中国の伝統的な発酵肉製品「酸肉(サワーミート)」は、高濃度の食塩を使うことで独特の風味を生み出してきました。しかし塩分の摂りすぎは健康リスクを高めることが知られており、風味を保ちながら塩分を減らす加工方法が求められています。貴州大学の研究グループが発表したこの研究は、食塩(塩化ナトリウム、NaCl)の一部を別の塩に置き換えることで、酸肉の風味形成に関わる酵素の働きと揮発性の香り成分がどう変化するかを調べたものです。
塩化カリウムと二価塩を組み合わせて置き換え
研究チームは、酸肉づくりで使う食塩のうち40%を塩化カリウム(KCl)に置き換え、さらにそこへ二価の塩である塩化カルシウム(CaCl2)または塩化マグネシウム(MgCl2)を組み合わせるという方法を試しました。単にKClだけで置き換えるのではなく、二価塩を組み合わせた点がこの研究の特徴です。発酵中に肉のタンパク質を分解する酵素(プロテアーゼ)の活性を測定し、風味を左右する揮発性化合物の生成量との関係を調べています。
組み合わせる塩の種類で酵素の働き方が異なった
結果として、KClとMgCl2を組み合わせた場合と、KClとCaCl2を組み合わせた場合とで、活性化される酵素の種類に違いが見られたと報告されています。KCl-MgCl2の組み合わせでは、カテプシンB・カテプシンLおよびジペプチジルペプチダーゼIVという酵素の活性が高まり、揮発性化合物の増加につながったとされています。一方、KCl-CaCl2の組み合わせでは、ジペプチジルペプチダーゼIおよびアラニルアミノペプチダーゼの活性が上昇し、TCA(トリクロロ酢酸)可溶性ペプチドやアミノ酸の生成が促されたと報告されています。さらにPLS-DA(部分最小二乗判別分析)という統計手法を用いて、風味形成に重要と考えられる化合物(VIP値が1を超えるもの)が特定され、酵素活性と風味成分の生成との間に関連があることが示されたとされています。
この研究の位置づけ
この研究は、塩の種類や組み合わせを変えることで、酸肉の発酵に関わる酵素の働きを狙って調整できる可能性を示したものです。ただし、これは特定の条件下で行われた一つの研究であり、置き換える塩の種類や割合、対象とする発酵食品が変わった場合に同じ結果が得られるかどうかは、この要旨の情報だけでは判断できません。また、風味成分や酵素活性の変化が実際の食味や消費者の評価にどう結びつくかについても、この研究の範囲を超える点には留意が必要です。研究は貴州大学(中国)の研究者らを中心に行われました。
まとめ
今回の研究では、食塩の一部を塩化カリウムと二価塩(塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム)に置き換えることで、酸肉の発酵に関わる酵素の活性パターンが変化し、それぞれ異なる経路で揮発性風味成分の生成が促されたことが示唆されました。減塩と風味の両立を目指す加工技術の一つの手がかりとして注目される内容ですが、実用化に向けてはさらなる検証が必要と考えられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ying Chen, Ning Liu, Yuqian Guan, et al. Impact of KCl-divalent salt synergistic substitution on protease activity and volatile flavor profile in sodium-reduced sour meat. フード・ケミストリー・エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104294. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.