著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Plant Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

Lysimachia foenum-graecumは、香辛料や食品の風味付け、天然物の素材として伝統的に使われてきた芳香植物です。独特の香りは、テルペン類、脂肪酸に由来する化合物、フェノール類など、揮発しやすい多様な成分の組み合わせによって生まれます。ただし、これらの成分構成は非常に複雑で変動もしやすく、香りの特徴を理解し改善するうえで課題になっていると著者らは指摘しています。

研究チームが注目したのは「蒸煮爆砕(スチームエクスプロージョン)」と呼ばれる処理です。植物を高圧の水蒸気にさらしたあと一気に圧力を下げることで、組織を物理的に壊し、細胞内の成分を取り出しやすくする方法です。これまでの研究は主に植物繊維の分解や有効成分の抽出効率向上に向けられており、芳香植物の複雑な香り成分の構成がこの処理でどう組み替わるのかは、あまり分かっていませんでした。そこで本研究は、中国の広西と雲南の2産地の試料を用い、処理条件の最適化と、処理前後の精油に含まれる揮発性成分の変化を調べました。

処理条件の最適化と成分の分析

研究チームはまず、処理時間、試料に加える水分の割合、蒸気の圧力という3つの条件について、一つずつ変えて精油の収率への影響を調べる実験と、複数条件の組み合わせを効率よく比較する直交実験という手法を組み合わせ、精油が最も多く得られる条件を探しました。その結果、処理時間60秒、加水率30%、蒸気圧1.5メガパスカルの組み合わせが最適とされ、この条件での精油収率は0.603%±0.009%でした。条件を一つずつ変えた実験では、圧力は1.0メガパスカル、加水率は45%で収率が最も高くなっており、最終的な組み合わせとは一致しませんでした。著者らは、条件を個別に見た場合と組み合わせて評価した場合とで最適値が異なるのは想定されることだと説明しています。

次に、この最適条件で処理した試料と未処理の試料から精油を取り出し、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で成分を調べました。GC-MSは、混ざり合った成分を分離し、それぞれが何であるかを質量の情報から特定する分析法です。さらに、多数の成分データをまとめて扱う統計手法を用いて、処理によって特に変化した成分を絞り込みました。あわせて、訓練を受けた11人の評価者による香りの官能評価も行いました。

主な結果

2産地の精油から合計95種類の揮発性成分が特定され、そのうち72種類は両産地に共通していました。一方で成分の構成や量には産地による違いが見られました。

蒸煮爆砕処理の後、精油中の揮発性成分の総量は減少し、広西産で26.1%、雲南産で22.5%低下しました。ただし、すべての成分が一様に減ったわけではなく、フェノール類や長鎖脂肪酸とその関連化合物が選択的に減るなど、成分構成そのものが変化していました。テルペン類の総量は広西産で32.5%減ったのに対し、雲南産では8.2%の減少にとどまり、同じ条件でも産地によって反応が異なっていました。脂肪酸類については、飽和脂肪酸が比較的安定していたのに対し、不飽和脂肪酸はより大きく減少したと報告されています。

統計解析では、処理前と処理後の試料がはっきりと区別され、処理に関係する主要な成分として20種類が選び出されました。その多くは長鎖脂肪酸とその関連化合物で、cis-9-ヘキサデセン酸、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、(E)-フィトールなどが含まれます。官能評価では、ハーブ様の香りとロースト様の香りが強まる傾向が見られましたが、統計的に意味のある差ではありませんでした。

なお著者らは、抽出後の溶媒除去の過程で特に揮発しやすい成分の一部が失われた可能性を認めています。また、成分の変化は、熱による分解や揮散、組織が壊れることによる成分や前駆体の放出、熱や圧力による化学変化など複数の過程が重なった結果と考えられるものの、今回のデータではそれぞれの寄与を区別できないとしています。

研究が示すこと

この研究は、蒸煮爆砕処理によって精油中の揮発性成分の総量は減る一方で、成分の構成が選択的に組み替わることを示しました。著者らは、この処理が芳香植物の化学的な成分構成を調整するための物理化学的な手段となりうると位置づけています。同時に、香りの感じ方の変化は傾向にとどまり、処理への反応が産地によって異なることも示されており、香り成分の変化には原料の性質が関わることがうかがえます。

著者:Lei Li(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)、Yongzhen Zhao(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)、Xiao Chen(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)、Changtong Lu(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)、Jiaming Zhao(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)、Haoyang Chen(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)、Gaolei Xi(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)、Pengfei Yang(College of Tobacco Science and Engineering, Zhengzhou University of Light Industry)、Miao Liang(College of Tobacco Science and Engineering, Zhengzhou University of Light Industry)、Qingfu Wang(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)、Yibo Ning(China Tobacco Henan Industrial Co., Ltd)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lei Li, Yongzhen Zhao, Xiao Chen, et al. Steam explosion-induced remodeling of volatile metabolites in Lysimachia foenum-graecum essential oil revealed by GC-MS and chemometric analysis. Frontiers in Plant Science 2026-10-15. DOI: 10.3389/fpls.2026.1962102. 原著ライセンス:CC BY.