日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Cureus
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
報告の目的
カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)は、世界的に細菌性胃腸炎の主要な原因菌の一つです。加熱が不十分な鶏肉などを通じて感染し、下痢、腹痛、発熱、吐き気や嘔吐を起こしますが、多くは自然に治まります。一方で、菌が血液中に入り込む「菌血症(血流感染)」はまれであり、高齢者や持病のある人に多いとされています。腸の感染がなぜ血流感染へ進むのかについては、腸の粘膜のバリアが損なわれることや体の防御力の低下が関わる可能性があるものの、詳しい仕組みは十分に分かっていません。
研究チームは、急性腸炎に続いてカンピロバクター・ジェジュニによる菌血症を起こし、意識の変化や重い低酸素状態を伴った高齢男性の一例を報告しました。著者らは、この菌による菌血症そのものは過去にも報告されており新しい現象ではないとしたうえで、胃腸症状で受診した患者でも血流感染や臓器の機能障害を見逃さないことの大切さを示す症例として位置づけています。
症例の経過
患者は71歳の男性で、2型糖尿病、高血圧、低カリウム血症で通院中であり、9年前に大腸がんの手術を受けていました。入院前は日常生活が自立しており、海外渡航歴はありませんでした。受診の数日前に、冷凍されていた鶏の砂肝を十分に加熱せずに食べていました。受診当日には嘔吐や失禁があり、混乱した様子を家族が見つけて救急要請に至りました。
来院時は38.8℃の発熱と頻脈があり、マスクで酸素を投与しても血液中の酸素の飽和度は85%にとどまっていました。頻回の嘔吐と大量の水様性下痢がありましたが、腹痛はありませんでした。CT検査では肺炎を示す影や肺塞栓は見られず、大腸の一部(上行結腸)のむくみが認められ、急性腸炎が疑われました。意識の低下と低酸素状態から、感染に伴って臓器の働きが損なわれる「敗血症」と臨床的に判断されましたが、血圧低下を伴う敗血症性ショックには至っていませんでした。
その後、便と血液の両方の培養検査からカンピロバクター・ジェジュニが検出され、菌血症を伴うカンピロバクター腸炎と診断されました。著者らは、感染の出発点と考えられる腸と血液から同じ菌が見つかったことが、腸の感染から血流感染へ進んだことを強く裏付けるとしています。
治療と回復
原因菌が分かる前の段階では、重い全身状態を考慮して、幅広い菌に効く抗菌薬メロペネムの点滴が開始されました。入院3日目に血液と便からカンピロバクター属菌が見つかると、菌種の特定と薬の効き具合の結果を待つ間、ミノサイクリンが一時的に追加されました。8日目にカンピロバクター・ジェジュニと特定されてミノサイクリンは中止され、呼吸や全身状態が改善した12日目にメロペネムを終えて、飲み薬のアジスロマイシンに切り替えられました。抗菌薬の投与期間は合計でおよそ14日間でした。
呼吸については、高流量の酸素を鼻から送る治療(HFNC)が行われ、入院5日目に終了できました。患者は徐々に回復し、再発することなく退院しました。
この報告が伝えること
著者らは、いくつかの点に慎重な解釈が必要だと述べています。重い低酸素状態の原因については、嘔吐と意識低下による誤嚥や、敗血症に伴う肺の機能障害が候補として考えられたものの、確定できませんでした。感染源として砂肝が強く疑われましたが、食品そのものの検査は行われていません。また、一例の報告であるため、糖尿病など個々の持病が菌血症の発症にどの程度関わったかは判断できず、著者らは発症を糖尿病だけに結びつけるべきではないとしています。さらに、薬の効き具合の検査は外部の検査機関による判定結果のみで詳しい数値が確認できず、アジスロマイシンについては直接調べられていませんでした。菌血症に対する最適な抗菌薬や投与期間は確立しておらず、今回の14日間の治療が必要だったかどうかもこの症例からは判断できないとしています。
そのうえで著者らは、通常は自然に治ることの多いカンピロバクター腸炎でも、持病のある高齢者では血流感染や臓器の機能障害を伴う重い経過をたどることがあると結論づけています。カンピロバクター腸炎が疑われる患者に重い全身症状が見られる場合には、血液培養を含めて血流感染を考え、臓器の状態を注意深く評価することが重要だというのが、この報告の伝える主なメッセージです。
原著論文の著者・所属:Sayako Tanaka(. Department of General Medicine , Towada City Hospital , Towada , JPN)、Kanata Tonosaki(. Department of General Medicine , Towada City Hospital , Towada , JPN)、Eno Tanaka(. Department of General Medicine , Towada City Hospital , Towada , JPN)、Takumi Chiba(. Community Care , Unnan City Hospital , Unnan , JPN)、Ayumu Suzuki(. Community Care , Unnan City Hospital , Unnan , JPN)、Ryuichi Ohta(. Community Care , Unnan City Hospital , Unnan , JPN)、Mori Nakai(. Department of General Medicine , Towada City Hospital , Towada , JPN)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sayako Tanaka, Kanata Tonosaki, Eno Tanaka, et al. Campylobacter jejuni Bacteremia Following Acute Enteritis in an Older Adult With Diabetes Mellitus: A Case Report. Cureus 2026-10-25. DOI: 10.7759/cureus.118590. 原著ライセンス:CC BY.