実施されたため、著者らは、ここから得られた利益配分の結果を全国に当てはめる際には注意が必要だとしています。

分析では、市場がどれだけ一部の企業に集中しているか、企業がどの程度ほかの段階の事業を取り込んでいるか、そして供給網の各段階が原価にどれだけの利幅(マークアップ)を上乗せしているかを調べました。

主な結果:大規模化の進行、川下への進出、偏った利益配分

まず、養豚の大規模化がはっきりと示されました。年間出荷頭数が500頭未満の小規模農家の数は2007年から2022年まで減り続け、全国の出荷に占める小規模農家の割合は2007年の63%から2022年には24%に下がりました。一方、年間5万頭を超える巨大農場の割合は同じ期間に0.7%から13%へ高まりました。著者らは、ASF後に小規模農家が不利になった背景として、殺処分された豚への補償や防疫対策への政府支援の不足、そして新たな衛生基準が参入の壁になったことを挙げています。

市場集中度の指標も大きく上がりました。上位3社が占めるシェアは2015年の2.66%から2025年には18.90%に増えました。各企業のシェアを2乗して足し合わせる「ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)」を上位20社の上場企業から計算すると、4.85から160.90に上昇しました。ただし論文は、この値は「高度に集中した市場」とされる一般的な基準をなお大きく下回っていると述べています。また、ASFの影響で全国の出荷頭数が大きく落ち込んだ2019年と2020年にも、上位企業の出荷頭数は同じようには減りませんでした。

垂直統合についても、飼料企業が養豚へ、養豚企業がと畜・加工へと、川下の事業に進出する動きが特にASF後に目立ちました。と畜企業が養豚に手を広げる動きも強まりました。その一方で、養豚企業が上流の飼料事業を取り込む度合いはASF後にむしろ低下しており、川上方向の統合は一様ではありませんでした。

利益の面では、上場養豚企業の平均の1頭当たり生産コストが2017年の1,427元から2021年には2,122元に上がりました。それでも豚価格の高騰により、2019年と2020年にはかつてない高い利益を上げています。ただし平均利益は2020年の1頭当たり1,981元から2023年には288元の赤字に転じるなど、養豚の利益は大きく変動しました。これに対し、と畜や小売の段階はおおむね安定してプラスの利益を確保していました。湖北省での聞き取りからは、卸売・小売、とりわけスーパーマーケットが供給網全体の上乗せ幅の大きな部分を得ており、と畜場の利幅は薄いことが示されました。

この研究が示すこと

この研究は、家畜の大きな疫病が、生産の打撃にとどまらず、産業の担い手やつながり方そのものを組み替える契機になったことを、データに基づいて示しています。病気や市場の変動による損失を吸収できる大企業が存在感を増し、生産から加工・販売までを一体で手がける形が広がりました。その一方で、利益は供給網の段階によって偏って配分されていることも明らかになりました。

著者らは、こうした変化が生産効率や防疫管理、供給網の強靱さに重要な意味を持ちうると指摘し、変化が持続可能で強靱なものになるよう政策面での目配りが必要だと述べています。中国の豚肉生産や輸入需要の変化はすでに世界の豚肉貿易や価格にも影響しており、この分析は中国国内にとどまらない関心を持つものだといえます。

原著論文の著者・所属:Sixing Deng(College of Economics and Management, Huazhong Agricultural University)、Tao Xiong(College of Economics and Management, Huazhong Agricultural University)、Chongguang Li(College of Economics and Management, Wuchang Shouyi University; Research Center for Agricultural Modernization and Agricultural Development, Wuchang Shouyi College)、Lin Li(College of Economics and Management, Wuchang Shouyi University; Research Center for Agricultural Modernization and Agricultural Development, Wuchang Shouyi College)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sixing Deng, Tao Xiong, Chongguang Li, et al. Structural transformation and market dynamics in China’s pork supply chain under major animal disease outbreaks. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-08-03. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1893475. 原著ライセンス:CC BY.