著者の所属・活動拠点の国は、オランダ、デンマークです。

掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)

ライセンス: CC BY-SA 4.0 対象: 公開論文 確認元: DataCite

研究の目的

海底に網を引く底引き網(トロール)漁は何世紀も前から行われてきました。しかし、それが海の生態系に与える影響の研究は、主にここ数十年に限られています。蒸気機関やディーゼル機関が普及する前、底引き網漁船は風の力だけで網を引いていました。

研究チームは、過去の帆船がどれだけ底引き網漁を行えたかを量的に見積もるには、漁具を海底で引くのに必要な最低限の風速を知る必要があると考えました。そこで、帆船と漁具の特徴から、この最低風速を推定する方法を導き出しました。著者らによると、この方法は、帆走の時代から初期の蒸気トロール時代にあたる1820〜1914年の北海で、各国の底引き網船団の漁獲努力量(どれだけ漁をしたかの量)を再構成する研究に使われています。

どのように計算したか

帆走の力学は、空気と水から受ける力が複雑に絡み合っています。研究チームは、さまざまな種類の帆船に使える大まかな見積もりを目指し、主要な仕組みだけを取り出した簡略化した数式モデルを用いました。

船を前に進める力は、帆が受ける風から生まれます。帆が受ける風は、実際に吹いている風と、船が進むことで生じる風を合わせた「見かけの風」です。帆には前へ押す推力と、船を横へ押す力の両方がかかります。一方、船体には水の抵抗がかかります。この抵抗には、船体表面の摩擦、船体の形による抵抗、表面の粗さによる補正、波を立てることによる抵抗が含まれます。さらに、帆船に特有の抵抗として、横向きの力に対抗するときに生じる抵抗も考慮しました。

網を引くときの抵抗も見積もりました。網、海底に接する下側のロープ(グラウンドロープ)、網口を広げる木の梁(ビーム)、梁を支える金具(シュー)、引き綱といった部品ごとに、水から受ける抵抗を計算して合計しました。加えて、漁具が海底の土砂を押しのけることで生じる抵抗も計算に入れました。この海底での抵抗の係数は、実験室で調べられた既存の式を基にしています。ただし、当時の漁具には海底を引っかく鎖が付いていなかったため、軽い漁具に近づくよう係数を小さく設定しました。

最低風速は、帆の推力が、横向きの力に伴う抵抗と、漁具や船体などの抵抗の合計とちょうど釣り合う条件から求めます。

代表的な帆走トロール船での試算結果

研究チームは、19世紀の帆走トロール漁で主力だった英国の船団を代表する船を想定して試算しました。想定した船は全長20メートル、帆の面積約200平方メートルで、長さ12メートルの梁を持つ網(ビームトロール)を1本引きます。潮の流れに乗って海底に対しては時速2ノットで進み、水に対する速さは1ノット(範囲0.5〜1.5ノット)です。

当時の網は現代のものより軽いと考えられます。そこで、網が海底に1センチ食い込むと仮定すると、1860年代を代表する網の抵抗は、水に対して1ノットで引いた場合に2.4キロニュートンと見積もられました。抵抗の大半は水から受ける抵抗によるもので、特に網とグラウンドロープの寄与が大きいことが示されました。引く速さが遅く、食い込みが深いほど、海底の土砂による抵抗の比重が増します。引く速さが0.5ノットから1.5ノットの範囲では、網の抵抗は1.2〜4.1キロニュートンと推定されました。

船体の抵抗は速度とともに増え、高速では波を立てる抵抗が主になります。しかし、網を引くときの遅い速度では波の抵抗はほぼ無視でき、主に摩擦と船体の形による抵抗で決まりました。また、船が風上に向かって切り上がるほど、横向きの力に伴う抵抗が重要になることも示されました。

研究チームは、当時の記録とも照らし合わせました。漁師たちは、帆走中に8〜9ノットだった船の速さが、網を下ろすと6〜7ノット落ちたと伝えています。この情報から逆算すると、網の抵抗は1ノットで引いた場合に3.4キロニュートン(0.5ノットで2.8、1.5ノットで4.3キロニュートン)となりました。論文によれば、力学モデルによる推定値は、この記録から推定した値より約40%低くなっています。なお、引く速さが網の海底への食い込みに与える影響は、過程が複雑で簡単な目安もないため、モデルには組み込まれていません。

この研究が示すこと

この研究は、帆船の大きさや帆の面積、漁具の構造といった情報から、網を引くのに必要な力と風の条件を見積もる道筋を示しました。これにより、エンジンのない時代の底引き網漁がどれだけ行われていたかを、力学的な根拠に基づいて量的に再構成するための手がかりが得られます。

原著論文の著者・所属:Rijnsdorp, Adriaan D(Wageningen University & Research)、Bennema, Floris P.、Veenstra, F.、Eigaard, Ole Ritzau(Technical University of Denmark)、Thomassen, Jasmin(Technical University of Denmark)、McLaverty, Ciaran

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rijnsdorp, Adriaan D, Bennema, Floris P., Veenstra, F., Eigaard, Ole Ritzau, Thomassen, Jasmin, McLaverty, Ciaran The mechanics of sail trawling. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-08-12. DOI: 10.5281/zenodo.21904477. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。