日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Aquaculture Fish and Fisheries

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ヒルサ(Tenualosa ilisha)は、生物学的にも栄養面・経済面でも重要とされる魚です。淡水と海水のあいだを回遊する習性をもち、バングラデシュの水域に広く分布しています。研究チームは、この魚の腸内にすむ細菌の集まり(腸内細菌叢)が、生息する水の環境によってどう異なるのかを明らかにしようとしました。

調べた場所は、淡水域、汽水域(海水と淡水が混ざる水域)、海水域の3つです。同じ種の魚でも、生活する水域によって腸内細菌の構成や多様性が変わるのかどうかが、この研究の中心的な問いでした。

調べ方

著者らは、次世代シーケンシングと呼ばれる大量の遺伝子配列を一度に読み取る技術を用いました。具体的には、細菌の種類を見分ける目印としてよく使われる16S rRNA遺伝子のうち、V3〜V4と呼ばれる領域を増やして読み取る「アンプリコンシーケンシング」という手法です。これにより、魚の腸の中にどんな細菌がどれくらいいるかを、培養せずに調べることができます。

その結果、1809のOTU(操作的分類単位。配列の似た細菌をひとまとまりとして数える単位)が見つかり、42の門、89の綱、203の目、312の科、570の属にわたる細菌が識別されました。さらに著者らは、PICRUSt2という手法を使って、検出された細菌の構成から想定される代謝機能を予測し、種どうしの共起関係を調べるネットワーク解析も行っています。

主な報告結果

腸内細菌の多様性には、生息環境ごとの明確な違いが認められました。海水域の個体は、淡水域や汽水域の個体よりもシャノン多様度が高く、Chao1やACEといった「種の豊富さ」を示す指標も高い値を示しました。一方、シンプソン多様度には環境間で有意な差がなく、著者らは、生息環境が主に影響していたのは細菌の種類の豊富さであって、全体としての偏りの少なさ(均等度)ではないと述べています。

優占していた細菌の顔ぶれも環境ごとに異なりました。淡水域の個体ではAeromonas、Lactococcus、Photobacterium、Clostridium、Burkholderia、Bacillus、Chryseobacterium、Cetobacteriumといった属が多く見られました。これに対して海水域と汽水域の個体では、Acinetobacter、Psychrobacter、Bacillus、Lactococcus、Photobacterium、Exiguobacterium、Pseudomonasが優占し、汽水域の集団ではVibrioが比較的多く含まれていました。

注目すべき点として、いずれの試料でも、有益と考えられる細菌が病原性をもちうる細菌よりも多く存在していたと報告されています(p < 0.05)。また、PICRUSt2による機能予測では、糖質代謝、アミノ酸・ヌクレオチドの生合成、ビタミンと補因子の代謝、硫黄代謝、細菌の細胞壁生合成に関わる経路などで、生息環境に応じた違いが示されました。共起ネットワーク解析では、細菌どうしの関係の多くが正の関連であり、つながりの多い分類群がいくつか特定されたことから、著者らは、協調的な微生物間の相互作用が群集の安定性に寄与している可能性を指摘しています。

この研究が示すこと

著者らは、こうした生息環境に伴う腸内細菌叢の違いが、栄養の代謝に影響し、回遊の過程で宿主である魚が環境に適応することを支えている可能性があるとまとめています。また本研究は、宿主と微生物叢の関わりや、ヒルサの腸内微生物叢がもつ生態学的な役割を調べる研究の土台となる情報を提供するものだと位置づけられています。

同じ魚種であっても、生きる水域が変われば腸の中の細菌のありようも変わる——回遊する魚の体の内側に、環境の違いが映し出されていることを示した報告といえます。

著者:Niger Sultana Bably(Department of Fisheries University of Dhaka Dhaka Bangladesh)、Anwar Hossain(Department of Fisheries University of Dhaka Dhaka Bangladesh)、Md. Hasan Faruque(Department of Fisheries University of Dhaka Dhaka Bangladesh)、Md. Al Zahid(Department of Fisheries University of Dhaka Dhaka Bangladesh)、Md. Inja-Mamun Haque(Department of Fisheries University of Dhaka Dhaka Bangladesh)、Kozo Watanabe(Center for Marine Environmental Studies Ehime University Matsuyama Ehime Japan)、Shankar Chandra Mandal(Department of Fisheries University of Dhaka Dhaka Bangladesh)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Niger Sultana Bably, Anwar Hossain, Md. Hasan Faruque, et al. Gut Bacterial Diversity of the Migratory Hilsa Shad Tenualosa ilisha (Hamilton, 1822) From Different Habitats in Bangladesh. Aquaculture Fish and Fisheries 2026-09-24. DOI: 10.1002/aff2.70328. 原著ライセンス:CC BY.