著者の所属・活動拠点の国は、南アフリカです。

掲載誌:Journal of Applied Phycology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

海藻養殖は世界で拡大している産業で、生産の中心は東アジアと東南アジアです。近年はアメリカ、ヨーロッパ、アフリカでも関心が高まっています。南アフリカの西海岸には、アフリカを代表するコンブの森があります。主な構成種は「シーバンブー」と呼ばれるエクロニア・マキシマと、「スプリットファン・ケルプ」と呼ばれるラミナリア・パリダです。これらはアワビの餌や生育促進剤、増粘剤などに使われるアルギン酸の原料として商業利用されてきました。これに、ジャイアントケルプとして知られるマクロキスティス・ピリフェラを加えた3種は、いずれも南アフリカに自生しています。それにもかかわらず、養殖の方法や可能性についての情報は限られていました。

この論文は、南アフリカで進められているコンブ養殖の実現可能性調査の一環として行われた試験の報告です。研究チームは、海外で確立されたコンブ養殖の標準的な手順を在来の3種に当てはめました。そのうえで、どこまで通用し、どこに修正が必要かを調べました。目的は、これらの技術を商業規模の施設で使える形に調整し、西海岸でのコンブ養殖の可能性を評価することです。

胞子から養殖場へ

2025年1月28日、研究チームは3種が一緒に生えている西海岸のジャコブスバーイで採集を行いました。各種6個体から、胞子をつくる部分(子嚢斑)が付いた葉を集めています。葉は北へ約35kmのパタノスターにある仮設の種苗施設へ運ばれ、15℃に保たれた環境で処理されました。先行研究には塩素やヨウ素で洗浄する例があります。しかし研究チームは手順を簡素にし、薬品をできるだけ使わない方針をとりました。そのため、蒸留水と滅菌海水ですすぐ方法を採用しています。

コンブには、顕微鏡サイズの「配偶体」の世代と、私たちが目にする大きな「胞子体」の世代があります。今回の観察では、7日目までに3種とも胞子が配偶体に育ちました。14日目の時点で胞子体に移行していたのはラミナリア・パリダだけでしたが、21日目には3種すべてが胞子体になりました。49日後の胞子体の平均の長さは約1cmで、種によって0.95〜1.18cmでした。伸びが特に大きかったのは35日目から49日目にかけてでした。

苗を植え付けたサルダニャ湾のスモールベイは、波が穏やかでムール貝やカキの養殖に向いた湾です。一方で、海水の入れ替わりが少なく植物プランクトンが豊富です。さらに貝の選別作業から有機物や浮遊物も流れ込みます。こうした条件のため、1〜2mmの幼いコンブは付着生物と堆積物に覆われてしまいます。この問題に対処するため、研究チームは「海上馴化」という段階を新たに設けました。苗を巻いた糸巻き(スプール)のまま、水深3mに約10日間つるしておく方法です。この間に苗の長さはおよそ2倍の約2〜2.5cmになりました。その後、苗は水深0〜7mに垂らした縦のロープに巻き付けられ、4月から9月まで毎月測定されました。

3種の成長の違い

植え付けから約6か月後の9月12日、平均の全長には大きな差が出ました。マクロキスティス・ピリフェラが約97cm、ラミナリア・パリダが約50cm、エクロニア・マキシマが約30cmです。マクロキスティスとラミナリアは毎月着実に長くなりました。エクロニアは5〜7月にほとんど差が見られず、8月以降に大きく伸びました。成長期間を通じて、3種の順位はマクロキスティス、ラミナリア、エクロニアの順でした。

伸び方の時期にも特徴がありました。センチメートル単位の伸びが最も大きかったのは7〜9月です。一方、元の大きさに対する伸びの割合が最も高かったのは3〜5月でした。水深による違いも見られ、マクロキスティスは水深2〜4mで特に長く育ちました。9月に測った湿重量は、マクロキスティスがロープ1本あたり約18〜23kg、ラミナリアが約3〜10kgでした。エクロニアは残った個体が少なく、意味のある重量を測れませんでした。

エクロニアの不振にはいくつかの要因がありました。冬の嵐で6本のロープのうち3本が失われたほか、コンブを食べる小さな甲殻類(ケルプシラミ)の食害も受けました。付着生物も大きな問題でした。9月に残っていたエクロニアは13個体で、ムール貝や他の海藻などにほぼ全面を覆われていました。著者らはこの差を生育環境への適応から説明しています。マクロキスティスは南アフリカでは浅く半ば閉じた湾でよく育つため、穏やかなスモールベイに適応しやすかったと考えられます。エクロニアは波の荒い海岸に適応しており、そうした場所では砕ける波が葉を付着生物から守っているとみられます。

この研究が示すこと

著者らによると、この試験は、在来の3種のコンブを同じ8か月間に並行して育て、胞子から収穫までの全生活史を養殖環境で完結させた、アフリカで初めての例です。既存の方法を試し、現地に合わせて調整することで、3種とも養殖できることが示されました。

論文はあわせて、課題も具体的に示しています。春に水温が上がると付着生物が増え、コンブの品質と収量が下がりました。スモールベイで育てるのに適した時期は、およそ4月から9月と報告されています。著者らは、付着生物や堆積物の多い沿岸では海上馴化の段階を設けることを勧めています。また、規模を広げる前に場所ごとの環境を丁寧に調べ、その場所に合う種と設備を選ぶことが重要だとしています。この研究は、南アフリカでコンブ養殖を始めるための土台となる手順と、現場で直面する課題を、実際の試験結果に基づいて示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Lizeth Botes(Bivalve Shellfish Farmers’ Association of South Africa (BSASA), Saldanha Bay, 7395, South Africa; Department of Biodiversity and Conservation Biology, University of the Western Cape (UWC), Bellville, 7535, South Africa; Sound Interaxions (SI), Cape Town, 7140, South Africa)、Musadiq Schalkwyk(Bivalve Shellfish Farmers’ Association of South Africa (BSASA), Saldanha Bay, 7395, South Africa)、Waqeefah Moosa(Department of Biodiversity and Conservation Biology, University of the Western Cape (UWC), Bellville, 7535, South Africa)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lizeth Botes, Musadiq Schalkwyk, Waqeefah Moosa. Full life cycle cultivation of three local kelp species (Ecklonia maxima, Laminaria pallida and Macrocystis pyrifera) in an aquaculture setting in Small Bay of Saldanha Bay, South Africa. Journal of Applied Phycology 2026-08-14. DOI: 10.1007/s10811-026-03978-7. 原著ライセンス:CC BY.