この研究は、アイルランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:npj Science of Food
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
キムチやザワークラウト、コンブチャ(紅茶キノコ)といった発酵食品は、微生物とその代謝産物を体に届ける食品として注目され、腸内細菌への影響を調べる研究が増えてきました。しかし著者らは、これまでの研究に共通する弱点を指摘します。発酵食品を食べた影響を調べるとき、発酵させていない元の素材(キャベツそのもの、砂糖入りの紅茶など)を比較対象に置いた研究が少ないのです。
発酵していない素材にも、発酵食品と重なる成分が含まれることが知られています。そのため比較対象がなければ、観察された変化が「発酵という工程」によるものか、それとも「もとの食材そのもの」によるものかを区別できません。著者らは、この発酵そのものの寄与と食品素材(フードマトリクス)の寄与を切り分けることを目的に、マウスを使った実験を行いました。
どのように調べたか
研究チームは、4種類の発酵食品・飲料と、それぞれに対応する未発酵の対照を用意しました。固形食品としてはキムチとザワークラウト、その対照として塩水に浸けただけの未発酵キャベツです。飲料としてはウォーターケフィア(イチジクと砂糖水を発酵させたもの)とコンブチャ、その対照として未発酵のイチジク溶液と砂糖入り紅茶が使われました。
8週齢の雄マウスを各群に割り当て、8週間にわたってこれらを与えました。固形食品は飼料に5%(重量比)で配合し、飲料群は通常の固形飼料に加えて毎日新しい飲料を与えています。飲料群と野菜群では基礎となる飼料の種類が異なり、飼料自体が腸内細菌に影響しうるため、比較はそれぞれの群の中だけで行われました。
試験終了後、マウスの盲腸(大腸の入り口にある袋状の部分で、微生物活動が盛んな場所)の内容物を採取し、16S rRNA遺伝子の解析で腸内細菌の構成を調べました。あわせて、細菌がもつと予測される代謝機能の profile と、短鎖脂肪酸(食物繊維などの発酵で腸内細菌がつくる酢酸や酪酸などの物質)の濃度を測定しています。体重や餌の摂取量も毎週記録されました。
報告された主な結果
まず、与えた発酵食品・未発酵対照はいずれもマウスによく受け入れられ、体重増加の推移から見て問題は生じなかったと報告されています。
腸内細菌の構成については、発酵食品ごとに結果が分かれました。キムチを与えたマウスでは、未発酵キャベツを与えたマウスと比べて、乳酸菌に関連する属(Pediococcus、Lactiplantibacillus、Levilactobacillus、Leuconostoc_B)の相対的な割合が高くなっていました。これらはキムチの発酵に一般的に関わる菌です。一方、ザワークラウトでは逆に、未発酵キャベツ側でいくつかの属が高くなるという結果でした。
飲料の方では、発酵の有無による違いはほとんど見られませんでした。コンブチャと未発酵の砂糖入り紅茶のあいだでは、割合に差のある細菌は検出されませんでした。ただし、飲料を与えられたマウス全体は、飲料を与えられなかったマウスとは腸内細菌の構成が明確に異なっていました。つまり違いを生んでいたのは発酵の有無ではなく、飲料という素材そのものだったということです。予測された代謝機能についても同じパターンで、発酵飲料と未発酵飲料のあいだには差がなく、飲料を与えた群と与えなかった群のあいだに差がありました。
短鎖脂肪酸では、キムチを与えたマウスで酢酸の濃度が他のすべての群より高くなっていました。対照的にザワークラウトでは短鎖脂肪酸の上昇は見られず、イソ吉草酸は未発酵キャベツより低くなっていました。飲料では、発酵飲料と未発酵飲料のあいだに短鎖脂肪酸の差はありませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、腸内細菌の構成や代謝産物を形づくるうえで食品素材と発酵状態の両方が寄与するが、どちらがより重要かは製品によって異なると結論づけています。キムチでは発酵に伴う影響がはっきり見られましたが、ザワークラウト、ウォーターケフィア、コンブチャでは未発酵の対照と比べた変化はわずかでした。
この結果は、「発酵食品」をひとまとめに扱うことの難しさを示しています。適切な未発酵対照を置かなければ、実際には食材そのものによる影響を発酵の効果として過大に評価してしまう可能性があるからです。著者らは、この研究がマウスの実験であり、宿主の遺伝的多様性や個人差のある腸内細菌といった要因を含まないため、ヒトへの当てはめには限界があることも述べています。また今回の研究では行動や代謝、免疫といった宿主側の反応は測定されておらず、観察された変化がどのような意味をもつかは明らかになっていません。それでも、発酵食品の作用を正確に理解するには比較の設計そのものが鍵になる、という出発点を示した研究です。
著者:Ramya Balasubramanian(APC Microbiome Ireland University College Cork Cork Ireland)、Francesca Bietto(Department of Food Bioscience, Teagasc Food Research Centre, Moorepark Fermoy Cork Ireland)、Luiza de Paula Dias Moreira(Department of Food Bioscience, Teagasc Food Research Centre, Moorepark Fermoy Cork Ireland)、Linda Giblin(Department of Food Bioscience, Teagasc Food Research Centre, Moorepark Fermoy Cork Ireland)、Kanishka N. Nilaweera(Department of Food Bioscience, Teagasc Food Research Centre, Moorepark Fermoy Cork Ireland)、Paul D. Cotter(APC Microbiome Ireland University College Cork Cork Ireland)、John F. Cryan(APC Microbiome Ireland University College Cork Cork Ireland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ramya Balasubramanian, Francesca Bietto, Luiza de Paula Dias Moreira, et al. Fermented food matrix influences gut microbiota responses in mice. npj Science of Food 2026-09-26. DOI: 10.1038/s41538-026-01149-z. 原著ライセンス:CC BY.