「腸活」や「腸内フローラ」という言葉をよく耳にするようになりましたが、実際に食事を変えると腸内細菌はどのくらい変化するのでしょうか。特にアスリートのように体づくりのために特殊な食事法を取り入れる人たちにとって、この疑問は身近なテーマです。今回紹介する研究は、プロのハンドボール選手を対象に、狩猟採集民の食生活を模した「パレオ食」と、バランス重視の「合理食」という2種類の食事が、腸内マイクロバイオーム(腸内に棲む細菌たちの集まり)にどのような影響を与えるのかを調べたパイロット研究です。
栄養バランスのとれた食事は腸内細菌の多様性を保つのに役立つと考えられている一方、極端な制限を伴う食事は腸内細菌の減少やバランスの乱れを招くおそれがあると考えられています。パレオ食はスポーツ栄養への応用が検討されてきた食事法の一つですが、腸内マイクロバイオームへの影響についてはまだ十分にわかっていません。そこでこの研究では、プロのハンドボール選手が8週間、カロリーをそろえた(等カロリーの)パレオ食または合理食のいずれかを続けた場合に、腸内細菌の分類学的な構成(どんな種類の細菌がいるか)や機能的な特徴がどう変わるかが調べられました。
研究でわかったこと
この研究には、プロの男子ハンドボール選手10名が参加し、無作為に2つのグループに分けられました。5名はパレオ食を、残る5名は合理食を8週間摂取するランダム化比較試験で、いずれの食事もケータリング会社によって用意・提供されました。参加者の便サンプルは、食事開始前(ベースライン)、4週間後、8週間後の3回にわたって採取され、腸内細菌の種類や機能に関する詳しい解析が行われました。
栄養面の分析では、合理食と比べてパレオ食を摂取したグループは炭水化物の摂取量が少なく、脂質(特に不飽和脂肪酸の割合)の摂取量が多い傾向が見られました。食物繊維の摂取量はどちらのグループでも十分だった一方、ビタミンDの摂取は両グループとも不足しており、さらにパレオ食グループではカルシウム不足も見られたと報告されています。
腸内細菌の機能に関する詳細な解析では、合理食のグループにおいて特定の細菌の種類や機能に変化が見られたのに対し、パレオ食のグループでは8週間を通じて有意な変化は見られなかったとされています。また、個人差による違いも大きく、細菌の種類や機能に対する反応は人によってばらつきが見られた一方、グループ全体で見ると腸内細菌の豊富さ(多様性の指標)はおおむね安定していたと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究はパイロット研究であり、参加者は合計10名(各グループ5名)と非常に少人数です。研究チーム自身も、これらの結果を確認するにはより大規模な研究が必要だと述べています。つまり、今回の結果は今後の研究の足がかりとなる予備的な知見であり、パレオ食や合理食が腸内環境にどのような影響を与えるかについて、確定的な結論を示すものではない点に注意が必要です。
また、この研究はプロのハンドボール選手という特定の集団を対象にしたものであり、一般の人にそのまま当てはまるとは限りません。栄養面でも、ビタミンDやカルシウムの摂取不足といった課題が指摘されており、特定の食事法の良し悪しを単純に judge できるものではなさそうです。
まとめ
今回紹介した研究では、プロのハンドボール選手を対象に、パレオ食と合理食という2つの食事パターンが8週間で腸内マイクロバイオームに与える影響が比較されました。その結果、合理食では特定の細菌の種類や機能に変化が見られた一方、パレオ食では目立った変化は見られず、いずれの食事も8週間という期間では腸内細菌叢の中核的な構成を大きく変えるには至らなかったことが示唆されています。少人数を対象にしたパイロット研究であるため、今後より大規模な研究による確認が必要だとされています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:プロフェッショナルアスリートにおける腸内マイクロバイオームとパレオ食・合理食への機能的適応:パイロット研究(フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー・2026年08月)