この研究は、エクアドルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Geriatrics

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

加齢とともに骨格筋の量が減り、筋力や身体機能の低下を伴う状態は「サルコペニア」と呼ばれます。研究チームによれば、その割合は診断基準や調査の場によって幅があり、世界の高齢者では10〜16%程度、ラテンアメリカでは13%程度と見積もられてきました。一方で、介護施設などに入所している高齢者を対象とした研究は限られており、とくにエクアドルのようなラテンアメリカの国では、サルコペニアと体組成、そしてたんぱく質摂取の量と質を同時に調べた報告はほとんどないと著者らは指摘しています。

そこでこの研究は、エクアドル南部ロハ州の高齢者施設に入所する65歳以上の人を対象に、サルコペニアがどの程度みられるか、たんぱく質の摂取は推奨量に対して足りているか、体組成はどうなっているか、そしてサルコペニアと関連する要因は何かを調べることを目的としました。

どのように調べたか

調査は2024年から2025年にかけて、ロハ州内の3つの高齢者入所施設で行われた観察研究です。1施設は市が運営する公立、残る2施設は非営利の慈善団体が運営していました。3施設には合わせて108人が入所しており、参加条件の確認と本人の同意を経て、最終的に44人(男性17人、女性27人)が分析対象になりました。なお、調査期間中、いずれの施設にも管理栄養士は在籍していなかったと報告されています。

サルコペニアの判定には、ヨーロッパの専門家組織がまとめた2019年版の基準(EWGSOP2)が使われました。握力が基準を下回る場合を「サルコペニアの疑い」、それに加えて筋肉量の低下がある場合を「確定」、さらに歩行などの身体機能の低下も重なる場合を「重度」と分類します。握力は握力計、筋肉量は体に微弱な電流を流して体組成を推定する生体電気インピーダンス法、身体機能は椅子から立ち上がって3メートル歩き戻って座るまでの時間を測る検査で評価されました。

たんぱく質の摂取量は、思い出しに頼る聞き取りではなく「直接秤量法」で測られています。平日2日と休日1日の計3日間、施設が提供する食事を配膳前に計量し、食後の残り物も計量して、その差から実際に食べた量を求め、食品成分表を用いて栄養素量に換算しました。たんぱく質の質は、体内で利用される効率を示す「生物価」の表に基づいて評価されました。

報告された主な結果

44人のうち、確定および重度のサルコペニアに該当した人は61.3%にのぼりました。サルコペニアの疑いに当てはまる人が36.4%、該当しない人は2.3%でした。男女差は統計的に有意ではなかったものの、重度は男性に多く(47.1%対33.3%)、疑いの段階は女性に多い(40.7%対29.4%)傾向がみられたと報告されています。

男女で現れ方に違いもありました。男性では、サルコペニアがある人は骨格筋量や身長で補正した筋肉量の指標が低く、握力も有意に低い結果でした。一方、女性ではBMI・骨格筋量・筋肉量指標・体脂肪量にはっきりした差がみられた反面、握力や身体機能検査の成績では統計的に有意な差は出ませんでした。著者らは、女性ではサルコペニアが機能の低下よりも先に体格・体組成の変化として現れる可能性を示すものと述べています。

たんぱく質については、実際に食べていた量は男女とも、サルコペニアの有無にかかわらず大きくは変わりませんでした。ただしサルコペニアのある人は体格に応じて必要とされる推定量がより多いため、必要量に対する充足の度合いは低くなっていました。また、生物価で見たたんぱく質の質は、全員が中程度から非常に高いに分類され、質の低い食事は確認されませんでした。

サルコペニアと関連する要因を統計モデルで調べたところ、調整後も独立して関連が残ったのは骨格筋量とBMIで、いずれも高いほどサルコペニアに該当する可能性が低いという関係でした。年齢とたんぱく質の質は、調整後のモデルでは有意な関連を示しませんでした。なお著者らは、体脂肪量は他の指標と重なりが大きかったため最終モデルから除外したこと、対象人数が少なく解析が探索的であることを限界として明記しています。

この報告が示すこと

この調査が対象としたのは、ロハ州内の3施設に暮らす44人という限られた集団であり、観察研究であるため原因と結果の関係を確定することはできない、と著者ら自身が断っています。その上で報告されたのは、入所高齢者のあいだでサルコペニアがかなり広くみられたこと、たんぱく質は質の面では問題がなくても量が推奨に届いていなかったこと、そしてサルコペニアの有無を分けていたのは摂取量よりもむしろ筋肉量やBMIといった体組成の指標だったという点です。

BMIだけでは筋肉と脂肪の区別がつかず、サルコペニアを見落としかねない——著者らはそう述べ、筋肉量・筋力・身体機能を合わせて評価することの重要性を強調しています。また、この研究はこれまでほとんど調べられてこなかったエクアドルの施設入所高齢者について、現地のデータを示したものだと位置づけられています。

著者:Ana Sofía Vivanco-Zárate(Nutrition and Dietetics Program, Faculty of Health Sciences, Universidad Técnica Particular de Loja, Calle París, San Cayetano Alto, Loja 110101, Ecuador)、Mateo Julián Sánchez-Sánchez(Nutrition and Dietetics Program, Faculty of Health Sciences, Universidad Técnica Particular de Loja, Calle París, San Cayetano Alto, Loja 110101, Ecuador)、Estefanía Bautista-Valarezo(Medicine Program, Faculty of Health Sciences, Universidad Técnica Particular de Loja, Calle París, San Cayetano Alto, Loja 110101, Ecuador)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ana Sofía Vivanco-Zárate, Mateo Julián Sánchez-Sánchez, Estefanía Bautista-Valarezo. Prevalence of Sarcopenia and Factors Associated with Body Composition and Protein Intake in Institutionalized Older Adults from Three Long-Term Care Facilities in Loja, Ecuador: A Cross-Sectional Study. Geriatrics 2026-08-31. DOI: 10.3390/geriatrics11050115. 原著ライセンス:CC BY.