同じ「肥満」でも、体に起きているリスクや、その背景にある食習慣は一人ひとり違います。近年注目されているのが、生まれ持った遺伝的な体質(多型)が、実際にどんな食事を選びやすいかや、代謝リスクにどう関わるかという視点です。ロシアの研究チームが、肥満のある成人348人を対象に、3つの遺伝子多型と日常の栄養素摂取、代謝リスクとの関連を男女別に調べた横断研究を報告しました。

どのように調べたのか

対象となったのは、BMIが30kg/m²以上の18歳から60歳までの肥満患者348人(男性83人、女性265人)です。頬の粘膜から採取した細胞を使い、アレル特異的リアルタイムPCRという手法で、MTHFR C677T、PPARG Pro12Ala、ADRB3 Trp64Argという3種類の遺伝子多型を調べました。あわせて、ロシアで標準的に使われているソフトウェアベースの質問票を用いて、18種類以上の栄養素について日常的な摂取量を評価しています。統計処理には、複数グループ間の比較に使うクラスカル・ウォリス検定やマン・ホイットニー検定を用い、比較を重ねることで生じる誤判定を防ぐためのボンフェローニ補正(有意水準0.017未満)を適用したほか、オッズ比とその95%信頼区間も算出されました。年齢・BMI・総エネルギー摂取量で調整した解析も行われています。

浮かび上がった男女差

ボンフェローニ補正後も統計的に有意だった関連は3つ報告されています。まず男性では、MTHFR遺伝子のヘテロ接合型(C/T型)を持つ人で、たんぱく質・脂質・ナトリウム・リンを過剰にとる高カロリーな食事パターンがみられ、高血圧のリスクも高いという結果でした(オッズ比5.96、95%信頼区間1.48〜24.08)。ただし、ナトリウムの摂取が多い理由は「塩辛いものを選んで食べている」というより、食事全体の量が多いこと(オーバーイート)の結果として説明されています。次に男性では、ADRB3遺伝子のTrp64Argを持つ人で、コレステロールの摂取超過が際立って大きく(平均摂取超過+466%、Trp/Trp型では+153%)、一方で女性では逆の傾向がみられたとされています。さらに女性では、PPARG遺伝子がG/G型の人で肝機能の指標であるALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の値が高くなる傾向があり、特に40歳未満で顕著だったと報告されています。これは食事との明確な結びつきが確認されたわけではなく、肝臓に関するリスクの目印として位置づけられています。なお、女性でMTHFRがT/T型の人では、糖類(単糖・二糖類)の摂取過多や高血圧傾向との関連も示唆されていますが、こちらはより厳密な補正(FDR補正)を経ると有意性が保たれず、著者らも独立した追試が必要だとしています。

この研究をどう読むか

著者らは、これらの結果をもとに、今後検証すべき仮説として、MTHFR C/T型の男性ではカロリー制限(それに伴うナトリウム摂取の低下)、ADRB3のArg64を持つ男性ではコレステロール摂取の見直し、MTHFR T/T型の女性では糖類摂取の見直しが代謝リスクの軽減につながるかもしれない、またPPARG G/G型の女性ではALTの経過観察が有用かもしれない、という方向性を提示しています。ただし、これはあくまで今後の前向き介入研究で確かめるべき「仮説」であり、現時点で臨床的な推奨や生活指導として断定できるものではないと著者ら自身が明記しています。単一施設での横断研究であることや、対象者に女性が多く男性が少ないことなど、結果の解釈には注意が必要です。

まとめ

今回の研究は、肥満に関わる遺伝子の型が、単に代謝リスクと結びつくだけでなく、実際にどんな食事をとりやすいかという行動面にも男女で異なる形で関連している可能性を示したものです。とはいえ、これは一つの横断研究であり、因果関係が証明されたわけでも、特定の食事法の効果が確認されたわけでもありません。遺伝情報に基づく食事アドバイスが将来的に男女別・個人別に発展していく可能性を示す、基礎的な手がかりの一つとして位置づけるのが妥当でしょう。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:I.A. Lapik, Inna Yu. Tarmaeva, D. B. Nikityuk. Sex-Specific Associations Between MTHFR, PPARG and ADRB3 Polymorphisms, Habitual Nutrient Intake and Metabolic Risk in Obesity: A Cross-Sectional Single-Centre Study. ニュートリエンツ (2026). DOI: 10.3390/nu18152522. 原著ライセンス: cc-by.