この研究は、カザフスタンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Diseases (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
何を目的とした研究か
プロバイオティクスとは、「適切な量を摂取したときに宿主の健康に有益な効果をもたらす生きた微生物」を指します。この定義は2001年に国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の専門家会合がまとめたもので、2014年に国際プロバイオティクス・プレバイオティクス学会(ISAPP)があらためて支持し、現在も国際的な標準として用いられていると著者らは説明しています。
腸内細菌叢(腸内に生息する膨大な微生物の集まり)の研究が急速に広がるなかで、プロバイオティクスはさまざまな病気の予防や治療の手段として関心を集めてきました。著者らによれば、プロバイオティクスと健康に関する論文数は20世紀末以降30倍以上に増えています。一方で、製剤ごとに含まれる菌株の種類、生きた微生物の数、製造品質が大きく異なり、臨床研究どうしの比較が難しいという課題も指摘されています。そこで本レビューは、有効性と安全性に関する現在の根拠を整理し、作用の仕組みと臨床での使われ方を検討することを目的としています。
どのように調べたか
著者らは、PubMed、Scopus、Web of Scienceという三つの文献データベースを使い、叙述的(ナラティブ)レビューという形式で文献を集めました。これは、あらかじめ定めた手順に厳密に従って網羅的に集計する系統的レビューとは異なり、テーマへの関連性と科学的な貢献度をもとに文献を選び、内容を質的にまとめていく方法です。検索は2026年7月時点まで更新されました。
検索語には「プロバイオティクス」「腸内細菌叢」「抗菌薬関連下痢症」「過敏性腸症候群」「炎症性腸疾患」「壊死性腸炎」「安全性」「有害事象」などが用いられました。採用された文献には、無作為化比較試験、観察研究、系統的レビュー、メタ解析、診療ガイドラインなどが含まれ、なかでも系統的レビューやメタ解析、無作為化比較試験、国際的な診療ガイドラインといった、より信頼度の高い根拠が優先されています。作用の仕組みを理解するうえで有用な場合には、試験管内実験や動物実験も参照されました。
主な報告内容
プロバイオティクスとして使われる微生物には、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、バチルス属などの細菌のほか、酵母であるサッカロミセス・ブラウディがあると著者らは整理しています。バチルス属は耐久性の高い芽胞をつくるため、製造・保存・輸送の過程や消化管を通過する間も生存しやすいという特徴があります。サッカロミセス・ブラウディは抗菌薬に対して本来的な抵抗性をもつため、抗菌薬治療と併用できる点が挙げられています。一方、エンテロコッカス属の菌株については、抗菌薬耐性遺伝子が他の菌に伝わる可能性があるため、安全性の慎重な評価が必要だと述べられています。
作用の仕組みとしては、腸内細菌叢の構成と働きを整えること、病原微生物と付着部位や栄養を奪い合って定着を妨げること、腸の細胞どうしをつなぐタンパク質の発現を高めて腸のバリア機能を強めること、免疫応答を調節すること、短鎖脂肪酸などの代謝産物を通じて代謝の恒常性に寄与することが挙げられています。ただし著者らは、これらの生物学的効果は菌株ごとに異なり、用量、投与期間、宿主の腸内細菌叢の個人差にも左右されるため、臨床研究の結果を解釈する際にはこれらの要素を考慮すべきだと強調しています。
臨床での有効性については、根拠の強さが用途によって大きく異なると報告されています。最も確かな根拠があるのは、抗菌薬関連下痢症の予防と、早産児における壊死性腸炎の予防です。抗菌薬関連下痢症では、ラクチカゼイバチルス・ラムノサスGGとサッカロミセス・ブラウディについて最も説得力のある根拠があるとされる一方、他の多くの菌株の有効性は十分に確立されていないとされています。早産児の壊死性腸炎については、ビフィドバクテリウム属とラクトバチルス属を組み合わせた複数菌株製剤で最も大きな効果が観察されていますが、効果の大きさや最適な菌株の組み合わせは依然として不確かだと述べられています。
他の用途では評価が分かれます。過敏性腸症候群では、症状の緩和を示す研究がある一方で結果のばらつきが大きく、米国消化器病学会(ACG)は根拠の確実性が非常に低いことなどを理由に、全般的な症状に対する日常的な使用を推奨していないと紹介されています。炎症性腸疾患では、潰瘍性大腸炎に対する根拠がクローン病より相対的に強いものの、米国消化器病学会(AGA)のガイドラインでは、いずれも臨床試験の枠組みの中でのみ検討すべきとされています。クロストリディオイデス・ディフィシル感染症については、予防目的で根拠のある特定の菌株に限って検討しうる一方、すでに発症した感染症の治療への使用は臨床試験以外では推奨されていません。乳児疝痛では母乳栄養児で最も一貫した効果が示されていますが、研究の多くはリモシラクトバチルス・ロイテリDSM 17938を評価したものであり、他の菌株に一般化すべきではないと述べられています。
安全性に関しては、多くの研究がおおむね良好な安全性プロファイルを示しているものの、まれな有害事象の危険性や長期使用の影響を十分に評価するには、現時点の根拠は不十分であると著者らは指摘しています。
この整理が意味すること
このレビューが繰り返し示しているのは、プロバイオティクスを一つの治療クラスとしてまとめて扱うことはできない、という点です。効果は菌株ごとに異なり、対象となる病気、用量、投与期間、患者側の条件によっても変わります。ある菌株で確かめられた結果を、別の製品や別の用途にそのまま当てはめることはできません。
著者らの整理は、研究の蓄積が進んだ領域と、依然として結論が出ていない領域とを見分ける手がかりを与えています。現行の国際的な診療ガイドラインが、臨床試験で有効性が示された特定の菌株に限って推奨するという立場をとっているのも、この菌株特異性という性質を反映したものだといえます。
著者:Shorabaev E(Research and Production Center for Microbiology and Virology LLP, 105 Bogenbay Batyr St., Almaty 050010, Kazakhstan.)、Sadanov A(Research and Production Center for Microbiology and Virology LLP, 105 Bogenbay Batyr St., Almaty 050010, Kazakhstan.)、Baimakhanova B(Research and Production Center for Microbiology and Virology LLP, 105 Bogenbay Batyr St., Almaty 050010, Kazakhstan.)、Ratnikova I(Research and Production Center for Microbiology and Virology LLP, 105 Bogenbay Batyr St., Almaty 050010, Kazakhstan.)、Xetayeva G(Department of Pediatric Infectious Diseases, S.D. Asfendiyarov Kazakh National Medical University, 94 Tole Bi St., Almaty 050012, Kazakhstan.)、Akhelova S(Department of Pharmaceutical Disciplines, Astana Medical University, 33 Saryarka Ave., Astana 010000, Kazakhstan.)、Turgumbayeva A(Faculty of Medicine and Health Care, Farabi University, 71 Al-Farabi Ave., Almaty 050040, Kazakhstan.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shorabaev E, Sadanov A, Baimakhanova B, et al. Safety and Effectiveness of Probiotic Preparations: A Contemporary Review. Diseases (Basel, Switzerland) 2026-08-29. DOI: 10.3390/diseases14090316. 原著ライセンス:CC BY.