著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:鶏の年齢と餌の与え方は香りをどう変えるか

文昌鶏は中国・海南省の在来品種で、国の保護対象になっています。ココナッツウォーターで鶏肉を煮る郷土料理「ココナッツチキン鍋」の主役です。この料理は調味料をほとんど使わないため、仕上がりの風味は肉そのものの香りに大きく左右されます。

採卵用の雌鶏では、産卵が進むにつれてホルモンや脂質の代謝が大きく変わります。その結果、肉に含まれる脂肪や遊離アミノ酸など、加熱したときの香りのもとになる成分も変化します。一方、養鶏では体重管理などのために、餌の量を抑える「制限給餌」が一般的に行われています。文昌鶏は産卵前から産卵後期まで幅広い年齢で出荷されますが、制限給餌と産卵段階が組み合わさったときに肉の香りがどう変わるのかは、在来品種ではほとんど調べられていませんでした。

研究チームは、産卵段階と給餌方法が肉質や香り成分にどう影響し合うかを明らかにし、条件ごとの香りの違いを「指紋」のように示すことを目指しました。

何を調べたか

研究チームは、産卵段階として160日齢(産卵前)、180日齢(産卵ピーク)、210日齢、360日齢(産卵末期)の4段階を設定しました。各段階で、餌を制限した群と自由に食べさせた群にそれぞれ3羽ずつを割り当て、合計24羽を用いました。各羽から胸肉ともも肉を採取したため、試料は計48点になります。

肉は伝統的なココナッツチキンの作り方に沿って調理しました。具体的には、ココナッツウォーターに果肉と少量の塩を加えて沸騰させ、肉を15分間煮ています。

調べた項目は二つに分かれます。一つは、保水性(ドリップロス)、硬さ(せん断力)、pH、色といった肉質です。もう一つは香り成分で、次の三つの手法を組み合わせて分析しました。

・電子鼻:複数のセンサーで香り全体の傾向をとらえる装置 ・GC-MS:香り成分を分離して一つずつ特定する手法 ・GC-IMS:微量成分の検出に強く、成分の分布を画像のような指紋として示せる手法

主な結果:産卵末期に逆転した給餌の影響

肉質では、明確な差が出たのは部位による色の違いだけでした。もも肉は胸肉より赤みと黄色みが強い結果です。硬さ、保水性、pHには、産卵段階、給餌方法、部位のいずれによっても統計的に意味のある差は見られませんでした。研究チームは、今回の制限の程度では肉の物理的な性質を変えるには不十分だったと考えています。

香りについては、GC-MSで79種類の揮発性成分が再現性よく検出されました。主に炭化水素(アルカン)、アルデヒド、ケトンなどです。香りに寄与するアルデヒドのうち、多くの条件で最も割合が高かったのはヘキサナールでした。アルカンは単独ではにおいを感じにくい成分ですが、脂質の酸化がどれだけ進んだかを間接的に示す目安として扱われています。

最も注目される結果は、給餌方法の影響が産卵段階によって変わったことです。160日齢と180日齢のもも肉では、自由給餌群のほうが、脂質の酸化に由来するアルデヒドやアルカンの割合が高くなっていました。ところが360日齢では傾向が逆転し、制限給餌群のほうがこれらの割合が高くなりました。調べた主要7成分すべてで、産卵段階と給餌方法の間に統計的な交互作用が確認され、この逆転が裏付けられています。GC-IMSの指紋分析でも、若い段階では自由給餌群のシグナルが強く、360日齢では制限給餌群が強いという同様の傾向が示されました。

部位で比べると、もも肉は胸肉より香り成分のシグナルが強く、給餌方法による差が出た成分の数も多い結果でした。研究チームはその理由として、もも肉には筋肉内の脂肪や鉄分(ヘム鉄)が多く、加熱中に脂質の酸化が進みやすいことを挙げています。また、全体として香りの違いを最も大きく左右したのは産卵段階でした。

この研究が示すこと

この研究から分かるのは、制限給餌が文昌鶏の肉の香り成分に与える影響には、どの年齢でも同じ方向に働くという一律の傾向がないことです。影響の向きは鶏の産卵段階と密接に関わっていました。著者らは、この知見が、食味の良い出荷時期を見極めたり、段階に応じた飼養管理を行ったりするための科学的な手がかりになるとしています。

ただし、著者らはいくつかの限界も示しています。結果は成分の絶対量ではなく相対的な割合の比較です。各群の鶏は3羽と少数です。対象は文昌鶏をココナッツチキン式で調理した場合に限られます。そして、人が実際に香りを評価する官能試験は行っていません。そのため、検出された成分の違いが食べたときの香りの差としてどう感じられるかは、推測の段階にとどまります。

原著論文の著者・所属:Yunpeng Huang(Institute of Animal Science and Veterinary Medicine, Hainan Academy of Agricultural Sciences, Haikou 571199, China)、Meiling Chen(Institute of Animal Science and Veterinary Medicine, Hainan Academy of Agricultural Sciences, Haikou 571199, China)、Qicheng Jiang(Institute of Animal Science and Veterinary Medicine, Hainan Academy of Agricultural Sciences, Haikou 571199, China)、Xinli Zheng(Key Laboratory of Tropical Animal Breeding and Disease Research, Xia Xianzhu Academician Team Innovation Center, Haikou 571100, China)、Tieshan Xu(Tropical Crops Genetic Resources Institute, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Haikou 571101, China)、Lihong Gu(Institute of Animal Science and Veterinary Medicine, Hainan Academy of Agricultural Sciences, Haikou 571199, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yunpeng Huang, Meiling Chen, Qicheng Jiang, et al. Laying Stage-Modulated Effects of Feed Restriction on Volatile Compounds of Wenchang Chicken Muscle Assessed by E-Nose, GC-MS and GC-IMS. Foods 2026-09-19. DOI: 10.3390/foods15183326. 原著ライセンス:CC BY.