著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
しょうゆは、たんぱく質やでんぷんを多く含む原料を微生物で発酵させて造る、東アジアを代表する調味料です。発酵や加工の過程では、酵素による分解、微生物の代謝、加熱で起こる反応などが重なり、多数の揮発性成分(においのもとになる、空気中へ広がりやすい成分)が生まれます。市販品は原料や製法、商品の位置づけがさまざまで、香りの印象にも違いがあります。
これまでの研究は、個々の重要な香り成分を特定することが中心でした。しかし実際に感じる香りは、複数の成分が強め合ったり打ち消し合ったりした結果です。そこで研究チームは、市販しょうゆの香り成分の違いと、人が感じる香りの違いがどう結びつくのかを、複数の角度から調べました。
何をどう調べたか
研究チームは北京のスーパーマーケットで、ライトタイプ、ダークタイプ、減塩、海鮮風味、有機、日本式などを含む28製品を購入しました。揮発性成分は、容器上部の空気を採取して成分を分離・検出する装置(HS-GC-IMS)で分析し、内部標準を用いたおおよその濃度(半定量値)として求めました。
香りの評価には、訓練を受けた14人の評価者が、甘い、うま味を思わせる(savory)、麦芽様、アルコール様、木のような、チョコレート様など24語のリストから「当てはまるものをすべて選ぶ」CATA法を用いました。製品ごとに各語が選ばれた回数を集計し、成分の濃度と照らし合わせて、どの成分がどの香りの語と一緒に増減するかを相関分析で探りました。
相関は「一緒に変動する」ことを示すだけで、その成分が香りを生む原因であることまでは示せません。そこで研究チームは、候補となった15成分を一つずつ実際のしょうゆに加え、香りの印象が変わるかを評価者に比べてもらう添加試験を行いました。さらに、においを受け取る嗅覚受容体のコンピューター上の立体モデルに、香り成分を2種類同時に当てはめる分子ドッキング計算も行いました。
主な結果
28製品からは、14の化学グループに属する99種類の揮発性成分が検出されました。製品ごとの揮発性成分の合計(半定量値)は1mLあたり約2025〜6280マイクログラムと、およそ3倍の差がありました。量の面ではエステル類、アルコール類、アルデヒド類の三つで全体の70.68%を占め、なかでもエステル類が最も多く含まれていました。
香りの評価では、うま味を思わせる香りと「しょうゆらしい香り」が多くの製品で共通してよく選ばれました。研究チームは、製品間の違いを見分けるのに役立つ13語に絞って成分との関係を調べました。その結果、アルコール様・うま味様・麦芽様の香りは、脂肪酸、枝分かれした構造のアルコール、エステルを中心とする成分群と一緒に強まる傾向がありました。一方、木のような香りやチョコレート様の香りは、いくつかのアルデヒド、ケトン、アルキルピラジンを含む別の成分群と結びつき、前者とは逆向きのパターンを示しました。著者らはこれを探索的な分析と位置づけています。
添加試験では、ベンズアルデヒドとプロピオン酸エチルがうま味様の香りを、2-エチル-3,5-ジメチルピラジンがアルコール様の香りを強めました。2-メチル酪酸メチルはスモーキー・肉様・アルコール様の香りを、酢酸エチルは麦芽様・肉様・アルコール様の香りを強めたと報告されています。ただし、ほかの添加では予想と逆の変化や有意な変化なしという結果もあり、効果はベースとなるしょうゆや加えた濃度によって左右されることが示されました。
分子ドッキングでは、2成分を組み合わせたモデルのうち、受容体OR10G4ではグアイアコールと2-エチル-3,5-ジメチルピラジンの組み合わせ(−10.10 kcal/mol)、受容体OR5M3ではホモフラネオールとベンズアルデヒドの組み合わせ(−13.32 kcal/mol)が最も低いスコアを示しました。スコアが低いほど、計算上は安定して結合しやすい配置と解釈されます。
研究が示すこと
著者らは、製品を横断した相関分析は香りに関わる候補成分を絞り込む手がかりになるものの、実際の効果は個々のしょうゆの中で確かめる必要があるとまとめています。また分子ドッキングは、複数の香り成分が受容体に同時に結合する様子について構造上の仮説を与えるものであり、受容体が実際に働くことや香りの感じ方の原因までを示すものではないと位置づけています。しょうゆの香りの違いは、単一の成分ではなく、成分の組み合わせとそれを取り巻く製品全体の中で生まれることを、この研究は具体的なデータで示しています。
原著論文の著者・所属:Kun Zhao(China Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Ministry of Education, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)、Qinguo Quan(China Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Ministry of Education, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)、Ping Wang(China Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Ministry of Education, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)、Siqi Hu(China Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Ministry of Education, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China; Jiangxi Province Key Laboratory of Sustainable Utilization of Traditional Chinese Medicine Resources, Institute of Traditional Chinese Medicine Health Industry, China Academy of Chinese Medical Sciences, Nanchang 330115, China)、Baoguo Sun(China Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Ministry of Education, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)、Dandan Pu(China Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Ministry of Education, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kun Zhao, Qinguo Quan, Ping Wang, et al. Volatile Chemistry and Aroma Differences in Commercial Soy Sauces: Sensory Links and Odorant–Receptor Interactions. Foods 2026-10-04. DOI: 10.3390/foods15193545. 原著ライセンス:CC BY.