コガネバナ(Scutellaria baicalensis)は中国で古くから利用されてきたシソ科の薬用植物で、根は生薬として使われるほか、花や茎葉は日常的なお茶としても飲用されてきました。この植物には多糖という大きな分子の成分が含まれており、腸の状態を整える働きや、免疫・抗酸化に関わる作用が報告されているといいますが、フラボノイドなど低分子成分に比べると研究はまだ発展途上とされています。多糖を研究や応用に使う際にまず立ちはだかるのが「色」の問題です。熱水で抽出した多糖には色素やタンパク質などの不純物が混じり込みやすく、これが構造解析や機能評価の妨げになります。そこで今回、中国・陝西省の商洛学院の研究グループが、多孔性の吸着樹脂を使ってコガネバナ多糖から色素を取り除く処理(脱色)を最適化し、処理前後で多糖の構造や働きがどう変わるかを調べました。
樹脂での脱色条件を探る
研究チームはまず、HPD-600、HPD-450、D101、NKA-9、AB-8という5種類の大孔径樹脂を比較し、色素の除去率と多糖の残存率をあわせた指標で評価しました。その結果、HPD-600が総合的に最も優れているという結果になりました。次に、温度・処理時間・樹脂の使用量・緩衝液のpHという4つの条件を一つずつ変える予備実験を行ったうえで、統計的な実験計画法(応答曲面法)を用いて条件の組み合わせを最適化しています。最終的に導き出された条件は、温度38℃、樹脂量8g、pH3.4、処理時間2.9時間で、この条件のもとでの検証実験でも理論値に近い結果が再現されたとしています。論文では、この処理が有機溶媒を使わず、樹脂も繰り返し洗浄して再利用できる点から、比較的環境負荷の小さい精製方法になりうると位置づけられています。
脱色によって多糖の中身と形が変わった
脱色処理を行った多糖(SBP-D)は、未処理の粗多糖(SBP-C)と比べて総糖含量が上昇し、逆にタンパク質含量は減少しました。多糖を構成する単糖の内訳を調べたところ、SBP-Cではアラビノース・ガラクトース・グルコースなどが検出されましたが、脱色後のSBP-Dではこれらグルコース・アラビノース・ガラクトースの割合がいずれも有意に増えていたといいます。また、分子量を調べる分析では、低分子量域(3600〜3300 g/mol程度)の多糖が主体として残り、赤外分光や核磁気共鳴(NMR)による構造解析からは、α/β型の(1→4)結合を中心とした多重らせん構造を持つこと、熱に対してもある程度安定であることが示されました。さらに、粒子の大きさは32.26%、粒子表面の電荷を示すゼータ電位は52.36%それぞれ小さくなり、電子顕微鏡による観察では、脱色後の多糖はよりゆるい「シート状のらせん重なり」構造に変化していたと報告されています。メチルエステル化されたガラクツロン酸の割合も増えていました。
脱色後の多糖で確認された機能
これらの構造変化に伴い、脱色後のSBP-Dでは、水への溶けやすさ(水溶解性)、吸湿性、保水力・保油力、乳化のしやすさが向上したとされています。抗酸化作用の指標であるDPPHラジカルおよびヒドロキシルラジオの消去活性、さらに糖の分解に関わる酵素であるα-アミラーゼとα-グルコシダーゼへの阻害活性についても、脱色後のほうが強まる傾向が確認され、それぞれの働きを50%弱めるのに必要な濃度(IC₅₀)は、DPPHラジカル消去が0.19 mg/mL、ヒドロキシルラジカル消去が0.25 mg/mL、α-アミラーゼ阻害が0.73 mg/mL、α-グルコシダーゼ阻害が0.24 mg/mLだったと報告されています。加えて、蛍光分光法を用いた解析では、この多糖がα-グルコシダーゼやα-アミラーゼの働きを、基質が結合する部位とは別の場所に作用する「非競合的」な様式で、かつ「静的消光」と呼ばれる仕組みで抑える働きを持つことが示され、脱色後の多糖でその効果がより強く見られたとされています。
この研究をどう受け止めるか
この研究は、実験室レベルでの成分分析と試験管内(in vitro)での機能評価にとどまるものであり、動物や人での効果を確かめたものではありません。抗酸化作用や酵素阻害活性が「強まった」とされているのはあくまで試験管内での反応の結果であり、これが食品やサプリメントとして摂取した場合の健康効果を直接示すものではない点には注意が必要です。また、今回得られた知見は特定の産地・抽出条件のコガネバナ由来の多糖を対象としたものであり、著者らも他の研究とは単糖組成の傾向が異なる結果が出た点に触れ、その違いは植物の産地や抽出・精製方法の違いによる可能性があると述べています。あくまで一つの研究成果であり、今後さらなる検証が必要な段階といえます。
まとめ
今回の研究は、コガネバナ由来の多糖を大孔径樹脂HPD-600で脱色処理することで、色素やタンパク質などの不純物を減らしつつ、糖の構成や分子の大きさ、表面の性質までもが変化し、それに伴って抗酸化作用や消化酵素阻害活性といった試験管内での機能が高まる可能性を示したものです。研究チームは、この脱色プロセスが機能性食品や健康関連製品の原料としてコガネバナ多糖を活用するための、精製方法の一つの選択肢になりうるとしています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Heping Hui, Haoji Mao, Bowen Wang, et al. Macroporous-resin decolorization alters structure and bioactivity of Scutellaria baicalensis polysaccharides. アラビアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー (2026). DOI: 10.25259/ajc_1081_2025. 原著ライセンス: cc-by-nc-sa.