著者の所属・活動拠点の国は、イランです。
掲載誌:Separations
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:酸化しやすい油の品質改善
ブラッククミン(学名ニゲラ・サティバ)の種子から搾った油は、食品、化粧品、医薬品などに広く使われています。一方でこの油は、低温で搾った新しいものでも、酸価と過酸化物価が高いことが知られています。酸価は油が分解して生じる遊離脂肪酸の多さを、過酸化物価は酸化の初期段階で生じる物質の多さを示す指標で、どちらも油の劣化の目安です。
著者らが注目したのは、この油に含まれる精油成分です。精油は種子に多く含まれる揮発性の香り成分で、搾った油にも移ります。著者らによれば、精油成分はそれ自体が非常に酸化しやすく、過酸化物価や酸価を高める主な要因の一つと考えられます。これまでにも種子の前処理、他の油とのブレンド、酸化防止剤の添加などが試されてきましたが、過酸化物価の抑制には十分な成果が出ていなかったといいます。そこで研究チームは、水蒸気を使って油から精油成分を取り除き、品質や保存中の安定性がどう変わるかを調べました。
何を調べたか
研究チームは、市販のブラッククミン種子を、油温が40℃を超えないよう管理しながら低温圧搾して油を得ました。この油を二つに分け、一方はそのまま、もう一方は精油成分を除去してから保存しました。除去には、油に加圧した水蒸気を短時間吹き込み、精油を含む蒸気を集めて分離する方法を用いました。装置全体は真空状態にし、冷水で油を冷やして温度の上昇を抑えています。
精油を含む油と除去した油は、遮光したガラス瓶に密閉し、室温(約25℃)で90日間保存しました。その間に、酸価、過酸化物価、色素であるクロロフィルとカロテノイド、生理活性成分のチモキノン、植物ステロール、トコフェロール(ビタミンEの仲間)、総フェノール量、脂肪酸の組成を測定しました。さらに、油を加熱しながら空気を送り込み、劣化が急に進むまでの時間を測る「ランシマット試験」で、酸化に対する安定性も比べました。
主な結果
精油を除去した油は、処理直後の時点で酸価と過酸化物価が低く、90日間の保存中もその上昇が精油を含む油より小さかったと報告されています。酸価が低くなった理由について著者らは、真空下での高温の水蒸気処理で、揮発しやすい遊離脂肪酸も一緒に取り除かれたためと考えています。ランシマット試験(110℃)でも、精油を除去した油のほうが安定性がやや高く、劣化までの時間は8.5時間で、精油を含む油の8.0時間を上回りました。
一方で、精油の除去によって有用とされる成分も減りました。チモキノンは油1キログラムあたり約2856ミリグラムから約511ミリグラムへと大きく減少しました。チモキノンは揮発しやすいため、精油とともに除去されたと著者らは説明しています。クロロフィルは1キログラムあたり3.4ミリグラムから2.0ミリグラムに減り、カロテノイド、植物ステロール(総量で約11%の減少)、トコフェロール、総フェノール量も処理によって低下しました。ただし保存中の変化を見ると、精油を含む油ではクロロフィルやチモキノンが減っていったのに対し、除去した油では保存による減少は統計的にはっきりしなかったと報告されています。
脂肪酸の組成は、精油を除去しても大きくは変わりませんでした。脂肪酸は分子の大きなトリアシルグリセロールという形で油に含まれているため、水蒸気処理では取り除かれないと著者らは説明しています。主要な脂肪酸であるリノール酸は、どちらの油でも保存中に減少しており、著者らはその原因を酸化と考えています。
この研究が示すこと
著者らは、水蒸気で精油成分を取り除くと、酸価と過酸化物価が低く、比較的長く品質を保てるブラッククミン油が得られると結論づけています。同時に、この処理ではチモキノンなどの有用成分も減るという引き換えがあることも示されました。ただし著者らによれば、処理後の油にもこれらの成分は一般的な植物油と比べて比較的多く残っており、ブラッククミン油としての機能的な特徴は保たれるとしています。酸化しやすさと有用成分の保持をどう両立させるかを考えるうえで、精油成分の存在が油の品質に深く関わることを具体的に示した研究です。
原著論文の著者・所属:Meysam Barasm(Department of Food Science and Technology, Faculty of Agriculture, University of Tabriz, Tabriz 51666, Iran)、Sodeif Azadmard-Damirchi(Department of Food Science and Technology, Faculty of Agriculture, University of Tabriz, Tabriz 51666, Iran)、Mohammadali Torbati(Department of Food Science and Technology, Faculty of Nutrition, Tabriz University of Medical Sciences, Tabriz 15731, Iran)、Ebrahim Afkhami Sarai(Food and Drug Administration, Tabriz University of Medical Sciences, Tabriz 51666, Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Meysam Barasm, Sodeif Azadmard-Damirchi, Mohammadali Torbati, et al. Effects of Stripping Essential Oil from Nigella sativa L. Oil on Its Quality Characteristics. Separations 2026-08-06. DOI: 10.3390/separations13080224. 原著ライセンス:CC BY.