魚油には健康に良いとされる多価不飽和脂肪酸(PUFA)が豊富に含まれていますが、この種の脂肪酸は酸素や光、熱にさらされると酸化しやすく、風味の劣化や栄養価の低下を招くという弱点があります。魚油を食品や機能性素材として活用する際、いかに酸化を抑えて品質を保つかは長年の課題とされてきました。今回、タイのプリンス・オブ・ソンクラー大学(Prince of Songkla University)水産科学・イノベーション国際卓越センターの研究者らが、シーバス(スズキ科の魚)から得た魚油を、キトサンとトリポリリン酸(TPP)を組み合わせたナノ粒子に封入することで、酸化を抑えられるかを検証した研究がアプライド・フード・リサーチ誌に2026年8月に掲載予定です。
どのようにナノ粒子を作り、何を調べたのか
研究チームは、乳化とイオン架橋という2段階の工程を用いて、シーバス油をキトサン-トリポリリン酸ナノ粒子(CSNP)の中に閉じ込めました。ここでポイントとなったのが、芯となる油(コア)と、それを包む壁材(キトサン-TPP)の比率です。この比率を変えることで、できあがるナノ粒子の性質が大きく変化することが確認されました。具体的には、油を粒子内に取り込めた割合を示す封入効率は33.38〜63.42%、粒子重量に対する油の含有割合を示す負荷容量は19.18〜26.68%という範囲で変動しました。また粒子の大きさ(平均直径)は144.50〜317.73ナノメートル、粒子サイズのばらつきを示す多分散指数は0.15〜0.24、粒子表面の電気的な性質を示すゼータ電位は+4.03〜+41.07ミリボルトの範囲に収まったと報告されています。
粒子の構造や性質は複数の分析手法で確認されました。赤外線を使ったFTIR分析では、シーバス油とキトサン-TPPの間に分子レベルでの相互作用があることが示され、電子顕微鏡(SEM)による観察では、できあがったナノ粒子が球形をしていることが確かめられました。さらに熱の出入りを調べるDSC分析では、油を閉じ込めたナノ粒子は、閉じ込める前とは異なる熱の挙動を示すことも分かりました。
8週間の保存でわかった酸化安定性の違い
もっとも注目すべき結果は、8週間にわたる保存試験です。ナノカプセルに封入した油は、封入していない対照の油と比べて、統計的に意味のある差(p<0.05)をもって酸化が抑えられていたことが示されました。加えて、健康に関わるとされる多価不飽和脂肪酸についても、封入した油のほうが保存中の減少が少なく、有意に良く保持されていたことが確認されています(p<0.05)。研究チームはこの結果について、ナノカプセル化が魚油の栄養的な劣化を防ぐうえで有効であることを裏付けるものだとしています。
この研究をどう受け止めるか
今回の研究は、キトサンとトリポリリン酸を使ったナノ粒子への封入が、魚油の酸化を抑え、栄養成分を保つための実用的な工夫になりうることを示唆するものです。ただし、これは特定の条件下で行われた一つの研究であり、ここで示された数値や効果がすべての魚油や保存環境にそのまま当てはまるとは限りません。また、この技術がヒトの健康にどのような影響を与えるかについては、本研究の範囲では検証されていない点にも留意が必要です。
まとめ
シーバス油をキトサン-トリポリリン酸ナノ粒子に封入する今回の手法は、コアと壁材の比率によって粒子の大きさや効率が変わることを踏まえつつ、8週間の保存において酸化の進行を抑え、多価不飽和脂肪酸の保持に役立つ可能性が示された研究といえます。魚油の品質保持という食品加工上の課題に対し、ナノ技術を応用した一つのアプローチとして今後の展開が注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Thanasak Sae‐leaw, Soottawat Benjakul. Encapsulation of seabass oil in chitosan-tripolyphosphate nanoparticles: Physicochemical characterization and oxidative stability during storage. アプライド・フード・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.afres.2026.102485. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.